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最終章

新たな幕開け

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 ────約三ヶ月後。
 永世中立国ジュネス、国軍会議所にて行われている、国際裁判でのこと。


「被告人ニコライ·シューベルトは有罪とし、懲役20年6ヶ月と処する。執行猶予5年、ただし、被害者側の強い要望により5年間奉仕活動に専念すること」
「…………」
「シューベルトさん。汗水垂らしてきちんと生きること。これが貴方に与えられた罰であり、罪でもあるのですよ。それをお忘れなきよう」
「…………」
「……。では、これで閉廷します」

 初審から僅か一ヶ月。国を巻き込んだ裁判は呆気なく終わった。
 私自身が、彼に裁きを下す気がなかったからだ。
 難しいことだけれど、仏のような御心で赦してみた。犯した罪は許してないけど。

 名誉はとっくに地に堕ちたんだと現実を突き付けられたニコライ·シューベルト元大将は、途端に否定を止め、素直に罪を認めたそうだ。
 聞くところによると、取調中は心にぽっかり穴が空いたように、ただくうを見つめていたらしい。
 心理カウンセラー曰く、現実を受け止めきれず考えるのをやめているんだとか。でもいつ心が暴走しだすか分からないから気を付けるようにと忠告された。

「本当にこれで良かったんだな?」
「うん」
「何度聞いてもこればかりは意見を曲げなかったな。あんなことをされておいて……。千聖は、まるで、聖女だな……」
「や、それだけは絶対ないから」

 ブルーは、私が「もういいの」と言ったから無理やり赦した感じで、実際はシューベルトのことを全く赦していない。
 滅茶苦茶に怒っているし、怒りの矛先が無いから、ひたすらトレーニングしたり十兵衛を無駄に突っついてみたり、アヌビスに餌付けして気に入られようとしたり、ウザいぐらいに抱き締められて苛められて、そしてやっぱり犯されたり。
 あ、あとミハエルもついでにイジメられたりして。(決して男色の意ではない!)
 私が居なかった反動と、感情の上書きをしようとしているのか、ここ最近は暴走している。
 団長の尊厳もちょっと地に堕ちそうかも。

「ねっ、ブルー。一個だけきちんと言っておきたいことがあるんだけど。良い?」
「ッ、なんだ……?」
「いやそんな構えないでよっ。……あのね、本当に居てくれて良かった。有難うございます。これからもどうぞ宜しくお願い致します」

 鳩が豆鉄砲食らったみたいに、驚いて、耳の先を染めて、そして温かい腕で包み込んでくれた。
 後悔しないためには伝えなきゃ。死んでからじゃ遅いんだから。

「此方こそ。千聖の“モトカレ”の分まで幸せにすると誓ったしな。それに、ずっと私の側に居て欲しいから。これからもお願いします」
「えへ、なんか照れるんですけど」
「千聖が照れることを言うからだろう」

 呑気な話をしているが勿論これで終わりではない。
 二週間後に控えたシューベルトの奉仕活動に備えて、最終確認をせねばならない。
 ニコライ·シューベルトの元部下、特にその家族からは大いに批判を喰らった私の幼稚な思い付き。この世界の人間じゃないしそう卑下するしかないのだけど、彼にも愛を知ってほしいと思った。
 助けあい、支えあい、色んな愛があるけれど、ニコライ·シューベルトはそんな単純なものまで忘れてしまっている。
 彼に与えられた罰はこうだ。
 『葡萄農家で葡萄を育てること』
 ただそれだけ。

 シューベルトが奉仕活動をする場所は、国越こくえつトンネル前の葡萄農家。我がルースト国・四大公爵家のひとつ、ボトルス家の領地だ。
 ボトルス家は大昔から葡萄を育てており、戦時中は捕虜を働かせていたそうだ。
 因みに領地シンボルの魔物は猿で、大食らいの魔猿に大損害を与えられた葡萄農家とは此処のことである。

 この場所は私が希望したわけだが、それについてもちゃんと理由がある。
 元々捕虜を働かせていただけあって受け入れる基礎があり、そして戦時下を生き抜いたボトルス公爵家の爺も未だ健在。
 一番の決め手は、以前魔物について国民に意見を聞いて回ったとき、ボトルス家含め領民の反応が良かったから。
 更には今回受け入れてくれた報奨としてボトルス家領地には国から補助金が入り、国全体でもごく僅かなワインの輸出を優先的に行い、犬型の魔物を準備が出来次第無償で貸し出すこととなった。

 極秘裏にボトルス家の爺にアヌビスを紹介してみたが、昔の人にしてはすんなり受け入れてくれて安心した。
 私が言うのもなんだけど、犬は猿避けにもなるし葡萄は犬にとって毒なので葡萄農家で飼うには向いてると思う。
 あとは私の犬愛いぬあいをフル活用するだけ。立派な番犬に育ててやろう。
(もちろん完全に魔素に侵された魔物に反対する家族もいたけど、こういう時ばかりは権力ありがてぇ……。当主の権力やべぇ……)

 シューベルトや魔犬がボトルス家の領民を傷付けやしないかと心配ではあるが、あそこは本当に思いやりのある素敵な人たちばかりだから、きっときっと大丈夫だろう。


 馬車から窓の外を眺め、色々と考えていると、あっという間にホテルへと着いた。ジュネス・国賓用のホテルだ。
 いつだったか私に想いを寄せていたジュネス国軍のゴードンなんて奴も居たっけな。懐かしい。今頃どうしているだろうか。
 あんまりにもウザいから、ブルーに想いを寄せていたクラリスをしれっと紹介してみたのだが。
(すんごい悪い事してるって自分でも解ってるよ!? でもゴードンさんが私に惚れた理由って“強く気高きレディ”でしょ!? それ当てはまんのクラリスさんじゃねーっ!? クラリスさんも情熱的な人が好みっぽいじゃん?? わりと相性良いと思うんだけどなぁ~……! いやマジでごめんって感じなんだけどさ……私もブルーも結婚してるから他の相手探してもらわないと困るし……)

「千聖、」
「うん? なに?」
「一段落したから、抱いていいか」
「………。それはぁ~……どっちの意味でしょうか??」
「ううん……。何方もだな」
「はい?? 今の今までで興奮する要素はなかったと思うのだけど??」
「ふん、取り敢えず口を噤んでキスでもすればいいさ」
「え、ちょっ、まっ、んッ! ぁ、んっ」
「可愛い」
「あッ、ぶる、まって、い、いっかい、いっかい待って……!」
「何だ」
「さ、先にシャワー浴びよ……?」

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