異世界情報収集生活

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

107.こんなマスターですが

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なんだか長い時間歩いた気がするが、会談をする部屋に入る。

「お待ちしておりました!世界樹様、ウィール様、一心様。」

扉を守る騎士の二人は宿の扉を守っていた騎士とはうって変わり、こちらを見た瞬間に背筋を伸ばして礼をした。

(へぇ?ちゃんと一心にも様を付けるんだね。ちょっと驚き。)

「宰相様より聞いております。本来であればすぐにでもお通ししたいのですが、仕事上やらなければならないため確認をさせていただきます。世界樹ウィール様、精霊妃小鳥美様、精霊妃小鳥美様の筆頭側近一心様、四大の皆様、五精霊の皆様、セルバ公爵様でお間違いないでしょうか。」

「ええ、あっています。」

「予定ではガディア家のご子息が共にいらっしゃるはずですが、なにか不都合がございましたか?」

「途中で、私とウィール様に不敬を働いたロウ伯爵を連れて行くために別れましたの。」

「左様でございましたか。では、後程いらっしゃるという事ですね。ご返答、感謝いたします。では、扉を開きます。王太子殿下と宰相様、セルバ公爵様のご子息レイピスト様が中でお待ちです。」

大きな扉を二人がかりで開き、正面に座る殿下に手を振った。

「どーもー殿下。お久しぶりです。」

「お久しぶりでございます、精霊妃様。」

その声に頬をふくらませて不満顔を作り、駄々をこねる子のように睨んだ。

「また精霊妃呼びに戻っておりますわ、殿下。仲がいいと噂を流してもらう為にも、精霊妃と仲がいいという評判を立てるためにも小鳥美と名で呼んでくださいませ。」

「………善処いたします。」

「公の場では、確実にお願いいたしますね。」

そんなことを言い合った後、見知った顔の老人に顔を向けた。

私が部屋に入った時から立ち上がり今跪いたその老人は、その姿に似合わぬハキハキした声で話し始めた。

「一貴族としてはお初にお目にかかります故、ご挨拶をしてもよろしいでしょうか。」

「もちろんですわ。」

「改めまして、お初にお目にかかります精霊妃小鳥美様。宰相としてはお会いしております、マフィックス=ガディアと申します。」

「今代の精霊妃、小鳥美です。どうぞよろしく。」

「よろしくお願いいたします。して、どうやら愚息が見当たらないようですが……。何かあの馬鹿がご無礼を?」

全く躊躇しないで「愚息」と言っていることに口元が歪むが、苦笑に収めて連絡を入れる。

「そうではありません。人払いがされていたのであろう通路に、知能が幼子よりも悪い方いて、ウィール様と私に無礼を働きましたので連れてもらいましたの。」

「そうでしたか。愚息のせいでは無いようで、安心いたしました。」

どうやら宰相殿は本心から心配していたらしく、顔にも安堵が滲んでいた。

(致命的ではないが……?そんなに何を心配されてるんだろう?)

そんなことを思いながら、残る一人に声をかける。

「お久しぶりですね。今回も護衛ですか?」

話しかけられると思っていなかったのか、一瞬驚いてから声を出した

「お久しぶりでございます、精霊妃様。今回は護衛と言う名目ですが、殿下より自由な発言を許されております。」

「では、騎士としての意見が聞きたいときは遠慮なくお聞きしますね?」

意訳(ぼーっとしてんじゃねーぞ?)

「……ええ、お話しできる限りにはなりますが、意見を出したいと思います。」

「では、もうすぐ来ると思いますから、ヤドゥール様を待ちましょうか。」

話している間に注がれていた一心の紅茶に口を付けて、皆を促した。

「これは……。」

「ほう、入れ方一つでこれほど味が変わってものなのですなぁ。」

「左様、実に不思議ですな。」

「フフッ。おいしいでしょう?私の従者が入れた紅茶は。」

貴族らしさはとどめたまま、ドヤッと誇る。

「………………………………………………。」

「そんなに見ないで一心。照れるじゃんか~。」

「…………………。」

「ちょ!?無言でテシテシしないで!頭がへこむ。」

「………………………………………………。」

「ひょおならいいっへものひゃないんひゃよ?」
(頬ならいいってものじゃないんだよ?)

「………………………はぁ。」

頭を叩き、頬をつねった息子は貴族たちに向き直ると同情の眼差しで貴族たちを見た。

「こんな精神年齢五歳児のマスターですが、頭はいいので、怒りを買わない程度に有効活用していただければと思います。」

「は、はぁ。」

「また、私は侍従ですが基本的には息子として対応してくださればと思います。その方が、マスターの怒りを買いませんので。」

「分かった。そうさせてもらおう。」

私達以外がやや青ざめた顔になった時に入って来たヤドゥールは、内心首を傾げただろう。いや、確実に。

(…………なんかごめんな?)

申し訳なさから少し目を逸らした。
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