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1年生1学期
4月17日(土)雨 変な人との出会い
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先週の僕から託された書くことがない土曜日だが、今日は書くことが起こった。
この日、僕は地元の図書館に行ったからだ。書くネタを作るためというのも少しあるけど、文芸部に入ることにしたのなら本を読む習慣を取り戻さなければならないと思ったのが一番の理由である。
家から徒歩で15分ほどで高校とは真反対の方向にある図書館は、冷暖房が効いて過ごしやすいことから中学時代もたまに訪れていた場所だ。
もちろん、本を借りて読むことはあったけど、熱心な読書家というわけではないので、一時期急に何冊も読むこともあれば、全く読まない時期もあった。
図書館に到着した僕は、少し前に話題になった本を2冊探してから読書スペースに座った。それから鞄を開くと、日記帳を机の上に出す。
そう、せっかく図書館に来たのだから、この落ち着いたスペースで今日来るまでの道筋や以前とは少し内装が変わっていた図書館の話を書こうと思っていたのだ。図書館の空気感は、自分の部屋とは違う静けさがあって、読み書きするのに非常に適していると思う。
(これで2週間か……とりあえずは続いて良かった)
今日のことを書く前に、これまでの記録を振り返ってみた。まだ数ページでしかないけれど、こうやって自分の周りの出来事をすぐ見られるのは、思ったよりも面白く感じる。始業式の時点では緊張している部分が多かったのに、一週間過ぎればそれもなくなっていることがよくわかった。
(とにかく中途半端にならないよう次は半年を目標に……)
「おい、キミ。私はまだそのページを読み終わってないぞ」
「あっ、すみませ……えっ?」
僕が振り向くと、鼻の頭にさらりとした長い髪が触れた。そうなったのも仕方ない。座っている僕が持つ日記帳をとんでもなく近くで覗き込む女性が後ろにいたのだ。
「な、何ですか、あなた!?」
「しっー……図書館では静かにしたまえ。だが、聞かれたからには答えないといけないな」
一瞬で矛盾することを言った女性は決めポーズっぽい体勢をとって言う。
「私は清水夢愛。清らかな水に夢を愛すると書いて、しみずゆあだ」
丁寧に個人情報を教えてくれた清水さんは、ドヤ顔で僕を見てきた。
まずい、この人……変な人だ。
「えっと……なぜ僕の読んでるものを覗いたんですか?」
「見たことない本を読んでいたからふと興味を持ってな。その本は自伝かい?」
「いえ……僕の日記です」
「そうかそうか。どうりでそれほど盛り上がらない展開だと思った」
失礼極まりない発言だけど、実際そうなので思うような反論ができない。そんな僕はほったらかしで清水さんは何かを閃く。
「ということは、今日の日記には私も書かれることになるな。名前もバッチリ名乗ったし、ちゃんと美少女っぽく描写しておいてくれ」
「それは……わかりません」
嘘だ。こんなに書いておくべきネタになる人はそうそういない。ついでに美少女なのもたぶん嘘じゃない。まともに観察する暇はなかったけど、ちょっと触れた髪からいい匂いがしたし、決めポーズも何となく様になるスタイルだった。
だけど、いくら良いネタでこの人が美少女でもちょっと言動がおかしな人の相手はしたくない気持ちがあった。
「夢愛」
そんな僕を助けてくれたのは、変な人の名前を呼んだ一人の女性だった。その人の顔は優しい雰囲気があるけど、この瞬間に限って言えばどこか怖さを感じる圧があった。
「何か迷惑かけたの?」
「いや、彼の読んでいるものを覗いていただけ」
「はぁ……ごめんなさいね。この子に悪気はないから許して貰えると嬉しいのだけど……」
そう言われてしまうと許すしかない、というか僕は別に怒っているわけじゃなかった。むしろ、助けてくれたことを感謝したいくらいだ。
「いえ、それほど困ったわけではないので……」
「ありがとう。夢愛、あなたも謝って」
「すなまい……盛り上がらないとは言ったけど、面白くなかったわけじゃないんだ」
そっちを謝って欲しいとは思ってないけど、僕はひとまず愛想笑いをしておく。それから清水さんは引っ張られるようにして連れて行かれた。見た感じ母親や姉ではないから、あの女性は友達なのだろうか。
「……帰るか」
図書館に行ったネタを書こうと思っていたけど、ここまで大事になる予定はなかった。今日学べることがあったとすれば、日記は外に持ち出すものではないということだ。
この日、僕は地元の図書館に行ったからだ。書くネタを作るためというのも少しあるけど、文芸部に入ることにしたのなら本を読む習慣を取り戻さなければならないと思ったのが一番の理由である。
家から徒歩で15分ほどで高校とは真反対の方向にある図書館は、冷暖房が効いて過ごしやすいことから中学時代もたまに訪れていた場所だ。
もちろん、本を借りて読むことはあったけど、熱心な読書家というわけではないので、一時期急に何冊も読むこともあれば、全く読まない時期もあった。
図書館に到着した僕は、少し前に話題になった本を2冊探してから読書スペースに座った。それから鞄を開くと、日記帳を机の上に出す。
そう、せっかく図書館に来たのだから、この落ち着いたスペースで今日来るまでの道筋や以前とは少し内装が変わっていた図書館の話を書こうと思っていたのだ。図書館の空気感は、自分の部屋とは違う静けさがあって、読み書きするのに非常に適していると思う。
(これで2週間か……とりあえずは続いて良かった)
今日のことを書く前に、これまでの記録を振り返ってみた。まだ数ページでしかないけれど、こうやって自分の周りの出来事をすぐ見られるのは、思ったよりも面白く感じる。始業式の時点では緊張している部分が多かったのに、一週間過ぎればそれもなくなっていることがよくわかった。
(とにかく中途半端にならないよう次は半年を目標に……)
「おい、キミ。私はまだそのページを読み終わってないぞ」
「あっ、すみませ……えっ?」
僕が振り向くと、鼻の頭にさらりとした長い髪が触れた。そうなったのも仕方ない。座っている僕が持つ日記帳をとんでもなく近くで覗き込む女性が後ろにいたのだ。
「な、何ですか、あなた!?」
「しっー……図書館では静かにしたまえ。だが、聞かれたからには答えないといけないな」
一瞬で矛盾することを言った女性は決めポーズっぽい体勢をとって言う。
「私は清水夢愛。清らかな水に夢を愛すると書いて、しみずゆあだ」
丁寧に個人情報を教えてくれた清水さんは、ドヤ顔で僕を見てきた。
まずい、この人……変な人だ。
「えっと……なぜ僕の読んでるものを覗いたんですか?」
「見たことない本を読んでいたからふと興味を持ってな。その本は自伝かい?」
「いえ……僕の日記です」
「そうかそうか。どうりでそれほど盛り上がらない展開だと思った」
失礼極まりない発言だけど、実際そうなので思うような反論ができない。そんな僕はほったらかしで清水さんは何かを閃く。
「ということは、今日の日記には私も書かれることになるな。名前もバッチリ名乗ったし、ちゃんと美少女っぽく描写しておいてくれ」
「それは……わかりません」
嘘だ。こんなに書いておくべきネタになる人はそうそういない。ついでに美少女なのもたぶん嘘じゃない。まともに観察する暇はなかったけど、ちょっと触れた髪からいい匂いがしたし、決めポーズも何となく様になるスタイルだった。
だけど、いくら良いネタでこの人が美少女でもちょっと言動がおかしな人の相手はしたくない気持ちがあった。
「夢愛」
そんな僕を助けてくれたのは、変な人の名前を呼んだ一人の女性だった。その人の顔は優しい雰囲気があるけど、この瞬間に限って言えばどこか怖さを感じる圧があった。
「何か迷惑かけたの?」
「いや、彼の読んでいるものを覗いていただけ」
「はぁ……ごめんなさいね。この子に悪気はないから許して貰えると嬉しいのだけど……」
そう言われてしまうと許すしかない、というか僕は別に怒っているわけじゃなかった。むしろ、助けてくれたことを感謝したいくらいだ。
「いえ、それほど困ったわけではないので……」
「ありがとう。夢愛、あなたも謝って」
「すなまい……盛り上がらないとは言ったけど、面白くなかったわけじゃないんだ」
そっちを謝って欲しいとは思ってないけど、僕はひとまず愛想笑いをしておく。それから清水さんは引っ張られるようにして連れて行かれた。見た感じ母親や姉ではないから、あの女性は友達なのだろうか。
「……帰るか」
図書館に行ったネタを書こうと思っていたけど、ここまで大事になる予定はなかった。今日学べることがあったとすれば、日記は外に持ち出すものではないということだ。
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