【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか! あ、私もか。

ぱっつんぱつお

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公爵の憂鬱【後に続け】+魔窟での小話

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「おい、千聖はどうしたんだ?」
「え? そういえば遅いですね。ナナさんと話し込んでいるのでしょうか。あ、でもブルータス帰ってきてますよ。千聖様も何処かにいらっしゃるのでは?」

 メイドのアンゼリカは庭を指差して言った。
 指のその先には薬の材料として育てているハーブを、つまみ食いするブルータスの姿。庭師のジェームズに小言をいわれ追い払われている。

「ふん。全く、あっちへこっちへと忙しいやつだな。ネフティスの、ハンティングトロフィーが届いたから……早く見せたいのだが」

 己の手で殺めたレベル5の魔物。
 千聖はその個体をネフティスと名付けていた。
 大きな大きな犬の頭部を、綺麗になって帰ってきたら先ず一番に抱き締めるんだと言っていた。
 けれど千聖が帰ってこない。

*****

「ナナさんが住む寮にも行ってみましたが姿は見えないし、帰ってきた形跡もないですね……」
「もう午後3時だぞ!? ブルータスはとっくに帰ってきているのに……一体何が起こっているんだ……何処へ行ったんだ……?」
「分かりません……。とにかく無事で居てくれれば良いのですけれど」
「──ハント騎士団長……!」
「ライオネル隊長? 我が屋敷までわざわざ……まさかっ、千聖になにかあったのか……!?」
「いえ、まだ確証も確認も取れてはいませんが……、ハーディー公爵領の山間やまあいに住む者からの通報で、外国人と思しき人物が運転する不審な馬車を目撃したと。その馬車を犬型の魔物が追いかけていたそうなんですが…………ただ、」
「ただ……?」
「その、……魔物の背中に、女が乗っていたと……。いえその、通報した人物は幻覚作用のあるキノコで薬を作っている者なので恐らく幻覚でも見たのでしょう……! 魔物の背に人が乗るわけが、」
「いや…………、私の妻で間違いないでしょう」
「え? だって、そんなわけ」

 信じないですよという顔のライオネル護衛騎士隊長だが、そんなことをする奴は一人しか知らない。
 千聖が魔物に乗って馬車を追い掛けていたなら、ナナ·シルビアの身に何かあったのか。激しい走らせ方をするためにブルータスを贈ったわけではないので正しい判断をしたと思う。

 しかしまた他人のために己を犠牲にしようというのかあの馬鹿は。
 私はミハエル含めた騎士団員数名と護衛騎士にも要請を出し、目撃された場所へと向かった。
 妻が大切なのは勿論だが、千聖は異世界人であり国の財産である。
 居なくなっては困るし攫われても困る。何より大切な女性ひとだから。


 ──其処へ着いた頃には朝方で空は薄ら明るくなりはじめ、幻覚作用のあるキノコ達は周囲の水分に反応しぼんやりと地面を照らしていた。
 夜通し動いていたから皆にも馬にも休憩をとってもらったが、私はいくら身体を休ませても気が休まらなかった。

「無茶をしていなければ良いのだが……」

 そう呟き、髪を掻きあげ地面に視線を落とした一瞬だった。
 太い枝が踏まれる音、50メートルほど先に魔物が居る。大きなレベル5の魔物。

「ッ、隊長さん達は後ろに下がってて下さいっす……!」
「この地域で犬型かよ……! こんなときに……!」

 ジッと此方を見つめる魔物に、騎士団員達はすぐさま体制を整える。相手が魔物であれば対人で訓練された護衛騎士達は為す術がない。
 周囲に緊張が走るが、私は剣の鞘さえも握らなかった。
 には見覚えがある

 何故あそこに?
 違う個体か?
 いや間違えるはずがない。
 ならば、千聖は?

 後ろで剣を構えているであろう団員達を左手で制し、ミハエルを呼ぶと確認してくるよう指示をした。
 流石に危険ではと他の団員に言われたが、私は千聖を信じたい。

「──団長! アヌビスで間違いないです……!」

 やはりそうか、と落胆した。
 アヌビスの背に乗り馬車を追い掛けていたのに何故降りた。強力な友人と離れて、一体何が起こったというんだ。

「団長……、アヌビスが……ついてこいと、言っているみたいなのですが……」
「…………そうか。なら、頼ってみよう……。皆、に続け」

 何を仰っているんですかと言う団員と護衛騎士だが、己が一番何を指示しているのか解らない。
 相手は魔物だ。私は駆除をする騎士団の団長であるから、本来ならば殺めなければならない。
 でも駄目だ。は千聖の大事な存在、私とも家族なんだ。互いに両親を奪い合ってしまったのだから、これからは支え合って生きたい。

「団長……! 本気っすか! 相手は魔物っすよ……!?」
「静かにしろ、騒ぐんじゃない……!」
「でも!」
「煩い、指示に従えないのなら今すぐ帰れ。千聖にとって彼は友であり家族なんだ。……すまない。今は、そう説明することしかできない……」
「っ、団長……」

 ミハエルも、私も、その場に居る誰ひとり、次に紡ぐ言葉が出て来ぬまま、時折振り返り先導する魔物の尻尾を追い掛けるだけだった。
















「──ッ、これは……?」
「トンネル……っすかね……」
「え、だって、ここ、魔窟じゃ……」
「いや、東側といえど瘴気が無さすぎる。それに似ているがハーディー公爵領の魔窟はもう少し城に近い場所だ。だが……」
「地質調査してみないと違うとも言い切れない感じっすね」
「ミハエルはまだ魔窟に来たことはなかったか。まぁ三年経ったからお前も見回りするようになるだろ」
「え、私も見回らなきゃいけないんですか!? まだまだピヨっ子なのに!? いやいやそんなことより、仮にコレ・・が魔窟だったとしても! アヌビスは、なんで、此処に??」
「つうか明らか人工じゃないっすか……?」
「そうだな……」
「えっ……と。団長さん達に比べたら、魔窟とか魔物のこととか、あまり詳しくないですけど……。単純な話、ここ、抜けたら、国境……ですよね……?」
「っ………………」
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