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メグという子。

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 カレンが陛下の元へ呼び出され、私はホールに戻った。
 すると其処には心底不安気で今にも泣きそうなメグの姿。

 人前でメグがそんな顔を晒すだなんて可哀想だと思い、夏の夜風が心地良いバルコニーへそっと連れ出す。
 どうしてそんな顔するのと聞くと、「だってチーちゃん怒ってたから……」と言う。「メグがアッくんを止めれば良かったんだよね」と。
 そりゃあ止めれるものなら止めてほしかった。
 アーサーが話を聞くべきは上流階級の声ではなく、まずはカレンの声だった。

「ごめんなさい。メグたくさん謝るから許して、おねがい……」
「私に謝ったってしょうがないでしょ。そりゃまぁ迷惑は被りましたけど? ってか今更“ああしとけば良かったこうしとけば良かったって”って言っても仕方無くね? 殿下のことが好きなんでしょう? 人は過去も心も変えらんないよ。それに私はメグちゃんに対して怒ってるわけじゃないし、ね?」
「で、でも……メグ、カレンちゃんの代わり出来ないよ……メグ馬鹿だし、ほんとに、みんなと仲良くしたかっただけなの……けどカレンちゃんに嫌われちゃった……チーちゃんも、その内きっとメグのこと嫌いになっちゃう……お願い、嫌いにならないで、嘘でもいいから笑ってて……」

(お前はわたしの彼女か!)と突っ込みたくなる台詞だが、どうやらメグは真剣そのものらしい。
 ついには硝子玉みたいに綺麗な涙を流すから「もーなんで泣くの~」と抱きしめれば余計に泣いた。ライトの下では眩しかったミントグリーンのドレスも薄暗いバルコニーでは丁度良い。
(あれ、なんかデジャヴだな。ついこの間もこんな事あったような……)

「大丈夫だって、別に嫌いになったりしないから。メグちゃんが落ち着くまでこうしてるから」
「ほんとう……?」
「うん、本当」
「チーちゃんやさしいね」
「そんなことないよ、カレンさんもすごく優しいんだよ。気遣いも出来るし頭も良いし。それに可愛いものが好きなただの女の子なんだよ。ずっとね、ひとりでいっぱい頑張ってたから辛かったんだって。だから少し当りがキツくなったんだと思うよ」
「そうなの……?」
「うん、メグちゃんの着てるドレスも本当はすごく好きなんだって言ってた。でも立場的に強くならなきゃいけないから赤を纏ってるんだって。落ち着いたらもう一回ちゃんとお話してみようよ。好きなもの話してさ、そしたらきっと仲良くなれるよ。それでごめんなさいって、謝まろう」
「うん……メグ、あやまる……」

 何故この子は嫌われることをこんなにも恐れているのだろう。人間って色んな人が居るから合う合わないは当然あると思ってる。
 世間一般的にはその合わない苦手な人を『嫌いだ』って片付けて陰で悪口言って理解しようともしないけど、そんな人いちいち相手にしなくていいしどうせ合わないのだから気にするだけ無駄だと思う。
 私にとって『皆と仲良くしたい』って言ってるメグのことも意味が分からないし相容れない。
 けど嫌いなわけでもない。
 好きなわけでもない。
 別にどちらでもない。
 どんな人生でこういう考え方になったのかなって、少し興味があるだけ。

 アーサー殿下のことだって腹は立つけど、心がねじ曲るほど気になるわけでもない。誰のことを好きだろうが別に構わない。ただ戦争だの内紛だの飢饉だのとは無縁の国を築いてくれれば問題ない。
 ただ、それだけの存在。
 こういう人なんだなぁって、思うだけの存在。
(あぁ……本当に……私って他人に興味がないんだな……。こんな風に抱きしめて慰めてるくせに、ひどい人間だなぁ私は……)

 メグが落ち着いてきた頃、「チーちゃん優しいからメグのひみつお話しするね……?」と私の胸でぽつり言う。
 だからそんな風に言われたら聞かないわけにはいかないだろうが。

「ひみつのお話?」
「うん……メグはね、きらきらして、可愛い世界に住みたいの……。子供の頃、絵本で見た、お姫様。可愛くて、笑ってて、ひらひらしてて、みんなに優しくて、素敵なおんなの子」
「そうなんだ」
「うん、でもね、なろうとして、頑張ってたんだけど、メグ、虐められてたみたい」
「え……?」

 女子人気はなさそうだと思ったが、まさか本当に虐められていたとは。
 今思い返せば小学生からだったそうで、私物を隠されたり盗られたり、変なあだ名つけられたり、無視されたり。中高はヤリマンだとかビッチだなんて言われて、一部の男子からはヤリ目で絡まれたり。とは言いつつなにせ顔面偏差値が高かったからそれなりに男子からはモテたらしい。
 それがまたいじめの原因になったりして。

「今思えばいじめられてたって分かる。でもメグ小学生だったし、"どんなに苦しくても辛くても笑うのよ!"って、絵本のお姫様が言ってたから、メグは笑ってた。そうすれば王子様が現れてみんな幸せになるんだって。……中学生になっても、高校生になっても、すごく泣きそうな時も、笑ってた。だってメグ可愛いでしょ? 笑ってたらもっと可愛いもん。苦しくても辛くても笑ってれば可愛いの。みんなが笑ってて可愛い世界に住みたいの。でも大人になればなるほど、みんな馬鹿にするの。大学のお友達は笑ってたけど、嘘ばっかり……。メグのフォロワー数が多いから仲良くしてるだけ」
「そうなんだ……」
「高校二年のときにね、ママが再婚して、お姉ちゃんふたりと、新しいパパができたの。メグはすごく嬉しかった。お姉ちゃん達はあんまり可愛くなかったけど、でもそれでも嬉しかった。ママはいつも忙しくて疲れてたけど、新しいパパができて可愛くなったの。メグも新しいパパに、"ママの娘はこんなに可愛いんだよ!"って思ってもらいたくて、だから笑った。すごく一生懸命笑ったの」
「うん、すごくえらいと思うよ」

 背中をぽんぽんすると悲しそうに笑う。
 こんな時でも笑うのかと、素直に感心した。不器用で真っ直ぐな

「新しいパパはメグのこと直ぐに好きになってくれた。可愛い可愛いって、いっぱい褒めて撫でてくれたの。お洋服だっていっぱい買ってもらった。でもね、お姉ちゃんたちはそれが気に入らなかったみたい」

 そう言っているメグのことが羨ましいって思ってしまう自分は、醜い人間だろうか。
 私は『パパ』に褒められたかった。
 いっぱい撫でてほしかった。
 無いものねだりなのは解っている。メグだって無いものをねだっている。

「あのねチーちゃん。メグね、お姉ちゃんたちに殺されたの」
「え──、」
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