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証拠集め

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(あのクソアマは一体何処のどいつだってやんでい!? あぁあ!?)

 出発時間が押して王都はすっかり夜の街。
 トラブルが一段落したから少しでも早く会いに行かねばと思い急いで準備をしたっていうのに。
 泊まる場所も予約してなかったけれど頑張ったから少し良いホテルにでも宿泊しようかな、なんて眺めていたが、黄金色に輝く高級ホテルに入っていく見慣れた人物。


「あらあらあら、まぁまぁ。そうですかそうですか、私と泊まる為に予約してくれたんですかねぇーえ??」


 ムカムカと込み上げてくる怒りに、「ハッ! いけない!」と父の教え其の四を思い出し、一度深呼吸をした。
 そうだ。
 其の一、顔が良いからって本気で好きじゃないのだし、
 其の二、嫉妬に心まで蝕まれてはいけないのだ。
 そうだ。
 そして其の三──、やり返すなら情報を集め己が不利にならないこと。


「……ふん。さて、それでは後を追いましょうか?」


 じっくりコトコト美味しく戴く為に、ね。
 王都へ来る時はショップの視察も兼ねているからカメラは持っているし、制服ではないちゃんとしたドレスだって持ってきている。
 ホテルのスタッフには何とか事情を説明し、近くの部屋を空けてもらった。
 悪いがこの国でメリーウェザーの名を知らぬ者は居ないに等しい。
 父然り私自身も社交界にはあまり顔を出さないが、ビジネスにおいては他のどの貴族よりも優れている。
 安定した利益と先見の明、ただし欲張りは厳禁。


 ──朝になった。いや、正確には昼前。
 昨晩はさぞお楽しみだったのでしょう。
 沢山頼んだルームサービス、いったい誰が払うのでしょうか。
 月末までに提出してくる領収書が楽しみだ。
 私とのプライベートならば許しても、会社の経費で落とそう等と考えているのならば証拠として残すのみ。
 と言うか提出してくる時点でどうかと思うが、ジャンの事だから経費で落とせば良いと思っているのだろう。
 会社を何だと思っているんだ。
 そこまで甘やかした覚えはないのだが。

 ジャンと浮気相手クソアマはチェックアウトすると、仲睦まじい様子で腕を組みながら街へと歩きだした。
 ここ最近は社交界に全く顔を出していなかったのであの浮気相手クソアマが誰だか分からない。
 艷やかな黒髪は柔らかなウェーブで歩くたびふわふわと揺れ、桃色の瞳はくりりと大きく、メイクも自身の肌に似合った色を選んでいる。
 遠くからではよく見えないが、メイクでどこまで盛っているのか気になるところ。
 しかし遠くから見ても婚約者であるジャンはイケメンだな。
 変装しても隠しきれないオーラ。
 それに対し負けず劣らずな浮気相手クソアマも中々……いや客観的に見ても私だってちゃんと化粧すればお似合いだろう。

 証拠写真を撮りながら尾行しているが、彼らはどんどん街から離れていき、もう30分以上歩いている。
 辺りは普通の住宅地。
 まさか。
 彼女クソアマを家まで送っているのだろうか。
 街で捕まえた馬車は現金支払いが殆どであるから、だから歩いているのか。
 どうせジャンの事だから「君ともっと長く過ごしていたいから」とか何とか言って。

 道の舗装も甘くなり暫くすると、とある家に着いた。
 他の家よりは大きいが、この辺りは確かコート男爵領だったはず。
 ならばあれは男爵令嬢……?
 はてあんな娘居ただろうか。
 そう言えば一年前の夜会でコート男爵が再婚したと小耳に挟んだ気がする。
 連れ子という可能性も無きにしもあらず。
 とすると、伯爵令嬢の私の、イケメンな婚約者が、こんな田舎の連れ子な男爵令嬢に、寝取られたと??
 ビジネスウーマンなこのアイビー・メリーウェザーが!?
 スキャンダルにも程がある!!
 いったいクソアマにどんな才があるというのだ!
(まぁ自己プロデュースの面においては納得せざるを得ないが……??)

 お茶でもどうぞと誘われているのか、彼女クソアマはジャンの両手を取り上目遣いをしながら家の中へ誘う。
 どうやら現在家族は不在らしく、甘ったるい声が中から聞こえてくる。
 そして壁が薄過ぎる。
 薄すぎる故に聞こえてくる。
 ──「あっ、んっ、もうジャンったら朝もしたのにぃ……!」なんて声が。

(クソったれがァア!! おのれ許すまじィ……!!)

 怒りが最高潮であるが、父の教え其の四、一度深呼吸だ。
 証拠、証拠を集めねば私が不利になる。
 感情に身を任せては自身の破滅なのだ。
 もう一度深呼吸をして、現場写真を撮らねば。

 全く。
 私はいったい何をやっているのか。
 性欲大魔王な婚約者のせいで見ろ、この情けない有り様を。
 他人の家を隠し撮りするなんて伯爵令嬢がして良いものなのか。
(いや……この状況……場合によっては私が不利になるのでは……?)

 ──「あっ! だめっ! んっ、ジャン、あぁっ、だめっ……!」
 ──「ん、気持ちいい? もっと、脚開いて?」

 うむ。
 不利な証拠は抹消すれば良い。
 そうだな。
 撮ったものはいくらでも消せる。
 あのクソ野郎の、理性の利かぬ竿が挿入されているところをバッチリ写してやるんだ。
 昼間っからお盛んだな、有難いことによく見える。
 土地の広い我が領とは違って、住宅地なのだからもっと気を付けてほしいのだが。

(はっはーん。ダイニングでねぇ。あらあらそんなに激しく後ろから突いて。胸をそんなに揉んだらいつか取れちゃうよ。それで自分がイキそうになったら相手構わず腰持って激しく突くんでしょう? …………つうか私とシてる時と変わんなくねぇ!?)


 ──「ジャンっ、イクぅ……! あ、ああぁあっ……!」
 ──「俺、もっ、イク! モニカ……! あぁっ……!」


(名前は“モニカ”っと……。こいつ等……一緒にイキやがったな……)
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