元天才少女で現サボり魔の美少女は真面目な僕の爪の垢を狙っている

ちゃんきぃ

文字の大きさ
上 下
16 / 31
3.用事と信頼と彼女の過去

3.4

しおりを挟む
 本日の晩ご飯は鶏肉のバターソテーと付け合わせの温野菜、急遽追加された砂糖入りの甘い玉子焼き、炊き立ての白いご飯だ。小食の式見はご飯を遠慮したけど、メインの二つを見る目は僕の弁当を見る時と同じような輝きがあった。恐らくこういうしっかりとした晩ご飯も久しぶりなんだろう。
「それじゃあ、頂きましょうか」
「あ、あの……ソーイチパパさんは待たなくていいんですか?」
「今日は昼から夜中にかけての交代勤務なのよ。だから、帰って来るのは夜中になるわ」
「そうだったんですか」
「ええ。だからこのまま食べちゃいましょう。それじゃあ、改めましていただきます~」
 母さんの言葉に僕達も「いただきます」と続ける。いつもならこんな合わせるようなことはせずに各々言っているので、今日の母さんが妙な張り切り方をしているのがわかる。まるで小学生の時に戻ったようだ。
「式見ちゃん、玉子焼きも遠慮しないで食べてね。何か調味料が欲しかったら言ってくれたら出すわ」
「大丈夫です。この甘い感じが好きなので――はむ――できたても美味しい」
 自然な感想が出た式見を、母さんはいつになくニコニコした顔で見つめる。僕や朱葉も食卓であまり見ない料理なら新鮮な感想を出せるけど、玉子焼きは食べ慣れているのでここまでの反応はできなかった。それが母さんからすると、嬉しいことだったのだろう。
「わたしも友達とお弁当交換した時は玉子焼きが一番美味しいって言われたけど……式見さんは本当にいいリアクションしますね」
「そ、そんなに?」
「はい! 見てくださいよ、このお母さんの嬉しそうな顔」
「だって~ 直接美味しそうに食べてくれるの見ると嬉しいに決まってるじゃない~」
 朱葉と母さんは食べている間も適度に式見と絡んでいく。それを受け取る式見も少々照れている感じはあるものの、楽しそうな雰囲気が伝わってきた。
 一方の僕は普段の食事中もそれほど積極的に喋っているわけでないが、今日に関しては上手く会話に混ざれなかった。
 先ほどの発言から母さんが余計なことを言うのではないかと気が気でなかったのだ。
「それでね~ さっきの話の続きなんだけど、そーちゃんが……」
「か、母さん!」
 そして、予想通り母さんはその話を掘り返そうとする。
 でも、僕がどう言っても母さんは止められないことはわかっていた。
 母さんからすると、それは喜ばしい話題で、恥ずかしがるようなことではないのだから。
「いいじゃない~ 式見ちゃんね。そーちゃんが学校のお友達のこと話すの、凄く久しぶりだったのよ」
「……そうなの?」
 式見はそれを朱葉に聞き返すと、朱葉は軽く頷いた。
「はい。お兄ちゃん、あんまり学校のこと話すタイプじゃないですから」
「そうなんだ……ふーん」
 良いことを聞いたという顔で式見が見てくるので、僕はお茶碗で視界を遮った。
 ああ……だから嫌だったんだ。僕は式見に聞かれることはないと思って、母さんに話していたのに。
「だから、あげはちゃんから連絡来た時に、もしかしたらってそのお友達かもって嬉しくなっちゃって」
「すみません。事前に連絡もせず突然お邪魔してしまって」
 式見は母さんに対して、僕と話している時とはまるで違う丁寧な受け答えをする。荒巻先生には終始舐めた態度だったから少し意外だ。でも、学校で病弱キャラを演じているから二人の前ではいい感じに振舞おうとしているようにも見える。
「ほんと、今日はもう遅いから式見ちゃんさえ良かったら、泊まってくれてもいいのよ?」
 そう、たとえば母さんからこんな言葉を引き出すために――式見を泊める???
「何言ってんの母さん!? 明日も学校あるのに!?」
「朝ご飯なら作るから大丈夫よ~」
「そういう問題じゃないが!?」
 さっきの発言から、母さんはあくまで式見を……僕の友達だと思っていることはわかる。
 だけど、それで式見を泊めるのはさすがに受け入れ過ぎだ。
「いいじゃない、お兄ちゃん。わたしの部屋なら喜んで貸すよ?」
「そうじゃなくて!」
 いくら妹の朱葉が良くてもここは僕が住む家でもあるんだ。
 同級生の男子の家に女子が泊まるという状況をよく考えて貰わないと困る。
 それにそもそも僕と式見は――
「私はソーイチがいいと言ってくれるならお言葉に甘えさせて貰います」
「なっ!?」
 式見は箸を止めて僕のことを見てくる。
 ここで僕に判断を委ねるのは――完全に足元を見られている。
 だって、二人が式見を泊らせることに肯定的なのに、連れて来た僕が拒否するのは全く空気が読めていない。
 そういう不和を生むようなことは、僕の性格上できないのだ。
「……わかった。もう遅いし、今日は泊まっていけばいい……式見が良ければ」
「ありがと。それじゃあ、泊まらせて貰います」
 式見の答えに朱葉と母さんはにこやかに頷き、僕はため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...