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剣神と破壊神

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『クククッ、巧遅をあなどるべきではないが、今は拙速をたっとぶべきか……まぁいい! さあ、想像したまえ!私の名はカグツチ!生まれ出る為に親神を殺し、生まれながら“神殺し”を宿命付けられた炎を統べる“火之迦具土神ホノカグツチノカミ”だ!汝のおもう神の姿を今ここにあらわしたまえ!さすればその姿をもって契約の証としよう!』

『なんだよそれ?えっと……そのホノカグツチって言ったか?姿形を想像しろってのか?そんなの想像出来る筈な…!!?ぐっ!!なんだこれ?……痛え……訳が判らんが痛すぎる!全身に電気流されてるみてぇだ』

 全身に感じる突然の痛みにその場で崩れ落ちてしまう……

『なんだ…あのバァさんミネルヴァ 何も話してないのか? 今、君の身体…正確には全身の体細胞には“私”を保持していた神酒ソーマが染み渡り、。簡単に言うと……君は私を宿すに相応しい身体にいるところだ』

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 暫しの時を戻り…

 阿智羅達が社でホログラムとの邂逅を果たしていたちょうどその頃…

 白漆喰と赤土の瓦で葺かれた古い家屋だったは…一体何をすればそうなるのか…もはや原型を留めない瓦礫の山と化していた。

 その傍らには、全身をくまなく朱に染めた老人が、その朱に染まった姿とは正反対の覇気をまとって一振りの太刀を構えている。

「どうした…お終いか?まだ儂は生きておるぞ?なぁ小童シヴァよ。神格を名乗りあげたわりには不甲斐ないのではないか?」

「クククッ……挑発には乗らないよ?そもそもあんたの剣術じゃあ俺には傷一つつけられないのは既に分かってるだろ?まぁ俺もさ、もう少しあんたと遊んでやってもいいんだけど…」

『カタン…』

 言葉の終わりを待たず藤原老人がシヴァに向かって歩き始める。

「へぇ…すごいや」

 なんの変哲もない歩き方…だがその重心は全くぶれない。恐ろしく静寂な移動にも関わらず、躍動する瞬間を切り取って並べたような移動法…

 類い稀な歩法で近づく藤原に対し、ただ立ち尽くすシヴァは嘆息を漏らす。

「あんた大したもんだよ…人間の骨格でが出来るなんて」 

「…大層な口は我が終生の剣をかわしてからほざくがいい」

 老人があと半歩で間合いに入らんとする位置まで来た時……なんと老人は踏み込んで来たのだ。

「流石にそれは悪手だよ」

 間合いに入った瞬間…振りかぶった手から不可視のエネルギーが老人を襲う。先刻からさんざ晒されてきた見えないエネルギーによる斬撃をどうやって感知したものか、藤原老人は明らかに回避の動きを見せる。

 遠間からであれば、そのモーションからある程度かわすのも不可能ではなかったが…剣の間合いに入らんとするこの距離での回避は正しく神業と言って良いだろう。しかし…

「どうしたのさ?終生の剣とやらは?それとも…もしかして“終生を掛けた剣の極み”ってのは避け方の事かい?」

「「それも間違いでは無いがな…」」

 瞬間……どれほど高度であろうとも“AI“である筈のシヴァの顔に…真実の狼狽が浮かんだ。そのままの表情で首が胴体と

「二天独流…終熄の刀振……幻椿」

 奥義の名を呟く老人は。その振り抜いた剣を杖として膝をつき荒い息を吐いている。

 立ち尽くすシヴァの胴体の上で、ズレ続けた首から上は、そのまま身体の前に落ち……そして待ち構える

「あんたすげーな…流石に驚いたよ!人間の曖昧な感覚器とは違うのに、一体どうやって俺のセンサーを騙したんだ?あんたは確かに俺の前に居た筈なのに、しかも剣をはじく筈の俺の力場フィールドが全く反応しないなんて…」

 膝をついたままの体勢でシヴァを見据える老人が息を整えながらニヤリと笑う。

「それを聞いてどうする?いくら神をのたまおうと所詮デジタルしか解さん貴様らに0と1の狭間の事など理解出来んよ…」

「これは…本命の前に随分愉快な余興があったもんだ。じっくり愉しませて……あっ…バカ!」

 その瞬間…常人にはあり得ない速度で反応した藤原老人は、その場から一息で飛び退き、老人宅の隅に在った大きな庭石に着地する。

「……グッ、…」

 油断と言うには酷だろう…老人が知覚出来る範囲には敵はいなかったが、それでも無視し得ない“なにか”を感じて最大の回避行動を取ったのだから……

 だが、それは結局の所、徒労に終わる。周辺のを警戒して庭石に着地した老人は十分に用心深いと言って良いだろうが……着地した次の瞬間にはが庭石から生えていたのだ。

「あーあ……もう…なんで邪魔するかな……ちゃんと説明してもらうよプリティヴィー……」

 体に抱えられた首から器用に視線を向けた先、それこそ何の変哲も無い地面が姿

「申し訳ありませんシヴァ様、しかしイザナギ様と約束した時間が差し迫っております」

「……君って融通が聞かないって言われない?」

「…恐縮です」

 次の瞬間、老人に絡みついていたいばら状の岩は跡形も無く消え、その場に留まって居られなくなった老人がよろめきながら庭石から落ちる。

「まあ、こうなったら仕方ない…とりあえずじいさんを始末して…」

 そう呟いた瞬間…何の前触れもなく老人の姿はシヴァの前から消えた…

「……………ちっ!」

 一瞬、忌々しげな視線を老人が消えた場所に向けた後…独白、いや地面からせり上がって来た女性に向けてか…

「まぁいい。これで“”ってのは確定した。そいつが我らのだってんなら“兄”の偉大さを分からせてやんなきゃな…」

「御意にございます……」

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