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それは前団長が悪戯にわざと残したもの

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「ん……、」

 目が覚めた。
 見たことない天井。見たことない部屋。
 まさに、ココドコ状態。

 腕をついて起き上がると、着ている服は研究者用のワンピースだ。それで思い出した。
 睡魔に襲われる視界の中で微笑むグレン。
 たぶん、実験中に眠ったんだと思う。
(で、それから?)
 グレンが運んだのか、それとも自分で歩いたのか。
(自分の脚で歩いたのなら相当やばいけど。てかここまじ何処)

 カーテンが風で揺れ、隙間から見える空は薄ら明るい。
 朝方なのか、夕方なのか、それすらも分からない。
 そっと、カーテンから外を覗いた。見慣れた城の中庭だ。
 全く理解出来ない。
 何がどうなってここに居るのか。
 それに何か幸せな夢を見ていたような気がするのだが……、(起きた瞬間に全部忘れちゃったなぁ)

「なんだっけ」

 独り言を呟きながら部屋を見回すと、扉が2つある。
 少し簡素な方の扉から確かめるかと開ければ、そこはシャワールームだった。
 だとしたらもうひとつの立派な扉で外へ繋がるのだろうが、こんな寝起きの顔を見られたくないし、歯だって磨きたい。
(あの扉を開ければ何人か待ち構えているかもしれないし、こんな姿ぜったいヤダ)

 ちゃちゃっと入ってしまえば問題ないだろうと、あまり物音を立てずにシャワールームへ逃げ込んだ。鍵さえ閉めれば入って来れない。
 ちゃんと閉まったかノブを確認して「ふぅ」と一息。

 それから15分程で済ませ、髪も身体もさっぱりきれいにしたから、同じ服は着たくない。
 着替えはないかと引き出しを開けると、一通り揃っているのだがどれも男物ばかりだ。
(パンツは流石にウエストが合わないし、バスローブはかなり攻めすぎでしょ……)

 もっと何かあるだろうと奥の方までほじくり返すと、バスローブの下に女物らしきローズピンクのオーガンジーを発見した。
 なんだ探せばあるじゃないかと引っ張り出したのだが、かなりすけすけひらひらなベビードールだ。

「いや……趣味が……っ(一体誰の趣味よ……しかもこんな奥に隠して)」

 厭らしいわねぇとまたそっと仕舞って、ここは安定の(全然安定じゃないけど)彼シャツスタイルで臨むことにした。
 ベビードールが入っていた引出しとは別の場所、クローゼットに掛かっていたシャツだ。きっとここから取ったならアレを見たということがバレないだろう。
 ただそう願う。願うというか出来れば見なかったことにしたい。アレは多分知らない方が良かったものだと思う。
(もう遅いけど)

 最後に、脚はシーツで隠して、それから二つ目の扉を開けた。少しだけ顔を覗かす。

 ──「起きたのか」

 低い声を響かせ、ソファーから、ぬうっと立ち上がった目麗しい人。

「え、はハント公爵様……?」

 私は今ナゼココニ状態だが、そう言えば見たことある部屋だ。
 以前、ミハエルと一緒に扉をトントンして返事が無いから勝手に開けた部屋。

「え、え? ここ、ハント公爵様の執務室ですか……?」
「そうだが……、それよりも、お前のその恰好は……」

 脚を覆っていたシーツは床を隠すためと化して、呆然と立ち尽くす私。
 そんな私の姿に、なんて恰好だと言わんばかりに目を逸らすのだが、私は今それどころじゃない。それどころじゃないのだ。
 ここがハント公爵の執務室だとするならば、あの、あのベビードールは……
(お前の趣味かーーい……! 全然知りたくなかったよーー! てかあれ誰に着させてるのーー……!)

 思わず生唾を飲んだ私だった。
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