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仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 89
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第一章 八五話
サルダンを重力魔法にとらえ、即座にヴィクトールと仮面の人物との戦闘を追いかけて行ったグラブフットだが、程なくサルダンが“重力魔法の影響下”から脱出した事を魔法の手応えから感じとる。
「ちっ!」
自身の手札の中では切り札の一つである“重力魔法”からこうも容易く逃れるとは....だがヴィクトールとランスロットとの戦闘の間合いに侵入している以上、おいそれと隙を作ればランスロットの攻撃を食らうのは目に見えている。
「ほれ? なにを呆けておる? 割って入って来たのだ。それなりの芸当は見せてもらわんとの?」
そう言って自分とヴィクトールに無数の蒼炎と水弾をあめあられとバラまいてくる。それらを避わしながら近づいて来たヴィクトールが簡易な障壁を展開しつつ、グラブフットへ小声で話かける。
「グラブフットよ! 今はガスの事は捨て置け! ヤツとてクレオール家の超越者級が一人、そう簡単にやられはせん! それよりヤツだ。今のままでは単純に物量で押し切られる! 82秒で構わん! ヤツを押さえておけるか?」
「また厄介な事を言いやがる! 何か手があるんだな? ヴィクトール師よ?」
「任せい!」
短い返答を返すと同時にヴィクトールはグラブフットの背後にまわる。
「さて! ならばこっちも全開でいかせてもらうぜ!」
そう言ったグラブフットは自身に集積していた魔力を集中し、一瞬で魔法構文に満たしていく!
「ふん! その程度の魔力で編んだ魔法なんぞワシに効くと思うか? 舐めすぎよ!」
仮面の人物はグラブフットが魔法を構築する瞬間の隙をついて、より貫通力の高い水弾を連続で発射する! もしグラブフットが避けようものなら背後のヴィクトールに当たる絶妙な狙撃! だがグラブフットは、落ち着いた様子で自らの左手を前方に向けて『やや角度のある形』でかざした。
「“魔力乱行”」
“カシャン!”
まるで剣が鞘に収まる様な不思議な音と共に、二人の前方に僅かな透明度を伴った黒い壁が、前方へ倒れ込むような形で形成される。
ランスロットの放った水弾は、その高圧で石材の柱すら真っ二つにする程の貫通力を備えているが、グラブフットの作った壁に当たる直前、まるで自らの意志を持つかの様に進行方向を変えて、地面に吸い込まれていった。
「ほう?」
全ての水弾が地面に吸い込まれると、ランスロットは新たな水弾を放つ事はせず、その壁をしげしげと眺め....
「.....まさか、まだ“重力魔法”の使い手が生き残っておったとはの? 貴様メルローズ家縁の者、いや、生き残っている可能性があるとすれば....貴様グランベリー・ド・メルローズの息子か?」
「.....貴様? 何故それを知っている?」
「はて面妖な? そこに居るヴィクトールからは何も聞いてはおらんのか? 貴様の父が誰の手によって死んだのか?」
グラブフットは瞬間、背後に居る筈のヴィクトールに向き直りたい衝動にかられる....が、戦闘中に、そんな致命的な隙を見せる訳にはいかない。
「クククク、なる程、てめぇに聞きたい事がまた一つ増えたな。だがよ、それはてめぇをのしてからゆっくり聞いてやる!」
「良いのか? ヴィクトールがなにやらしている様だが我に効くかどうかは分からんぞ?」
そこで、今まで詠唱に集中していたヴィクトールが、
「なる程、確かに貴様は魔法使いとしては我より数段上かもしれん。だがな? 貴様は生まれ出でたる時から今の自分であったのか?」
「.....どういう意味か分からんな?」
「なに....簡単な事よ、47年前に貴様にしてやられて以来、ワシはただこの瞬間の為だけに魔法を練り続けてきた。我らの一族が始祖の血を受け継いでいるとはいえ、けして、短くはない時間をな!」
「カカッ! ならば見せて貰おうか!」
「見せいでか!」
そう言い放ったヴィクトールが魔法構文に魔力走らせる! ランスロットを中心にしてその周囲の地面に光るラインが現れ、一瞬で一辺が10m程の正方形のラインが構築される!
「“断絶吸収結界陣”」
光るラインから一瞬にして光る壁が立ち上がり、更に上部を覆って光る正方形の結界がランスロットを完全に包み込んだ。
「何かと思えば....この期に及んで結界で我の動きを抑えようとはの....この結界が如何に堅固に固められていようとも、我の力を持ってすれば.....」
そう言って自動型固定砲台に命令を発して水弾を放とうとするが....
「.....貴様? 何をした?」
自動型固定砲台は命令を受け付けず、ピクリとも反応しなかった。
「確かに貴様の魔力量は凄まじい、基本的な魔法にすら馬鹿げた威力をもたせ、魔法の構築にも殆どタイムラグを発生させず、しかもそれを無尽蔵に連発する....それはひとえに貴様の魔力集積のスピードと体内魔力の保有量がワシらとは比べ物にならんからじゃ....」
ヴィクトールが話す間にも、ランスロットは魔法の構築をしようとする....が、ことごとく構築に失敗し、あまつさえ自動型固定砲台すらも消えかかっている。
「ワシはその差を埋めるべく修行を重ねてきた。それこそ連日の様に血反吐を吐き、魔力枯渇で死にかけるまで魔法の精度と威力を高め、魔力量を増やす為あらゆる知識を求めた。だが....ある時気づいたのだ。どう足掻いても貴様の魔力量には追い付けんとな....」
そう言った瞬間....ヴィクトールはガクリと膝をつき、荒い息を吐き出す.....
「....まさか、これは?」
「一つだけ教えてやろう、ワシはな15年前....ちょうど三首の神獣がこのグランヴィアを襲った時、この場にいたのだ!」
「貴様?!」
仮面の人物の表情は当然見えはしないが....声音には確かに焦りが窺えた。
「察しのいい貴様の事だ、気づいたようだな? そう、そこはギドルガモンの首が一つ“無限の顎”を模して作った“強制魔力吸収結界”よ! ヤツの他の首が使ったブレスはそもそも必要な魔力量が多過ぎて再現は困難じゃったが.....“魔力吸収とそれを限定的に使用する概念”だけはなんとか再現出来た。それでもヤツを始めて見てから12年の歳月を用したがの!」
「きさまぁー!!」
「無駄じゃ! ギドルガモン程の吸収スピードは再現できんかったが、その結界は強制的に魔力を吸収して結界の強化と維持に変換させておる。貴様がどれほどの魔力量を誇っていようとも魔法を構築したはしから魔力を奪われて結界に吸収されるだけじゃい!」
サルダンを重力魔法にとらえ、即座にヴィクトールと仮面の人物との戦闘を追いかけて行ったグラブフットだが、程なくサルダンが“重力魔法の影響下”から脱出した事を魔法の手応えから感じとる。
「ちっ!」
自身の手札の中では切り札の一つである“重力魔法”からこうも容易く逃れるとは....だがヴィクトールとランスロットとの戦闘の間合いに侵入している以上、おいそれと隙を作ればランスロットの攻撃を食らうのは目に見えている。
「ほれ? なにを呆けておる? 割って入って来たのだ。それなりの芸当は見せてもらわんとの?」
そう言って自分とヴィクトールに無数の蒼炎と水弾をあめあられとバラまいてくる。それらを避わしながら近づいて来たヴィクトールが簡易な障壁を展開しつつ、グラブフットへ小声で話かける。
「グラブフットよ! 今はガスの事は捨て置け! ヤツとてクレオール家の超越者級が一人、そう簡単にやられはせん! それよりヤツだ。今のままでは単純に物量で押し切られる! 82秒で構わん! ヤツを押さえておけるか?」
「また厄介な事を言いやがる! 何か手があるんだな? ヴィクトール師よ?」
「任せい!」
短い返答を返すと同時にヴィクトールはグラブフットの背後にまわる。
「さて! ならばこっちも全開でいかせてもらうぜ!」
そう言ったグラブフットは自身に集積していた魔力を集中し、一瞬で魔法構文に満たしていく!
「ふん! その程度の魔力で編んだ魔法なんぞワシに効くと思うか? 舐めすぎよ!」
仮面の人物はグラブフットが魔法を構築する瞬間の隙をついて、より貫通力の高い水弾を連続で発射する! もしグラブフットが避けようものなら背後のヴィクトールに当たる絶妙な狙撃! だがグラブフットは、落ち着いた様子で自らの左手を前方に向けて『やや角度のある形』でかざした。
「“魔力乱行”」
“カシャン!”
まるで剣が鞘に収まる様な不思議な音と共に、二人の前方に僅かな透明度を伴った黒い壁が、前方へ倒れ込むような形で形成される。
ランスロットの放った水弾は、その高圧で石材の柱すら真っ二つにする程の貫通力を備えているが、グラブフットの作った壁に当たる直前、まるで自らの意志を持つかの様に進行方向を変えて、地面に吸い込まれていった。
「ほう?」
全ての水弾が地面に吸い込まれると、ランスロットは新たな水弾を放つ事はせず、その壁をしげしげと眺め....
「.....まさか、まだ“重力魔法”の使い手が生き残っておったとはの? 貴様メルローズ家縁の者、いや、生き残っている可能性があるとすれば....貴様グランベリー・ド・メルローズの息子か?」
「.....貴様? 何故それを知っている?」
「はて面妖な? そこに居るヴィクトールからは何も聞いてはおらんのか? 貴様の父が誰の手によって死んだのか?」
グラブフットは瞬間、背後に居る筈のヴィクトールに向き直りたい衝動にかられる....が、戦闘中に、そんな致命的な隙を見せる訳にはいかない。
「クククク、なる程、てめぇに聞きたい事がまた一つ増えたな。だがよ、それはてめぇをのしてからゆっくり聞いてやる!」
「良いのか? ヴィクトールがなにやらしている様だが我に効くかどうかは分からんぞ?」
そこで、今まで詠唱に集中していたヴィクトールが、
「なる程、確かに貴様は魔法使いとしては我より数段上かもしれん。だがな? 貴様は生まれ出でたる時から今の自分であったのか?」
「.....どういう意味か分からんな?」
「なに....簡単な事よ、47年前に貴様にしてやられて以来、ワシはただこの瞬間の為だけに魔法を練り続けてきた。我らの一族が始祖の血を受け継いでいるとはいえ、けして、短くはない時間をな!」
「カカッ! ならば見せて貰おうか!」
「見せいでか!」
そう言い放ったヴィクトールが魔法構文に魔力走らせる! ランスロットを中心にしてその周囲の地面に光るラインが現れ、一瞬で一辺が10m程の正方形のラインが構築される!
「“断絶吸収結界陣”」
光るラインから一瞬にして光る壁が立ち上がり、更に上部を覆って光る正方形の結界がランスロットを完全に包み込んだ。
「何かと思えば....この期に及んで結界で我の動きを抑えようとはの....この結界が如何に堅固に固められていようとも、我の力を持ってすれば.....」
そう言って自動型固定砲台に命令を発して水弾を放とうとするが....
「.....貴様? 何をした?」
自動型固定砲台は命令を受け付けず、ピクリとも反応しなかった。
「確かに貴様の魔力量は凄まじい、基本的な魔法にすら馬鹿げた威力をもたせ、魔法の構築にも殆どタイムラグを発生させず、しかもそれを無尽蔵に連発する....それはひとえに貴様の魔力集積のスピードと体内魔力の保有量がワシらとは比べ物にならんからじゃ....」
ヴィクトールが話す間にも、ランスロットは魔法の構築をしようとする....が、ことごとく構築に失敗し、あまつさえ自動型固定砲台すらも消えかかっている。
「ワシはその差を埋めるべく修行を重ねてきた。それこそ連日の様に血反吐を吐き、魔力枯渇で死にかけるまで魔法の精度と威力を高め、魔力量を増やす為あらゆる知識を求めた。だが....ある時気づいたのだ。どう足掻いても貴様の魔力量には追い付けんとな....」
そう言った瞬間....ヴィクトールはガクリと膝をつき、荒い息を吐き出す.....
「....まさか、これは?」
「一つだけ教えてやろう、ワシはな15年前....ちょうど三首の神獣がこのグランヴィアを襲った時、この場にいたのだ!」
「貴様?!」
仮面の人物の表情は当然見えはしないが....声音には確かに焦りが窺えた。
「察しのいい貴様の事だ、気づいたようだな? そう、そこはギドルガモンの首が一つ“無限の顎”を模して作った“強制魔力吸収結界”よ! ヤツの他の首が使ったブレスはそもそも必要な魔力量が多過ぎて再現は困難じゃったが.....“魔力吸収とそれを限定的に使用する概念”だけはなんとか再現出来た。それでもヤツを始めて見てから12年の歳月を用したがの!」
「きさまぁー!!」
「無駄じゃ! ギドルガモン程の吸収スピードは再現できんかったが、その結界は強制的に魔力を吸収して結界の強化と維持に変換させておる。貴様がどれほどの魔力量を誇っていようとも魔法を構築したはしから魔力を奪われて結界に吸収されるだけじゃい!」
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