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お勉強はやり方次第
しおりを挟む「やっほー、メグちゃん元気だった?」
メルヴィンに案内された教室を覗くと、メグは「むー」と唇を尖らせながら鼻の下にペンを乗せ、両肘を机について両手には顎を乗せている。見るからにつまらなそう。
私が声を掛けると、背筋を伸ばしペンなんか床に落として「チーちゃん!!」と名前を呼んだ。
ドレスや髪のセット、メイクは今日もバッチリ。
「あのね! さっきチーちゃんのこと上からね! 呼んだんだけどね!」
そう言って嬉しそうに近付いてくるのだが、私の隣にメルヴィンが居ると分かって「うげ」と似つかわしくない声が出る。
(ヒロインよ、お前は色んな表情を見せてくれるな。よきよき)
「何でチーちゃんとめるるんが一緒に居るの!? チーちゃんにまで私に勉強しろって言わせたいんでしょ! めるるんが皆に言わせてるのメグ知ってるんだから!」
ぷくぅと頬をふくらませる姿は本当にヒロインぴったりだ。己でそう気付くぐらい何人にも言われたのかと呆れるが、流石にメルヴィンのせいだと言うには可哀想なので「違うよ~。さっき偶然メルヴィンさんと初めて会ってね、ここにメグちゃんが居るって言うから会いに来たんだよ」と笑顔で嘘をついた。
優しい嘘はたまに必要になる。
するとメグは花が咲いたようにぱあっと笑い、「そうなの!?」なんて言って簡単に騙されちゃって。単純でお馬鹿さんでなんとも可愛い奴だ。
世間一般的な常識とか、失礼だとか礼儀だとか、そんなもの気にしなければ誰にでも懐く動物と一緒。基本誰にでも尻尾を振る。
「メグちゃんも勉強してるんだ~、私達の時と全然違うから覚えられないよねー」
「チーちゃんも!? メグほんと勉強きらい! 全然楽しくない!!」
べー、とメルヴィンに向かって舌を出し精一杯の反抗するメグ。やり方がかなり子供のような気がするが、これもまたメグらしい。
「歌うのは好きなんだけど楽器全然弾けない! 嫌だって言ってるのに無理矢理やらすの! ひどくない!? 指ちょー痛いの! 大事にしてたネイル剥がれたしサイアク!!」
「あー、私も楽器はなぁ~、ジッとして指だけ動かすのがね……。折角かわいいネイルだったのに。私はハント公爵に嫌だって言ってめっちゃ頼んだよ」
「いいな~、メグもアっくんに頼もうかな~、めるるん全然話聞いてくれないしぃ~~」
「私いま世界史教えられてるんだけどメグちゃんは今どこらへん?」
「え、チーちゃん早くなぁーい? メグやっとこの国の都市の名前覚えられたんだよね。歌にのせてやっとだった……」
「歌にのせて覚えるとか寧ろすご。それ他の人じゃなかなか出来なくない?」
「ほんと!? うれしー!」
リアルな感想は(まだそこかぁ、先長ぇ~……)なのだが、メグみたいなタイプは褒めると伸びるタイプだろうから兎に角褒めろ。それと出来るだけ寄り添ってあげるとより心を開いてくれるだろう。
「そういえばメグちゃんいつも可愛いドレス着てるよね、めっちゃ似合ってる~。自分で選んでるの?」
「そうなの!! 可愛いでしょ!?」
そして自分の好きなものはトコトンこだわるタイプだと思う。結構王妃様に似ているなと感じていて、似ているからこそ気に入られているのだろう。
そういった『好きなもの』を上手く活用すれば教えるのも簡単な話だと思うのだが、元々責任を伴って生まれてきた王族の子供とはやはり教え方が違うのだろうか。そちらの方が私には理解できない。
アッくんも無駄に知識だけはあるのだろう。勉強出来る馬鹿って結構居ると思う。
(あ。無駄だなんて不敬、不敬)
「あのね! メグがね! こんな色でこんな生地でこんな風なドレスが欲しいって言うと持ってきてくれるの! もう全部可愛くて、靴も、帽子とか日傘とかも色んなの合わせたりしてね、すごい楽しい!!」
「あはは! ほんと楽しそう! お洒落が好きなんだね?」
「うん、大好き!! あのね、メグの着てるドレスはね、お花がいっぱい咲いてるノーリス地方の伝統的な染色なんだって!」
「へー!」
「えへへ、この色可愛いよね!」
この色可愛いよねと話すメグの瞳は、いつかのグレンと同じくキラキラと輝いている。
(あ、これいけるやつだな……)
「あ、そうだ! 私も最近習ったんだけど! 隣の国の民族衣装がすっごい可愛いの!」
「へぇ! どんなどんな!?」
「スイスみたいな民族衣装に細かい刺繍がしてあってね、地域によって模様が違うの! 山側と海側でも生地が違くて面白いんだぁ」
「えー、なにそれ!」
「国とか地方で民族衣装も違うし、ドレスの流行りも違うからさ、それ知ると面白くない??」
「うん! それすごい面白い!!」
他にはどんなのがあるのと興味津々なメグだが、ここからはメルヴィンの番。好きなものを学べば、地域やその特色を覚えられるだろう。
メグは素直だしきっと覚えも良い方だから、あっと言う間にアーサー殿下の婚約者として相応しいと言われる筈だ。
「私もまだそんな詳しくないよ~、メグちゃんには優秀な先生が居るでしょ?」
「そっか! めるるんもっと可愛いもの教えて!!」
「っ勿論ですとも! この私にお任せ下さい」
メルヴィンと目を合わせ、微笑みあった。
互いに頷いて「じゃあメグちゃん、また来るね」と別れを告げると、当初の予定である書庫へと向かう。
もちろん警備中であった騎士にご同行をお願いしたのは言うまでもない。
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