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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
109.代わりなんて
しおりを挟む「……はぁ。どうせ化けの皮がはがれるのですから、さっさと口調戻して着替えてきてはどうです?貴方の着替えに時間はかかりませんし、ドレス、嫌いでしょう?」
「嫌い。」
一瞬の間も空かないように答える。そんなマスターを見る一心はでしょうね、といっているようだ。
「……………ウィール様、神様。マスターの案をまとめた書類がここにありますので、皆様に配って説明をお願いいたします。」
「フフッ。分かったよ。小鳥美をよろしくね?」
「はぁ、さっさと帰ってきてね?僕だって全ての状況を理解しているわけではないんだから。精霊妃小鳥美?一心君に迷惑かけないようにね?」
「ウィール様はともかく神様に小鳥美って呼ばれるとなんか………鳥肌が………。」
「へぇ?」
素早く伸ばされた手をサッと回避し、驚く神様をニヤニヤしながら見つめる。
プークスクスダッサァイ!
これでもかと唇を猫のように歪めて、嘲りとからかいを多分に含んだ目を向ける。
適度に距離を取りつつニタニタ笑っていると、突然後ろから羽交い絞めにされた。驚いて振り返るが、そんなことする人はまぁ……位置的にも…ねぇ。
「さあどうぞ神様。」
「ありがとう一心君。じゃあ、遠慮なく!」
実に爽やかな顔をした二人の茶番を見た後、これでもかと頬を伸ばされた。
「ひょ、ほんきひぇいひゃいれすっへ!」
(ちょ、本気で痛いですって!)
「何言っているか分からないけど、どうせ痛いとかだろう?怒られるようなことを仕出かす君が悪いんだよ!」
グニグニグニグニグニと抓られ続けこれでもかと再び伸ばされ、最後に両手で叩かれた後解放された。
「行きますよ。」
自分の頬を労る間もなく一心に手を引かれる。エスコートしてくれる優しい一心は、ここにはいないようだ。
「ちょ、行く、行くから!転ぶ!ころっとっとっとっとお?!」
一心は、マスターが転びそうになっているというのに手を引くのを止めない。
…そんな目で見ないでくれませんかね?公爵・王族・ウィール様・神様?
「うるさいですよマスター。淑女らしく静かに動かれては?」
「あなたのせいでこうなってるんですけどねぇ?!」
「そうですか。」
半ば(ほぼ)引きずられながらも、空いていた隣室に移動して男装用の服に着替える。
「マスター。」
「ん?どうした、一心?」
着替えの最中、先ほどとはうって変わって真面目な声で呼ぶ一心。
「マスターに十分な睡眠をとっていただけていないこと、理解しているにも関わらず改善できていない状況です。お役に立てず、申し訳ございません。」
鏡越しに見える顔は一見普段通りに見えるものの、らしくもなくションボリしているように見えた。
(まったく。)
「あのねぇ、一心。大前提として、一心は優秀で有能だろう?」
「はい。」
(そこは力強く答えるのね。)
「じゃあ、同じように優秀で有能な千葉や師匠の代わりになれ、って言われたらできる?」
「無理です。」
間髪入れずに断言する一心。それはそうだろう、私だって無理だ。
嘘でもなんでもなく、師匠は何でも出来る。戦闘から頭脳労働、はては演劇やプロ顔負けの技術までサラリと行う。
あの化け物師匠の代わり?
無理。
世界中の人が集まっても無理だと断言できる。
「それと同じ。それに、私の意思も関係ないこればっかりはどうしようもないよ。」
そう言いながら思い出すのは、始めて眠れなくなった日。
真夜中に理由もなく起きては眠ることを繰り返し、唯一部屋に聞こえていた足音が原因だったことに驚いたのはずっと前の事。
忙しい警官は電話があったら直ぐに起きられるように浅く眠ると聞くが私はそれと同じように、いや、それより浅く普段眠っている。
女として男に襲われても返り討ちに出来る様に、誘拐されないように、毒を盛られないように。
殺されないように。
他の言えない理由も理解しているようで、口には出さないが悔しそうにしているのを着替えながら眺める。
「大丈夫、これでも人間だからね。体が限界を迎えれば勝手に気絶して眠るよ。だから、その間はニアと一緒に護衛よろしく!」
「必ず。」
なにかに言い聞かせるように聞こえた声の主は、着替えの僅かな調整をした後扉を開けた。
(まったく。)
扉へ向かわず自分の方へ向かう私を見て不思議そうにする息子の顔を覗き、頭を叩く。
「顔、ちゃんと戻しておきなよ?」
疑似眼球から流れ落ちる滴を自分の指に伝わらせて、驚き固まる一心に笑い返す。
「……………申し訳ございません。」
「何が?」
「………………………いいえ、失言です。お忘れください。」
「なら行こう?私専属の執事さん?」
「仰せのままに、我が主。」
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