【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか! あ、私もか。

ぱっつんぱつお

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公爵の憂鬱【ジュネス国にて】

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「──何故わざわざ此処まで来て貴方達と話し合っているのか、今一度その意味を考えよ、寄生虫の如く居座り続ける老害めが」
「貴様!! 侮辱罪で訴えるぞ!」
「貴方は戦前からその席に座り続けているではないか、この事を知らぬとは言わせん! 城で指示するだけの世間知らずめ。お前では話にならんミネルヴァ元帥げんすいを此処に呼べ! この場に現れたのは最初の一回だけではないか!」
「大して長生きもしていないくせに知った口を聞きおって! ミネルヴァ様は無駄な会議には参加なさらない!」
「無駄だと!? 戦争に関係の無い千聖は今もルースト国で魔物のバランスを正すため、民の署名を集めているというのだぞ!」
「ハッ! そもそも異世界人という存在すら疑わしいわ!」
「我々が作り話をしているとでも言うのか!」
「そう捉えられても不思議はないだろう! 見てもいないものをどう信じろと?」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどおらんよ。帝国の若き王よ、ならばその異世界人とやらを連れてきて彼女の口から説明願おうか。異世界人とやらが、この! 資料を発見したと言うならば! 本人の口で説明出来るだろう? 天宮 千聖なる人物を召喚するならば私達もミネルヴァ様をお連れ致しましょうぞ」
「クッ……」










「すまないブルー……」

 バルドー帝国の王であるハロルド様が私に謝ったのは、雪がちらつく一月のことだった。
 口を開けば証拠が不十分だとラステールのシューベルト大将は言い、話し合いは一向に進まず。

 責任を全てラステールに押し付けようとしているわけではないが、聞く耳持たぬシューベルト大将に、ハロルド様は日に日に苛立ちを隠さなくなった。
 ラステール国の悪いところは軍事国家に加え、時代の変化に置いていかれた者達が未だに権力を振りかざしていることだ。

 そんなラステールであるが、ここ最近変化の時が訪れた。
 戦前から居座っていた元帥が死に、全く予想もしていなかった人物がその座を奪ったのだ。
 歳は45であるが、年寄りが権力を振りかざしている組織では異例のことだった。
 カミラ·ミネルヴァ、しかも女である。
 我々の国、ひいては帝国よりも男性優位社会だというのに、女が一番上に立つとは。

 聞いた話では孤児院の支援や、道路整備、農機具の寄付など国民の支持を着実に集めた上、彼女が気に入らないからと暗殺を企てた上層部の男達をその瞳に涙を浮かべ心が恐怖に染まるまで、丁寧に一人ひとり追い詰め手中に収めたという。

 あの蔓延はびこる寄生虫を恐怖で支配する人物となると、本気で敵に回せば恐ろしい相手だろう。
 恐怖に耐えきれず己の仕事を放棄し、国外逃亡した者は必ず殺されるという。軍国家だから為せる制裁か。

 カミラ·ミネルヴァに期待を寄せるハロルド様に、変わりつつあるラステール。
 上手く行けば和平を結べるかもしれないが、話し合う相手が寄生虫では意味が無い。

 そうして彼女をジュネスへ召喚することとなった。
 思っていたよりも早く会えることには喜べるのだが、結局千聖を巻き込む羽目になってしまい申し訳なく思う。
 まぁ私よりも責任を感じているのは叔父であり国王であるオースティン陛下と、バルドー帝国の王、ハロルド様なのだが。

「ブルー、一ヶ月振り。もう見るからに疲れてるじゃん」
「千聖に会えれば疲れも吹き飛ぶ」

 上手いこと言って、と私には笑わない女だった彼女が私にだけ見せる表情かおで笑う。
 千聖がジュネスに入国して顔を合わせたのは、日を跨ぐ少し前、ジュネスの国賓室だった。
 ルースト国とバルドー帝国、ラステール国の国賓に其々一人ずつ部屋が用意されている。
 ここジュネスは永世中立国であるため、如何なる戦争にも加担せず、己の身は己で守る国だ。

 我々の国も中立国であるから、ジュネスとは少し似ている。
 ただ我々の国には『魔物』という結界があるが、ジュネスにはそれが存在しない。
 大国と帝国に挟まれる国だけあって、なにかのキッカケで侵攻などされればひとたまりもないだろう。
 ジュネスは徴兵制度によって国民の殆どが軍人で、普段から武器を所持しており、いつでも己の国を守る覚悟を備えている愛国心の強い国なのだ。

 ジュネスの首都には国軍会議所があり、国同士の裁判所としてしばしば活用されている。
 ゆえに国賓をもてなす場所は首都周辺に多くある。
 千聖にも個人部屋が用意されていて、一晩を共にするならばジュネス国軍の許可が必要だ。
 これはジュネス国内で他国の個人的会議を防ぐためである。

「陛下にはもう会ったのか?」
「あ、そうそう。陛下にもハロルド様にも挨拶したし、偶然通路ですれ違ったラステールのシューベルト様にも挨拶したよ。なんだかバイト先の先輩が得意そうなオジサンだった」
「は?」
「だから先輩を真似してみた」
「は?」
「いや、そんな事よりあの謝らないといけないことが……」
「果たして流しても良い話題なのか……」
「えー、あのえぇーっと。時間がないので簡潔に言いますけれど……」
「なんだ、突然かしこまって、どうしたというのだ」

 あくまで一晩を共にするならばの話で、3~40分程度であれば特に許可など要らない。但し、扉の外にはジュネス国軍兵が待機しているので居心地は相当悪い。
 千聖は私の部屋に入り扉をしっかりと閉まったことを確認すると、なんと土下座をした。

「申し訳御座いません、この国の軍人さんにキスをされてしまいました……」
「……なに?」
「いやキスと言っても手の甲なんですけど、」

 なんだ手の甲かと一安心し、かしこまり申し訳なく土下座する千聖をまたひとつ好きになる。軍人ならば敬愛の意味で手の甲にキスをするというのはよく見られることだ。

 私達の結婚式では互いに手の甲だったが、通常ならば相手をうやまい口づけをする場所。
 千聖が異世界人だから敬愛の意を表したのだろう。と、そう思っていたのだが。

「いやそのあの一目惚れをされたらしくてその」
「…………何だと?」
「け! 結婚してますって言ったんですよ!? で、でも貴族って分かった途端、なら良かったって行っちゃって……!」
「それは、何処のどいつだ……?」
「こわい! こわいよブルー……! 一回落ち着こう!?」

 これが落ち着いていられるか。
 明後日の会議よりも一大事じゃないか。
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