【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか! あ、私もか。

ぱっつんぱつお

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公爵の憂鬱【山のホテルにて】+その後の飲み会

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 それはラステールの者達が国の行事参加のため、一時帰国したときのことだった。

 ハロルド帝王と女性大臣、オースティン陛下と私と千聖の五人は、国境近くのバルドー帝国内にて、久し振りに食事をしていた。

 山の上にそびえるホテルはジュネスの国賓室より広さも洗練さも劣るのに、こうも落ち着くのはジュネス国軍に監視されていないからだろう。
 あと千聖に付き纏う男が居ないからというのもある。

 折角の息抜きにこんな話をするつもりはなかったのだが、酒が入れば触れてしまう。
 このままラステールと話を進めていいのだろうか、と。

 魔石を移動した際の報告書及び詳細なデータの提出を求めているが、「何故、帝国は私達にばかり求める?」とミネルヴァ元帥げんすいの納得を得られない。
 そしてシューベルト大将はここぞとばかりに「我々に求めるのならそちらも捕虜に対し行っていた残虐な実験を白昼の元に晒してもらおう」などと言い、また話が立ち止まる。

「あの老いぼれめ、人体実験の報告書を出せだと? 大戦中など人間が人間でなくなっているのだぞ、そんなもの開示すればそれこそ戦争ではないか」
「ええ、そうですね。けれど初めて事実を知ったときは大変驚きました……。教科書で習ったものとはまた違う歴史ですから」
「我が国の神殿でさえ、戦時中に開発された薬は第一級の禁薬になっているぐらいだからな」
「シューベルト大将はまるで戦争がしたいと言わんばかりですね。ラステールも徐々に世代交代していますから、過去の栄光が忘れられないのでしょうか」
「うーむ、しかしミネルヴァ元帥に頷いてもらわねば老いぼれの思うツボ……」

 何か言いたげな表情に気付いたのか、黙って話を聞いていた千聖にハロルド帝王は「千聖は? どう考える?」と問うた。
 気を利かせ話を振ったのだろうが、私が思うに千聖は、意見がある、というよりか、不満があるように見える。
 濃いめのジンを喉に流し、千聖は口を開いた。

「私は…………ラステールからは情報を提供してもらい、ルースト国からは技術を提供し、バルドー帝国には、資金を提供してもらいたい……です、かね」
「……なに?」

 また突拍子もないこと言う。
 どうして千聖はそう思ったのだろう。
 ハロルド帝王とオースティン陛下は、ぴたりと時が止まった。
 当たり前だ。帝国に金を出せと言ったのだから。
 その発言に対し、一番に反応したのは帝国の女性大臣であった。

「はぁ!? 貴女なに言ってるの!? 被害国は私達なのに何故、私達が金を出さなくちゃいけないのかしら! 魔物の増加によって物流が途絶え、薬や人が必要な場所に届けられずどれだけの人が死んだと思っているの!? 貴国だって今日こんにちまで被害を受けて……、あぁそうよね。ルースト国へ来て一年も経っていないのだから思入れも何も無いのでしょうけど。殺されてきた民を想えば私達がラステールに提供する物など何一つ無いわよ!」
「ガブリエラ、」
「なんですかハロルド様! わたし何か間違ったことを言いましたか!」
「いやそうではなく……」

 歳は千聖より6つ上で、仕事のせいもあってか実年齢より老けて見える彼女。いつも千聖に当たりが強く、年下で持て囃されている千聖が気に入らないらしい。
 恐らく此処に居るのがメグであるならばもっと当たりがきつい筈だ。

 いつもなら「そうですね。考えが甘かったです」なんて棘のある言い方を軽く流すのに、今日はどうしてしまったのか。テーブルの下では拳が握られた。

「ッ私は──! 家族や友人が! 私を殺した男を、ずっと恨んで憎んでアイツが悪いって、責め続ける人生なんて、送ってほしくないですけどね!」
「千聖、」
「そんな無駄なことされるより、次同じ事が起こらないためにはどうすればいいかって考えてくれる方が良くないですか!? だって、いくらお父さんやお母さんや友達が、悠真が、バイト先の人が……! 相手に復讐をしたところで……! 私は、彼処あそこへは戻れない──!!」

 シン──、と静まり返る個室。
 千聖の手を握ろうとすれば勢いよく立ち上がり、「すみません熱くなりすぎました。部屋へ戻ってクールダウンします」と涙を必死に抑えた声でそう言い、出ていってしまった。

 千聖がああも人前で感情を露わにするのは珍しい。
 行ってやれと言うオースティン陛下に、私は「言われなくとも」と返し、千聖の後を追うのだった。















「ハロルド様……わたし、言い過ぎたみたいです……」
「そうだな。確かに千聖はこの問題には関係ない。千聖と我々の目的がそもそも違うのだから、意見が食い違っても仕方のないことだ。けれどその分、違う視点で見てくれる」
「…………そう、ですね……私、国や民の為だって言ってますけど、それって今生きている私達の為ですよね。…………彼女、殺された側の気持ちなんですね」
「……千聖に初めて会ったとき、死んだ時どんなだったか千聖に聞いたんだ。……痛いのは勿論だけれど、寂しくてつらかったと。誰も看取ってくれない暗い公園で唯一人、あれが走馬灯というのかと。……楽しい思い出とこれから思い描いていたこと、意識と共に薄れていって、素直になれなかったことや優しく出来なかったこと、何でもっと相手の立場に立てなかったんだろうかと、後悔ばかりだったって」
「それなのに“殺されてきた民を想えば”なんて……。わ、わたし今すぐ謝ってきます……!」
「良い良い。ブルーが慰めておる」
「オースティン様、しかしそれでは私の気持ちが収まりません!」
「ガブリエラ。また自分の事しか考えていないよ」
「っ!」
「ふふん、それに若い夫婦の邪魔をするなど不躾だぞ? なはは! まぁまぁまずは食事の続きを楽しもうではないか。その話はまた翌朝に、な?」
「は、はい、そうですね……。お気遣い感謝致しますオースティン陛下、ハロルド様も申し訳御座いませんでした……」
「気にするな。むしろブルーは、やっと二人きりになれたと喜んでいるのではないか?」
「おや、いつからそんなに独占欲が強くなったのですか」
「分からん。はてそんな男だったかと伯父の私でさえ戸惑っておるわ。最近はまた態度が露骨でなぁ……」
「あはは、そう言えばジュネス国軍の男とも何やらあったらしいですね」
「その話がまた面白くてな!」
「…………お二人は切り替えが早すぎでは……」
「ガブリエラ。オンオフを上手に使いこなせねば疲れるぞ?」
「ほら。君もいつまでも落ち込んでいないで酒でも飲まんか。ほれ注いでやろう」
「え、あ、はい……」
「いやそれでな、何でもジュネスの男とブルーがな──」
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