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公爵の憂鬱【クセになる味わい】
しおりを挟む「わあっ! きれーな場所っ!」
「父と母もこの場所が好きだった」
「へぇ。思い出の場所なんですね」
ホテルと云うよりはコテージに近いだろう。
帝都へ入国し、トンネルを抜けたすぐ先にあるこの場所。窓を開けると湖が見え、湖面には星が映って見える。
「昼間だと美しいエメラルドグリーンに木漏れ日も相まって神秘的なんだ」
「それをロマンチックと言うんですね」
「そうかもな」
彼女も気に入ってくれたようで頬杖を付きながら外を眺めている。
曲線を描く身体のラインに、どうしてこうも惹かれるのだろう。毎日眺め、毎日食べてもきっと飽きない。それぐらいクセになる。
一種の珍味だなと思うと、何だか可笑しい。
「何笑ってんですか」
「別に」
「疲れて頭でもおかしくなりましたか」
「ふん、余計なお世話だ」
千聖がトンプソンの隠した資料を見つけてから少々無理していた私たち。最初に相談してくれた相手が私であった事に喜ぶ反面、内容には頭を抱えた。千聖自身もどうすれば良いか悩んだのだろう。
知ってしまった以上、陛下に報告せねばならないが、最悪の事態は避けたい。彼女だってそう思っている。
謝れば済む話ではない。責任は一体何処に、誰にあるのか。魔石を移動したのは大国ラステールであるが、唆したのはオルスタインだ。ラステールは魔石の事を知っていた上で今まで黙っていたのなら、それはそれで問題である。
騎士団は一体何の為に戦っているのか。私の両親は誰が殺したのか。
そもそも騎士団の存在意義さえ解らなくなってきた。
彼女は、「過去はどうしようもないから、私は未来を変えたいんです」と強く言った。千聖だからこそ説得力のある言葉だと思う。魔石を元に戻せるなら、ちゃんと正しましょう、と。
ラステールがどの様にして魔石を移動したのか知る為には、直接聞かねばならない。最悪の事態は避けたいが、話し合う上で覚悟はしなければ。
この旅が終われば陛下の元へ行こう。
今は二人で過ごせる時間だ。
折角の旅行だからと彼女に伝えると、すぐに切替えてくれる。本当に居心地が良い。千聖とならば私は未来に向かって歩いて行ける。
「ほら。後ろを向いて、私が脱がそう」
「な、なんで……!?」
「何で? 風呂も入らずそのまま寝る気か?」
「んな訳ないでしょ!?」
「コルセットを一人で脱げるというならばどうぞ」
「え、え……?」
「千聖が一人で風呂に入れないからと二人を此処へ呼ぶか? イザベラもマリーも疲れているだろうに」
「ぬっ、ぬぬ脱がせて下さいお願いします……!」
「なら後ろを向いて」
固く締められた紐をするりするりと解く。悔しいのか、それとも触れる指先に耐えているのか、眉を歪ませ唇を噛む千聖。そういう表情をされると苛めたくなる。
解けたぞと手を離せば、「え、あ、有難うございます……」なんてまるで期待外れだと言わんばかりの反応。気が緩んだところでベッドに押し倒せば、今度は私の期待通りの反応を見せた。
耳をなぞり、唇をなぞり、それから身体を伝って爪先までゆくと、丁寧に靴を脱がした。スカートの中に手を潜り込ませ、指先でストッキングの感触を愉しみながら腿で留まるガーターベルトを外せば「んっ」と可愛く鳴く。
ストッキングと腿の間に指を入れてゆっくりゆっくり脱がしていけば、ついに我慢出来なくなったのか「あっ、ちょ……せっ、せめてシャワーを浴びてからッ……!」と手首を掴まれる。
ここ迄させといてお預けとは。もっと早くに止めてくれれば良いものを。
「なら早く浴びて来い。夏の夜は短いのだから」
「っばか……!」
「殴るな」
「殴ってません、ちょっと押しただけです」
「言い訳がましい」
煩いとひとこと言われ、浴室に逃げる千聖の顔は真っ赤な林檎のようだった。
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