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己も悪いのだ
しおりを挟む昨晩泊まった高級ホテル、私はそのまま連泊し、本日はショップの視察だ。
三ヶ月ぶりのデートも兼ねてジャンも誘ったのだが、「あ~……明日はぁ~~……」と目が泳いだので恐らくまたモニカと何処かに出掛けるのだろう。
腹が立つし証拠を集めたいが、視察は仕事であるためそちらが優先だ。
(そんな感じで仕事を優先してジャンを放ったらかしにしてた私も悪いんだけど)
「じゃあ、また帰るときに寄るわね」
「うん。頑張って!」
アイビーいつも有難う、と言うことはちゃんと言ってくれる男なので手酷く突き放せないのが悔しい。
ジャンが人間のクズであるならば私も容赦しないのに。
彼が憎めない男だから、彼の正しい扱い方も知らぬような女に寝取られたなんて悔しすぎる。
あまりにも悔しいから、私が居なきゃ生きていけない人生にしてやろうじゃないの。
ふん、と勢いよく鼻を鳴らして、視察へと出掛けた私だった。
──そして案の定、奴等を目撃したのである。
視察も終わり、ホテルへの帰り路。
日が沈み、僅かに残る橙の空が幻想的な時間帯。
道路の反対側には大層にも仮面をつけて変装しているが、隠しきれないイケメンオーラ。
そして隣には艷やかな黒髪が美しく、イケメンに相応しい女。
わなわなと拳に力がるが、とりあえず一度深呼吸。
桃色の瞳に似合う桃色のドレスを纏った彼女は、どう観察してもコート男爵家では買えぬ高級ブティックのドレス、そしてこちらも高そうな仮面。
(いやまさか。…………そのまさかだったら本気で許さねェ……)
婚約者が頑張って稼いだお金を他の女に充てるなど許すまじ。
と言うか二人とも単なる変装ではなくドレスアップしているように見えるのだが。
暫く後を付いて証拠を収めていると、なんと二人は宮殿へと入っていくではないか。
一体どういうことだ?
何故二人が宮殿に?
まさか正式に婚約者の座を奪われる?
一度仕事のスイッチを切ってしまうと簡単に思考停止してしまう。
脳内処理が追いつかず宮殿の中へと消えていく二人を眺めていると、その後ろにも続々と似たように仮面をつけている貴族達。
「あ……そうだわ……そういえば今夜は仮面舞踏会だったっけ……」
そりゃあ私とのデートも断るわけだ。
貴族層をターゲットにしていないメリーウェザー領の事業、社交界に顔を出すより王都を視察したほうがよっぽど有意義なのだが、それはあくまでメリーウェザー家の意見である。
しかしいくら目元を隠そうが、その人の雰囲気である程度予想はつくだろうに。
貴族の噂が事業にまで影響しなければいいけれど。
(あぁ……でも、いくらシステムトラブルの対応していたからって、家にも招待状は届いていたのにジャンを放ったらかしにしてしまった私も悪いのよね……)
だからと言って他の女に突っ込んだ事を許す訳はないので、参加者の入場手続きが一通り終わったら私も潜入することにした。
どうせ性欲大魔王の事だから二階の休憩室や庭園の奥なんかで一発でも二発でもやってしまうのだろう。
「まさかこんな事でこれを使うとは……曾御祖父様、誠に申し訳ありません……」
これとは我がメリーウェザー家に伝わる宝──、その昔財政危機に陥った国を先々代が領地事業改革によって救った功績を称え贈られた品だ。
朗らかな天気の象徴である太陽をデザインした、大きなペリドットのネックレス。
これを見せれば宮殿の出入りなんて何のその、メリーウェザー家だけの許可証は、簡単に言えば『通りぬけフープ』である。
「ご令嬢、招待状と仮面を……あ、失礼致しました」
「こんな日にごめんなさいね、用事を済ませたら直ぐに帰るわ」
そうして難なく潜入して、遠くからでもイケメンオーラを隠せぬジャンを発見し証拠集めに勤しんでいたのだが……。
──「誰だ! そこで何をやっている!?」
少し勤しみすぎたようだ。
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