51 / 172
1
それは前団長が悪戯にわざと残したもの
しおりを挟む「ん……、」
目が覚めた。
見たことない天井。見たことない部屋。
まさに、ココドコ状態。
腕をついて起き上がると、着ている服は研究者用のワンピースだ。それで思い出した。
睡魔に襲われる視界の中で微笑むグレン。
たぶん、実験中に眠ったんだと思う。
(で、それから?)
グレンが運んだのか、それとも自分で歩いたのか。
(自分の脚で歩いたのなら相当やばいけど。てかここまじ何処)
カーテンが風で揺れ、隙間から見える空は薄ら明るい。
朝方なのか、夕方なのか、それすらも分からない。
そっと、カーテンから外を覗いた。見慣れた城の中庭だ。
全く理解出来ない。
何がどうなってここに居るのか。
それに何か幸せな夢を見ていたような気がするのだが……、(起きた瞬間に全部忘れちゃったなぁ)
「なんだっけ」
独り言を呟きながら部屋を見回すと、扉が2つある。
少し簡素な方の扉から確かめるかと開ければ、そこはシャワールームだった。
だとしたらもうひとつの立派な扉で外へ繋がるのだろうが、こんな寝起きの顔を見られたくないし、歯だって磨きたい。
(あの扉を開ければ何人か待ち構えているかもしれないし、こんな姿ぜったいヤダ)
ちゃちゃっと入ってしまえば問題ないだろうと、あまり物音を立てずにシャワールームへ逃げ込んだ。鍵さえ閉めれば入って来れない。
ちゃんと閉まったかノブを確認して「ふぅ」と一息。
それから15分程で済ませ、髪も身体もさっぱりきれいにしたから、同じ服は着たくない。
着替えはないかと引き出しを開けると、一通り揃っているのだがどれも男物ばかりだ。
(パンツは流石にウエストが合わないし、バスローブはかなり攻めすぎでしょ……)
もっと何かあるだろうと奥の方までほじくり返すと、バスローブの下に女物らしきローズピンクのオーガンジーを発見した。
なんだ探せばあるじゃないかと引っ張り出したのだが、かなりすけすけひらひらなベビードールだ。
「いや……趣味が……っ(一体誰の趣味よ……しかもこんな奥に隠して)」
厭らしいわねぇとまたそっと仕舞って、ここは安定の(全然安定じゃないけど)彼シャツスタイルで臨むことにした。
ベビードールが入っていた引出しとは別の場所、クローゼットに掛かっていたシャツだ。きっとここから取ったならアレを見たということがバレないだろう。
ただそう願う。願うというか出来れば見なかったことにしたい。アレは多分知らない方が良かったものだと思う。
(もう遅いけど)
最後に、脚はシーツで隠して、それから二つ目の扉を開けた。少しだけ顔を覗かす。
──「起きたのか」
低い声を響かせ、ソファーから、ぬうっと立ち上がった目麗しい人。
「え、はハント公爵様……?」
私は今ナゼココニ状態だが、そう言えば見たことある部屋だ。
以前、ミハエルと一緒に扉をトントンして返事が無いから勝手に開けた部屋。
「え、え? ここ、ハント公爵様の執務室ですか……?」
「そうだが……、それよりも、お前のその恰好は……」
脚を覆っていたシーツは床を隠すためと化して、呆然と立ち尽くす私。
そんな私の姿に、なんて恰好だと言わんばかりに目を逸らすのだが、私は今それどころじゃない。それどころじゃないのだ。
ここがハント公爵の執務室だとするならば、あの、あのベビードールは……
(お前の趣味かーーい……! 全然知りたくなかったよーー! てかあれ誰に着させてるのーー……!)
思わず生唾を飲んだ私だった。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる