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道だと思っていたら他人の庭先だった…って事ありませんか? 9

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      第一章  五話


 ヒルデガルド・フォン・ビットナー伯爵令嬢は、私室で夜が明けるのを待っていた。

 今日、遅くとも半日程度の内に帝国の侵攻部隊がこの砦に達する。

 戦力差は絶望的だったが逃げ出す訳には行かない。戦力差をある程度埋める為の準備をこの2日間で砦の内外に構築し準備は整えた。

「それでも3日が限界だな...」

 ボソリと呟く。援軍の到着までどんなに早くとも王都からなら5日、領都からでも4日はかかる。1日足りないのだ。
 
 それでも僅かな可能性に掛けて策は打った。か細い糸で岩を手繰り寄せるような策ではあったが・・・何もないよりましだ。

 ここで部下達の命を使い潰す訳にはいかない。いよいよとなったら砦の放棄も視野に入れなければ...

 外が白み始めるのを視界の隅に映しながら、今日の防衛戦に思いを馳せていたところに...乱暴なノックが鳴る。

「司令官!緊急事態です!」

 (!?何事だ?もう現れたのか?)

 慌ててドアを開ける。そこには慌てた様子のワグナーがいた。

「何事だ?」

「それが...一体が起こったのか...とにかく急ぎ中庭までお越し下さい。我々では判断がつきません。見て頂いたほうが早いでしょう」

 ワグナーは元々冷静な判断力を持った優秀な男だ。何があってもこの様な慌てかたをする男ではない。

「!!?すぐに向かう。しばし待て」

 大急ぎで身支度を整えて至急ワグナーと共に中庭に向かう。

 そして中庭に繋がる扉を開けて外の光景を見た瞬間...絶句した。

「一体なにが起きたというのだ?!?!」

 そこには想像を絶する光景が広がっていた...

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その頃、帝国軍の野営地では...

「一体が起きている???」

 ヘルベルトが呆然としていた。

「有り得ない...」

 眼前の光景の意味が理解出来ず混乱している。

「やられた...」

 背後に目をやるとゲオルクが渋面で立ち尽くしている。

「ヘルベルト!至急各部隊長に通達!退。急げ!!!」

「!??!!了解ッ!」

 ゲオルクの判断は早く、そして的確だった。冷静に考えてそれしかない。とはいえ・・・なかなか決断出来ることではない。

「まったく...万能ならぬ身で有ることはわきまえていたつもりだが...あまりにも理不尽ではないか...」

 そっと呟くと...ゲオルクも撤退の指揮を執るため準備を始めるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「一体が起きたというのだ?!?!」

 最大5000人規模の人員が配置出来る中庭一面には夥しい数の剣や槍など...様々な武器が突き立っていた!  

「早朝に体を動かそうとした兵たちが発見しました。一部の武器には帝国正規兵の紋章があります」

「!!まさか?!!」

 普段は駐屯兵達の訓練や休憩に当てられているスペースだが、夜半に近づく物はいない。

 昨日の夜半に事態が起こったとして...厳重な砦内に一体どうやって???

「司令官!この様な物が!」

 武器の林を検分していた兵の一人が一通の封書を持って来た。

「?見せてくれ!」

 慌てて兵からひったくり、中を確認すると...そこには更に“想像の埒外”な文面が記されていた。

「???御礼状???」 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『 前略 

 この度はご迷惑をおかけしたにもかかわらず身元保証や旅支度をご提供いただき、誠にありがとうございました。

 おかげさまで、帰還の為の一歩を踏み出すことができました。
 
 皆様のご厚意に触れ、本当に有り難く、心より感謝いたしております。

 ご誓約いたしましたとおり、決してご迷惑をおかけする事が無いよう、帰還に向けて努力して参りたいと存じます。
 
 またささやかながら“お困りの事案”に付いて一助となればと考え、お礼の品をお贈りしますのでお納め下さい。

 本来はお会いしてお礼を申し上げる所かと思いますが、まずは書中にて、御礼を申し上げます。

                      草々 』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「......バカな!!!」
 
 手紙には署名がなかったが、内容から判断すれば先日現れた迷子の青年が送って来た物に間違いないだろう。

 彼の規格外な魔法を...ある程度体験したとはいえ...このような事態を巻き起こしたのが一個人だというのか?
 
「至急斥候を出せ!帝国の侵攻部隊の様子を確認させろ!」

 とりあえず緊急案件の指示をいくつか出し、何人かの幹部と共に執務室へ急ぐ。

「このままでは終わるまい...あの素朴な青年がここまでの存在だったとは! 下手に手出しすれば国が傾く事態になりかねん!」

 今は砦が助かった事よりも、起こった事態の対処に頭をいためるヒルデガルドだった。
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