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道具は・・・手に馴染む物が一番だと思いませんか? 23

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      第一章  十九話


 アレディング商会を訪れた翌日。

 10番地区の“貴族街の門ノーブルゲート”に赴き門兵達にビットナー伯爵邸へ訪問確認アポイントに行って貰った。

「お手数をおかけします。突然申し訳有りません」

「いえコーサカ様から連絡があった場合は、迅速かつ最優先でお取り次ぎする様に命令を受けておりますので」

 迅速に連絡が付くようにビットナー伯爵が根回ししてくれていた様だ。好待遇で気が引ける。

 そうこうしてる内に屋敷へ走ってくれた門兵が帰ってきた。

「申し訳有りません。本日伯爵はご不在です。王城への御出仕との事です」

「それでは...重ねて申し訳有りませんが、ビットナー伯爵が帰られたらこの手紙をお渡し頂けませんか」
 
 一通の封書を門兵に手渡す。留守の場合を想定して用意してきた物だ。10番地区への出入りは、よほどの事がない限り貴族も平民もここを通る。

「承りました。必ずお渡しします」

「宜しくお願い致します」

「コーサカ様!」
 
 用も済んだので一旦宿に戻る事にした時、突然声をかけられる。振り向くと伯爵家お抱え魔法使いのシドーニエがそこにいた。

「今屋敷でコーサカ様がお見えと聞いて参上しました」

 今、言付けてしまったのでどうにもが悪い。

「こんにちは、シドーニエさん。ビットナー伯爵にご相談したい事がありまして伺ったのですが...お留守と聞いてこちらの方に言付けをお願いした所です」

「そうですか。もし宜しければ私が王城までご案内して伯爵閣下に取り次がせていただきますが?!」

 随分前のめりな感じで案内を買って出てくる。正直なところ、先日の件があるので王城は避けたい。

「お申し出はありがたいのですが...公務の邪魔をするのもどうかと思いますし、今日の所はご遠慮させて頂きましょう」

「そうですか...」

 そんなにガッカリされると若干申し訳なくなってくる。どうせ誰かに聞こうと思っていたし丁度いいか...

「シドーニエさん。もし時間の都合がつくようでしたら...幾つかお伺いしたい事があるのですが...」

「何でも聞いて下さい!!! 都合は生まれた時から付いてました!!!」

 なぜだろう?彼女のうしろにパタパタ揺れる尻尾が見えるような気がする。

「...ありがとうございます」

 そこで先ほどの門兵にもう一度声をかける。

「申し訳ありません。ビットナー伯爵に事情の説明をお願いできますか? 彼女が先に戻れば不要ですので」

「お任せ下さい」

「それではシドーニエさん、行きましょうか」

「はい。どこかゆっくり出来るカフェにでも...」

「...とりあえず付いて来て下さい」

 人選を間違えた気がするのは気のせいだろうか...

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 門兵達から見えない所でシドーニエに質問する。

「先程お話しした通り、少しお伺いしたいのですが?」

「ひゃい! 何でしょう?」

 緊張しているようだ。折角である彼女に同行して貰えるのだ。しっかり貰おう。

「王都には図書館はありますか?」

「はぁ、幾つかありますが...」

 どうも内容が意外だった様だ。そこでミネルヴァから、

{主殿、王国の図書館にある蔵書の内容ならば私のデータベースにある物で充分まかなえるかと...}

{ミネルヴァの知識については僕も疑ってないよ。これは調知識である様に“見える事”が重要なんだ}

{余計な事を申し上げました。お許し下さい}

{気にしてないさ}

「コーサカ様?」

「ああ、すいません。それでは王国の地図が見れる所はどちらでしょうか?」

「それでしたら8番地区の王立国土管理書院がいいと思います。王国の街、村、農地、街道、川、渓谷、山脈など様々な地形を測量・記録して保管してます。国土開発の指針に使用したり、治水工事の計画資料になったりするんですよ」

 それはすごい。精度は分からないが発想は既に近代国家に近い。

{ミネルヴァ、位置情報はあるかい?ああ、近くの人目を避けられる場所で頼む}

{問題ありません。座標設定しておきます}

 シドーニエの説明はまだ続いていた。

「まあ、まだ国土全体を網羅している訳ではありません。実は国立機関として立ち上がったのは先代陛下の頃で、歴史はまだ浅いんです。やっと主要部分の骨組が出来た位ですね」

「それでもすごいと思いますよ。しかしその様な重要施設に私の様な者が立ち入れるのでしょうか?」

「心配無用です。私と一緒であれば入れますから。これでも伯爵家筆頭魔法使いなんですよ」

 少し誇らしげに話すシドーニエ、ここは乗っておこう。

「ありがとうございます。流石ですね。シドーニエさん是非お手伝い頂けませんか?」

 じっと見つめてお願いする。さて...

「!!なんでもお手伝いしますぅ!!」

 釣れた。

「それではシドーニエさん。ついて来て下さい」

「そちらは8番地区の方向ではありませんよ? 只の路地ですが?」

「少し人目を避けたいだけです。こちらへ」

 二人で路地に入り彼女の右肩にてを置く。

「えっ?! コーサカ様?」

「転移魔法を発動します。“ムーヴ”!」

 面倒なので即発動した。エクスチェンジを使わないのは単に魔 力エネルギー粒子の節約に過ぎない。

 瞬時に移動した後...

「...もう少し心の準備をさせて下さい!!」

 怒られてしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 王立国土管理書院は思っていたよりも資料が揃っていた。目当ての資料もちゃんとあったので僕がその資料を確認した事はシドーニエから伯爵へちゃんと伝わるだろう。

「さてそれではシドーニエさんをお送りしましょうか」

「...」

 不満そうだ...

「コーサカ様。ご自分だけ目的を達してさようならは...少しばかり酷いのでは?」
 
 やはりそうかな。なんとなくは思っていたので埋め合わせの約束をする。

「申し訳ありません。今日はこの後、所用がありますので...後日に必ず埋め合わせさせて頂きます」

「絶対ですよ。まぁ図書館で“温泉”の場所を幾つか調べただけですからね。埋め合わせは相応のものでいいですよ。じゃあゲートまで送って頂けますか」

{ミネルヴァ、頼む}

{承知です}

「では転移魔法を発動します。怖ければ目をつむっておいて下さい。では発動します」

「それでは失礼します」

「こちらこそ!“エクスチェンジ”」

 ...シドーニエには悪いがこれで必要な仕込み情報は伯爵に届くだろう。

 そもそもシドーニエにしろ今日のあれが全くの素の反応とも思えない。まぁお互い様という所だろう。

 全部が演技ではないにしろ付き合わせたのだ。何かしら御礼はいるだろうが...

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