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公爵の憂鬱【嵐が過ぎるまで】
しおりを挟む可愛くて可愛くて仕方ないから、もっと苛めてやりたい。
顔を真っ赤にして固まって、まるで林檎のような千聖。このまま食べて良いというならば思う存分味わってやる。今夜ならどれだけ喘いだってかき消してくれるだろう。
でもまだ早い。
こうして苛めて、少しずつ慣らして、それからだ。
どうせ私の事が好きでないのだから、今抱いたって意味は無い。だからロイドに付けられた痕を上書きしてやった。処女でもないくせに可愛く鳴いて、私を煽っているのだろうか。
千聖は一生懸命に声を発して否定するから、今夜もまたこれぐらいで勘弁してやるとするか。
昔、母が私にしてくれたように千聖を寝かしつける。
寝息が聞こえるまで見守って、愛しい彼女の額に口づけをした。寝込みを襲う趣味はないがこれぐらいは許してくれ。可愛い私の妻なのだから。
こんな天気なのに好きでもない男のリズムに揺られ、安心した顔で寝ている。
一人で生きていけるようなふりして、本当は甘えたいのだろう?
自分は大人だからと抑え込んで他人の悩みばかり聞いて、外面だけは良いだと?
内の姿を晒せなくて困っているのか?
上手に甘えられないのなら、私がこれでもかと甘やかしてやろう。蕩けるぐらいに千聖だけを抱きしめよう。
悪いが私は自分の認めたものにはとことん尽くす人間だ。それが家族ならば尚更。千聖の本当の姿を見られる日がいつになるのか、楽しみだな。
それから私も温かさに埋もれ、眠りに就いていた頃。それは朝方のことだった──。
轟音と共に空が光り、地面が揺れた。
「ッ!? なに!?」
「雷が、何処かへ落ちたみたいだな」
「びっくりして飛び起きちゃった……。物凄い音でしたけど」
「かなり近いかもしれん」
「何処でしょう……誰も怪我してなきゃいいですけど……」
「ああ……そうだな……。まだ風が強い。嵐が過ぎるまでここで待機だ」
そうですねと納得し千聖は再び眠りに就こうと横になるが、時間が時間だけに脳が覚醒してしまったようだ。
もう一度起き上がるとベッドサイドに用意してあった水を手に取り、ごくりと飲み干す。
「起きてしまったか?」
「すっかり……。雨は? 止みました?」
「まだ少し。夜中ほどではない」
「そっか。起きてもすることないからなぁ……外にも出れないし……」
カーテンの端から溢れる薄ら明るい空の光に目を細め、特にすることもないと言うように見えない外を眺める千聖。
することがないのなら、私が与えよう。
「ならまたこうして温めてやろうか?」
「ッ、ちょ、ふぁ……!」
後ろから指を滑らせながら抱きしめると、ぞくりとさせる背筋。
感じているのか。だとしたら意識させてやる。私しか感じられないように。
左の首筋から耳までついばむようにキスしていくと、ふるふると震える身体。吐息が漏れぬように息を止めて我慢している千聖が堪らなく愛おしい。
「っ、ブルーさんっ……! お、おかしいですよホントにッ!」
「何がおかしいんだ?」
「っんん~~! 耳ッ、そんな近くでっ……! こんな事、するような……!」
「するような人じゃなかったと? 千聖は私の全てを知っているのか?」
「そういう訳じゃっ……!」
「ならばおかしくはないだろう」
そう言うと千聖は黙ってしまい、ついばむ私に耐えながら嵐が過ぎるのを待っていたのだった。
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