上 下
45 / 100

現場の事情は・・・偉い人には分からん物なんですよね? 45

しおりを挟む
      第一章  四一話



 カナタがバルーンポッドツノガエルもどきを食べさせられていた頃...


 ロアナの故郷では、捕らわれの身のサブリナが一人いた。



「まったく...ついてないね」  



 事の起こりは、変事を知らせる為に放った使い魔が、死んだのを感じ取った事だ。



 魔力を通わせて使い魔にしているとは言え、基本的には弱い鳥なのだ。大型の魔物に遭遇すると刈られてしまう可能性もある。



 残念ながら長距離通信可能な使い魔は他にいない。危険を承知で直接知らせる為、領都を秘密裏に脱出した。


 しかし更に予想外の事態に遭遇してしまう。


 人目を避ける為に選択したエルグラン大森林を抜けるルートで、ギルムガンの侵攻部隊に鉢合わせしたのだ。結果は見ての通りである。



「ククッ、まあ暫くの辛抱だ。次の満月はもう5日後だからな」



 腹立たしい事に、軽薄で皮肉屋の見張りだ。こんな奴に魔法で遅れをとったのが、余計に腹立たしい。



「ふん、あたしの命もあと5日って言いたいのかい! せいぜい目を離さないこった。このまま大人しくギドルガモンバケモノの生贄なんかになってたまるもんか!」



 盛大に啖呵を切って男を睨みつける。軽薄な物言いからは想像し辛いが、この男はサブリナがテイムしていたモンスターをことごとくなぎ倒して、サブリナを魔力切れに追い込んだのだ。“潜在魔力量の底が見えない”という意味では、ヴィルヘルムと同等か、それ以上かも知れない。



「クククククッ、何も生贄にしようなんて思っちゃいないさ。奴の根城に繋がっている“幻晶の回廊”には、最後に特殊な封印が施された扉があるんだ。封印を解く為には開封の為の術式コードと、一定量の魔力が必要なのさ。お前さんにはその“魔力を込める役”をして貰いたいだけだ」



「はん!だね。お前が自分でやりゃあいいんだよ」



「俺の代わりにと一戦やらかしてくれるなら構わんがね」



「...あんたたちは本当にとやる気なのかい?どう考えても自殺と変わらんだろ?」



 エルグラン大森林は領全体からすれば“戦略的価値”が薄い。なのに大部隊が駐留していた為に鉢合わせした。それが“ギドルガモン討伐”の為だと言うのだ。



「...どいつもこいつも勘違いしてる様だから教えてやろう。そもそもギドルガモン三首の神獣を始めとする“三柱の神獣”と言われるモンスター達の事は知っているか?」
 


「ふん、そんなのは中央七カ国に住んでる奴なら子供でも知ってるさ」



「まあ、知ってて当然だな。奴らはそれぞれ凄まじい魔力と、それこそ神の力の如き固有魔法スキルを備えているが、どうして奴ら三匹だけがそんな力を持っていると思う?」



「...そんなの知ったこっちゃないね」



「ハハハッ、まあ聞けよ。奴らはな、本当になんだよ」



「...傍迷惑な神だな。とても拝む気にゃ成れない」



 目の前の男はサブリナのに苦笑いをしてから



「グラム神聖国以外には、神なんてそれこそあふれかえっているが、この場合は意味が違う。少し“概念的な神”という物から離れて“神を名乗れる程の存在”をイメージしてみな」



 ヤツの言い分を少し考えてみる。



「つまり、神の様に自由にモンスターを生み出す事が出来る存在がいたって事か?」



 ヤツはニンマリ笑って、



「ああ、俺の一族は...」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日、ライモンドは早速、近隣の仲間達に招集を掛けて、僕からの情報とロアナからの情報を順に説明していった。

 
 マルグリットの現状に関しては、やはり複雑な思いがあるのか心境はそれぞれの様だ。



 それでも、概ね今後の方針転換には賛成の様だった。アルブレヒト公とマルグリットの人望だろう。



 だがサブリナの件とギルムガンの思惑については少し意見が割れた。自分たちで助けに行くと主張する者達と、“少なくない税”を搾り取られているからには、グラム神聖国が対応するのが筋だと主張する派閥に分かれたのだ。



(これは難しいな...)



 僕とロアナは同じ建物の別の階層の部屋で待機している。話し合いの内容が把握出来ているのはミネルヴァの高性能集音機能マイクのおかげだ。

 

 ロアナも、村に関して重要な話なので聞かせている。ミネルヴァから会議の様子が聞こえて来る事に猛烈に驚いていたが“そういう魔法”だと納得させた。



「俺からしてみれば、こんな話し合いに時間を取られる事自体が無駄だと思う。今はとにかく時間が惜しいよ」



「...そうですね。助けに行くと言っても、恐らくギルムガン側と直接戦える程の戦力は、領都の状態からして送り込めないでしょうし...行くとしても少数の精鋭だけで救出が精一杯。ましてグラム神聖国の軍は、どう考えても間に合わないでしょう。サブリナさんが居なくても儀式が出来る可能性が有る以上、解決策足り得ません」 



 カナタにしてみれば旧大公領の現状を確認して王国のパウルセン宰相に報告し、にマルグリット達の伝言を届けたら、さっさと王都オゥバーシュタインに戻るでいたのだ。



(これは本当に困ったな...)



 旧大公領に来る前にパウルセン公爵やビットナー伯爵に、事の次第は報告してある。王国側からすれば隣国の事とはいえ、今回の軍事侵攻は直接関係がない。なのでカナタには情報収集以外の事は依頼されていない。

 

 問題はマルグリットの縁者達だ。元々、手紙を渡したら、さっさとワーレンハイト領にいるマルグリットに伝えて帰るつもりだった。しかし現場ではあと4日でギドルガモンヤバイ奴が暴れだすかも知れない切迫した状況に陥っている。本当に勘弁して欲しい。



{ミネルヴァ、データベースにギドルガモン三首の神獣のデータはあるかい?}



{御座います。当該対象のデータを閲覧なさいますか?}

 

{ありがとう、出してくれ}



 瞬時にモノクルにデータが表示される。各種の能力や項目を目で追って行くと、どうにも見逃せない記述を発見した。



{ミネルヴァ、この記述だとギドルガモンはした生物じゃ無く...}



{その通りです。対象は、この世界に魔 力エネルギー粒子超古代文明が作り上げたものです。一種の生物兵器実験動物とも言えます}



{そいつは...あまり関わりたくないな。是非で幸せになって貰いたいもんだ} 



{同感です。対象の能力は、主殿のスキルとは相性が悪い上に、魔力量も拮抗しています}



{戦うは元々ないんだが...このまま見捨てるのもなぁ...}


 それは後味が悪い。仕方ない、その封印を解く為に攫われたサブリナをまず取り戻そう。あとはどうにかして時間を稼いでグラム神聖国に責任を取らせる。


{ミネルヴァ、ロアナの村の座標データはあるかい?}


{御座います。“オートアクティブ”の経路探索をしておきます}


{ああ、頼むよ}


 しまった、急に喋らなくなった僕を見てロアナが怪訝な顔をしている。


「放置してしまって済みません。それでロアナさんに一つお願いがあるのですが...」
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...