それでも君に恋をした

米猫

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本編

4、出会いは再会

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更新が遅くなってしまい申し訳ありません。作品を読んでくださった方・お気に入り登録して下さった方ありがとうございます。









目の前の人物を見た瞬間、時が止まったような感覚に陥った。

変わらない顔、変わらない身長、変わらない制服姿がそこにはあった。

でも、1つ変わったことがある。いや、きっとそれも変わってないのであろう。


(声は··········聞こえないや·····)


聞こえなくても思い出せる。少し低めの落ち着いた声。人によっては無愛想だと言う人もいるかもしれないが、俺にとってその声は心地のいいものだった。

俺にとってこの出会いは再会だった。腕の中で冷たくなっていくフレッドは目を閉じればその姿が浮かんでくる。1度失ってしまった最愛の人。

今でも愛している人·····いや、愛していた人の方が正しいのだろうか?その人が今目の前で生きている。

その事実がアッシュの心をギュッとしめつける。その痛みなのか、嬉し涙なのかわからない。いつの間にか頬は涙で濡れていた。


「~~?~~!」


目の前にいるフレッドはアッシュが涙を流したことに驚いたのかオロオロとし始めた。

その姿は以前と変わらない。真面目な性格のせいで人と関わることが苦手なくせに他人がこうやって悲しんでいると手を差し伸べようとしてくる。


(やっぱり·····君はなにも変わってないんだね)


アッシュは流していた涙を必死に止める。そして、フレッドにペコッと頭を下げる。


「いきなり泣いてごめんね?」

「~~?」

「あっーあと、俺音聞こえないんだ·····ごめん。」


あまり、周囲に言い出したくないことだがコミュニケーションを取れない今その事実を伝えなくてはいけない。

フレッドはその言葉を聞くと近くに落ちていた木の枝を取り地面に文字を書き出した。


【俺も配慮が足りなかった】

「大丈夫だよ。だって·····初めて会ったんだし!知らなくて当然だよ。」

【そうか。ありがとな。】

「遅くなったけど、俺はアッシュ!アッシュ・バードン。君は?」


もちろん、聞かなくても知っている。この世で誰よりも君を知っている·····はず。


【俺はフレッド・ディアスだ。】

「フレッド·····君?」

【君はいらない】

「じゃあ、俺もアッシュで!」


そう言うとフレッドは頷いた。もう少し話していたいが講堂に行かなくてはいけない時間だ。だが、その前に1度シリルと合流した方がいいかもしれない。


「もうそろそろ時間だから講堂行かなきゃだね。俺、兄に1度会わなくちゃ行けないからもう行くね。」


アッシュはフレッドに手を振ると向こうも小さく手を振ってくれた。
 

(前と同じなら多分クラスも一緒になるはず) 


アッシュはいるかもわからない神に同じクラスになれるよう祈った。

講堂の近くまで戻るとタイミングが良かったのかシリルが居た。シリルもアッシュに気づいたのか笑顔でこちらに近づいてくる。

そして、目の前まで来るとアッシュ~と言いながら抱きついてくる。文字に出さなくてもわかる。この行動はいつもの事だ。


(流石に恥ずかしいからやめて欲しい!)


そう思い自分にくっついているシリルをはがす。


「兄さん!恥ずかしいからやめて!」

【ぐすっ·····アッシュが冷たい·····】


恥ずかしい文字を書く実の兄をアッシュは冷たい目で見る。


「はぁ·····兄さん。それで魔道具の方は?」

【問題ない!】


そう言って渡されたのは持ち運びできるサイズの小さな端末だった。


「これの使い方って試験で使ってた時と変わらない?」

【あぁ!使い方は変わらないが性能はアップしてる】


アッシュは受け取った魔道具を使い始める。しっかり声が文字になって画面に表示されている。問題なく使えそうな事にアッシュは安心する。


「兄さん、ありがとう。」


そう言ってアッシュが笑うと、目の前でシリルが地面に崩れる。


【ぐっ、俺の弟が·····かわいい·····】


アッシュはもう付き合ってられないと思い地面に崩れているシリルを見捨てて講堂に向かった。


(あのブラコン具合そろそろどうにか出来ないかな?·····恥ずかしいんだけど)


さっきのやりとりも大勢の人に見られていた。だが、シリルがアッシュを溺愛しているのは意外と有名な話だ。

近くにいたシリルの友人もやれやれといった目でシリルを見ていた。


(兄さんもいい友達持ったよな·····)


アッシュは自分にも以前と同じように友達ができるといいなと思いながら講堂へ向かい入学式兼進級式を受けた。

その後、張り出されたクラス表を見たあと自分のクラスへと向かっていった。
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