異世界情報収集生活

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

124.隣国から見た爆弾殿下

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「情報屋、早く。」

「おー怖いこわい。」

怒りの炎に油を注ぐため大げさに怖がった情報屋は、紅茶で口を潤してから話し始めた。

「ではまず爆弾殿下。なんて単語をお聞きになったことがあるのでは?」

「耳に届いている。不敬罪での処罰は行われていないとも、ほぼ全ての貴族がそう言っていることも承知の上だ。」

「じゃあ話が……おぉっといけない!陛下、理由についてはご存じですかな?」

「……。」

国王の威厳を維持するためにも「知らない。」が言えない陛下の為に、そのまま続ける。

「理由についてですが生まれつき魔力が膨大過ぎたため、魔力暴走の危険があるんですよ、彼。魔力暴走を起こしたら、簡単に王城は砂に返るでしょうねぇ。」

「…!」

「何だと!」

「情報屋。」

騎士や宰相が声を荒げた中、一切の嘘を許さない銀の眼を情報屋に向けた。

「真実ですよ。お客に嘘は売りません。」

顔は来た時と同じように人を馬鹿にするように笑っている情報屋だが、銀の眼にはこちらを値踏みする黒の眼だけが映っていた。

「…………続けろ、情報屋。」

「かしこまりました、陛下。」

大げさに礼をした後、情報屋はさらに続ける。

「爆弾殿下ことカリストロ殿下に仕える側近は本来、護衛に最低三人、側仕えに最低二人、執務の補佐と情報集めのために文官三人でしょうかね。ですが、カリストロ殿下は魔力暴走の危険が生まれたその瞬間から今もなおあります。……そんな爆弾に仕えたいと立候補する奴は、居ないんですよ。たとえ、王位継承権が一位だとしても、ね。」

シンッ……っとなる部屋の空気に関わらず、情報屋の口は止まらない

「側近がいないに等しい。それが城にいる使用人たちにどう思われるのかは、ご存じでしょう?王太子であるにもかかわらず使用人たちに舐められる日々。そんな中、貴族達の中で高まるのは国王の次の子供に関する期待。ま、簡単に言えば王太子でありながら全ての貴族に見捨てられたという事です。唯一の後ろ盾になる旨味も無い存在としてね。暗殺もあったみたいですが、国王の助けを借りつつ唯一護衛として動いたレイピスト=セルバとヤドゥール=ガディアに阻止されていました。」

「教育に関しての情報は。国王の命令で教育係が付くだろう、嫌だからと言って辞められるものではない。」

「国王だって舐められてんですよ。上っ面の有能は国内では隠せませんから。」

ニヤニヤ笑いを少し奥にしまい込んだ情報屋は、手振りで紅茶を催促してから口を開く。

「国王に任命された教育係は二人。一人は時間になったら登城して、殿下の元へは行かずに与えられた客室か王城内にある図書室にこもっていました。もちろん、監視につけられた騎士は買収済みです。」

「もう一人は部屋に来ましたが、終始殿下を睨みつけて暴力行為や罵詈雑言浴びせたり、わざと難しい問題や教えていないことを『復習』として答えさせ、少しでも間違っていたら嘲笑ったりしてたので護衛2人に直訴されて辞めさせられてます。ちなみに、殿下が間違えた時の口癖は『これだから爆弾は』だそうですよ?」

幼子に酷なことを、と呟く宰相。

酷いことかもしれないが王族の、しかも国王の実子として生まれた以上優秀でなければいけない。

そのために必要なのが教育係。最初から優秀なものはいない以上、言葉から国王としての心構えまでの全てを教え、正しく導く存在が必要になる。

教育係は王太子の性格や優秀さに直結する。だからこそ、国王が選び抜いた信用に値する者を我が子の教育係として任命する。

しかし、教育係が愚かだった時教え子である王太子は――。

「愚かな。」

「ブフッ!」

「…情報屋。」

「いやぁー失礼しました。あまりにも予想通りの言葉をおっしゃるものですから、つい。」

「まったく……真面目な話の途中なのだがな。」

「ああ。しかし国王は何をやっている。国庫を荒らす害である王妃は放置して悪化させ、将来的には国を率いる王太子の教育すらまともに行わないなど。同じ国王として情けない。」

「陛下のおっしゃる通りです。貴族の質から違うのであれば、まず貴族の意識改革や教育が必要になって来るでしょう。それを行わないのであれば、他国から舐められ、搾取されるだけの属国扱いになってしまいます。あの国の国王は、それを分かっているのでしょうか。」

そんな真面目な話の横で、サクサクとクッキーを食べ進める情報屋を騎士は睨みつけている。

「情報屋、陛下に招かれた存在とはいえもう少し遠慮をしたらどうだ。」

「お断りしますよ。王城で出てくるお菓子なんて食べておかなくては損じゃありませんか。それに、お金かかりませんし。」

「…お前と言う奴は。」

どうやら陛下たちの話が一段落したようで、情報屋は手を止めた。
……不満そうなのは気のせいだと、騎士は自分に言い聞かせた。
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