85 / 87
いぬぐるい編
お預けとデジャブ
しおりを挟む──ホテルに着いた。
同じく建国記念パーティーに参加していた他の貴族も何組か泊まっているようだ。
アオイと怜の二人は容姿も存在も目立つだけあって、他の貴族のみならず、ホテルの使用人や商人、一般人の視線をも奪っていく。そして流石センスが良いのねと囁かれるのだ。
ここは歴史のあるホテルで有名だが、怜にとってこのホテルは祖父の知り合いが経営していたホテルだ。
戦争が盛んに行われていた時代に仲良くなったらしく、終戦後も狼森家を優遇してくれた。100年経ってしまった今現在は経営者とこれといった関係はなく、ただ少しだけ特別な客なだけ。
建築の国だけあって当時の面影が残っおり、幼少の頃の記憶を思い出させてくれる。
呪いにかけられる前はここによく女性と泊まったものだっけか、なんて少し目を細める怜。しかし今は他に変えられない特別な女性が隣に居る。
エレベーターの中、こくりこくりと今にも眠りに落ちそうなアオイをなんとか支え、部屋に辿り着いた。もちろんアオイが泊まっている部屋だ。
自分の部屋に連れ込むだなんてアオイに対してそんなことは出来ない。もちろんやりたいけどやらない。
メイド達には先に休んで良いと伝えているが、コニーの事だから待っているしホテルに戻った事にも気付いているだろう。
呼ぶまでは来ないが母より厳しい女性だ。下手なことをすると怒られてしまう。
アオイをベッドに座らせ、自分もひとまずソファーに腰を下ろし「ふぅ」と一息。
「そのまま寝るなよ」
「んーー……わかってるよーー……えへへ」
頑張って眠気に耐えながらアクセサリーを外すアオイを見て、自身もジャケットを脱ぎ蝶ネクタイとボタンをふたつ外した。
堅苦しさから解放され、色んなことがあって疲れたなと目を瞑り考えながら肩甲骨辺りをほぐしていると、突然ソファーが沈んだ。驚いて目を開けると、目の前にアオイが居た。
跨るように片膝をついて、自慢の金髪を撫でるように首に手を回される。
そして、ふたりの唇の先が触れた。
すこしだけ、本当にすこしだけ、触れた。
キスとは言い難いが、唇が触れたのだ。
怜は驚いた。
だって男女のまぐわいを何も知らないような、こんな純粋なアオイが、自らキスをしてきたのだ。
当然の如く自分がリードするものだと思っていたから、一瞬思考が止まった。
酒のせいなのかは分からないが、頬を染め恥ずかしそうに目を逸らすアオイ。
そんなアオイに煽られて、反射的に彼女の腰を引き寄せ「もっと」と、もういちど唇を重ね合わせた。今度はふたりの味が感じられるぐらいに、深く、深く重ねた。
アオイの下唇を吸うと、先程屋台で勧められた柚子とミントの香りが自身の口内にも広がる。
唇を離すとぷるんと震え、「んっ……はぁ……」と甘い吐息も共に溢れる。
思わずゾクゾクと、背筋を震わせた。
アオイが纏っているドレスの、背中の編上げに指を滑らせ紐に手を掛ける。
結び目をほどきながらアオイを抱えベッドに移動した。
「やっ……」
アオイは恥ずかしいのかうつ伏せになる。
怜にとってその状態は好都合だと言わんばかりに、するりするりと慣れた手つきで紐をほどいていくが、おかしな事にアオイの反応が無い。
まさかと思いうつ伏せで隠された顔を覗くも、表情は伺えない。
すーすーと寝息が聞こえるから、「おい、アオイ」と声を掛けるもやはり返事はない。本当に眠ってしまったのだろうか。
(ここまで来てまたお預けか。全く。まぁ今にも眠りそうだったから仕方無いか)
背中の筋が綺麗だから、中指と薬指で下半身から上半身に向けて指を滑らせていると、反射的になのか背筋を少し仰け反らせた。ほんの僅かだが、「んんっ……」と声を漏らして。
寝ていなかったのかと期待を込めてまた顔を覗くも、やはりすーすーと寝息を立てていて表情は伺えない。
しかしこれが頭隠してか。隠しきれていない耳の端が真っ赤に染まっているではないか。
あぁそういう事かと、いつもの悪戯な表情をして、アオイに覆いかぶさるように自身の唇を彼女の右耳に近付けてこう言った。
「寝たフリだなんて可愛い事をするもんだ。でも次やったらそのまま続けるから覚悟するんだな」
そしてカプリと耳の端を甘噛した。
まるで狩猟本能が備わっている犬の様に。
「コニー、悪いな。アオイを頼む」
「はいはい。人使いの荒い坊っちゃんだこと。こちとらいくつだと思ってるんですか」
「悪かったからその呼び方は止めろって……!」
「…………あら? アオイ様の背中の編み上げ……、なんだか少し歪ですねぇ……」
「そ、うか……? ダンスもしたし移動もしたから崩れたんだろう……?」
「……旦那様。唇に紅が付いておりますが」
「えっ、そんな筈は、」
「やっぱり……!! もちろん嘘ですよ! おかしな事にアオイ様のメイクもヘアセットも全て崩れておりますからね!! で!? 貴方って人は寝込みのアオイ様をまた襲ったのですか……!? もしかして王宮でも襲ったんじゃ!?」
「いやっ、違っ、これはアオイから……!」
「んなワケ無いでしょーーーが! このドエロ辺境坊っちゃんがァ!! アオイ様はそんな事出来るような人じゃありません!!」
「いやっ、でも」
「言い訳はケッコーです!! 後でお説教ですからね!!」
「いやいやいや! 誤解だって……! 私は嘘など、」
「信じられますかこのど畜生の犬めがァ!!」
「それはコニーだって……!」
「はい?? 何処のどいつのせいでのお話ですかぁ??」
「そ、れは、その……しかし嘘はついてないぞ……!?」
「と・に・か・く! 今夜は休むのが先です! 後でじーーーっくりとお聞きしますので悪しからず。では」
「おいっ! ~~~ったく……またか。いや、自業自得なのだが……。しかしこちとらお前の主人だぞ……」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる