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本編

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やらなければいけない仕事を終えメルヴィルは屋敷へと帰ってきた。


「メルヴィル様お帰りなさいませ。」

「あぁ、セバス。お義父様とお義母様は到着されたか?」

「はい。予定通りにお着きになられました。そして、メルヴィル様がお帰りになられたら執務室にすぐに来るようにとのことです。」

「··········わかった。すぐに向かう。」


メルヴィルは薄々話される内容に検討はついた。重たい足を引きずりながらメルヴィルは執務室へ向かった。




コンコンと執務室のドアをメルヴィルが叩く。すると中から入れとの返事がありメルヴィルは執務室に入っていく。

中に入ると執務室のソファーにテオドールとルイスが向かい合って座っていた。


「お父様、お帰りなさいませ。」

「久しいな、メルヴィルよ」

「お久しぶりです·····お義父様」


メルヴィルは座れと言われ、ルイスの前テオドールの横に座った。


「さてメルヴィル、ワシがなんでここにいるかはもうわかっているだろう?」

「··········はい。」


メルヴィルは恐る恐るルイスの顔をみる。義理父の顔は怒気を帯びており大人の自分でも身体が震えそうだった。


「なぁ、ワシがテオドールが産まれる前からお前たちに言ってたことがあるだろう?」

「はい·····」

「覚えてるなら言ってみろ。」

「子供は宝。大切に育て守れ··········と」


メルヴィルの声は微かに震えていた。ルイスはその震えを直ぐに感じとった。


「メルヴィル·····ワシが怖いか?」

「いえ·····怖くありません。」

 「そうだよな?この程度で怖いわけがないよな?」


ルイスはソファーから立ち上がり手を伸ばした。
伸ばされた手はメルヴィルの胸ぐらを掴んでいた。


「お前は、バカなのか?本当に父親なのか!?」


ルイスの怒鳴り声が部屋中に響く。テオドールもその声にビクリと身体を跳ねさせる。


「お前がワシに対し怖いと思っていたとしても、ルーカスはその何倍も怖い思いも痛い思いもしてきたんだぞ!?」


その言葉はメルヴィルの心に重くのしかかる。
今までルーカスは親の庇護も受けずに生きてきた。実母からは虐げられ実父からは無視をされ·····苦しくないわけが無い。


「·····ごめんなさい」

「それは、ワシに言う言葉ではないだろう!?」


本当にそうである。ルイスではなく本人であるルーカスに言わなくてはいけない言葉である。


「確かに、オリビアを甘やかして育てたワシらにも非がある。だが、メルヴィル·····お前はアイツのパートナーだろ?」

「··········はい。」

「だったら、パートナーが悪い道に進もうとしたら止めるのがお前の役目でもあるだろ!?」


ルイスはそう怒鳴るとメルヴィルの胸ぐらから手を離した。


「そうです。私はパートナーの役目も親としての役目も果たさず·····生きてきました。」

「そうだ。お前は貴族としての責務を果たしてもそれ以外の責務は全うできていないじゃないか!」

「お爺様·····それは、お父様だけではなく私もです。」


テオドールは父だけが怒られるのは筋違いだと思います口を開いた。


「··········どういう事だ?」

「私は、長い間この屋敷に帰ってきませんでした。実の弟がどんな扱いを受けているのか薄々気づいていたのに·····母親に会いたくないという理由だけで見放していました。」


テオドールは真っ直ぐ祖父の目を見ながら語る。


「メルヴィルよ·····どうしてお前みたいなやつからテオドールみたいな子が育つんだ·····」


メルヴィルとは違いテオドールは意思の強い目でルイスを見ていた。


「本当にそうです。私はこの子がいなければまだ現実から目を背けようとしてたと思います。」

「はぁ·····お前というやつは·····」


呆れた目でルイスはメルヴィルを見る。


「お前達はこの先どうするつもりだ?もし、どうにも出来ないと言うのであればソフィアに話をしてワシたちがルーカスを連れてくぞ?」

「それは·····」


きっとこの家にいない方がルーカスにとっては幸せなのかもしれない。  


「きっと、ルーカスはこの家が嫌でしょう。オリビアや私から受けた仕打ちを思い出すこの家では·····」


だが、心のどこかでそれを拒否する自分がいる。しかし、ルーカスを引き止める権利なんて自分には存在しない。


「·····それでも·····」

「テオドール?」


隣に座るテオドールが小さく呟く。


「私達は確かにルーカスに酷いことをしました。謝っても·····きっと遅いです。許してくれなんて言える立場でもないことは重々承知しています!」


テオドールは秘めていた思いを全て吐き出すことにした。


「それでも·····私は·····今からでも、ルーカスの兄になりたいんです!一緒にご飯を食べて、勉強をして、遊んで··········今までルーカスが1人でやってきた事をこれからは傍で支えて一緒にやっていきたいんです!!」


テオドールは涙を流しながら訴えた。


「私もテオドールと同じです。父として私は何もしなかった。今更父親にならせてくれなんて都合の良いことだと思っています·····」


メルヴィルは1度下を向く。

きっと今から決意することは長年寄り添ったパートナーのオリビアを捨てることだ。
捨てる·····というより寄り添う相手をルーカスに変えることだ。


「けれども、父親の役目を·····果たさなくていけないんです。それが出来なければ罪を償ったとしてもルーカスの父親を少しでも名乗ることなんて出来ません!」


メルヴィルはルイスの目をみる。お互いにしばらく視線を交わしたあと、ルイスは1つため息をついた。


「お前達は何かを勘違いしている。お前達の処遇はワシが決めることじゃない。ルーカスだ。」


ルイスのその言葉にテオドールとメルヴィルは頷く。


「だが、お前達が償いたいと言うのであればワシも力を貸す。·····オリビアをあんな風に育ててしまったルーカスへの謝罪として。」


メルヴィルはルイスに向かって頭を下げる。


「どうか·····よろしくお願いします。」

「頭を下げるな。下げる相手が違うと先程から言ってるだろう。」


テオドールは父が祖父に向かって頭を下げた意味を理解し自分も頭を下げた。


「お爺様·····私からも」

「はぁ·····お前もか。」


きっとルイス達が来なければルーカスはこのままであっただろう。2人は感謝の意を込め頭を下げた。


「2人とも顔を上げろ。」


その言葉を聞き2人は顔を上げる。


「オリビアのことはワシに任せろ。それがワシがルーカスに出来る最大の償いだ。その後はお前らがどうにかするんだ。その役目はワシではないからな。」


ルイスのその言葉に2人は自分がやるべき事を思い描いた。


「行動するなら早いうちがいいだろう。今日中に決着を付けるぞ。」


ルイスがそう言うとメルヴィルとテオドールは頷いた。

そして、3人はしばらく執務室で作戦会議をしていた。
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