異世界情報収集生活

スカーレット

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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)

103.ご報告

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男装している状態から着替えて、王城へ精霊妃として向かう。
準備の時に合流したウィール様と少し話しながら、馬車の準備に奔走する一心を待つ。

今回はあくまで密談なので、ウィール様が夜会の相談に来たという事で来ている。

準備が終えられ、精霊王達に囲まれている馬車に揺られながら一心の報告を聞く。

「今回密談する相手の特徴をご報告いたします。まず、公爵家セルバ=オガリス。セルバ公爵家の当主をしており、王都内に屋敷を持っています。兼任して近衛騎士団長を務めており、実力と人望を兼ね備えていると評判です。また、階級が低い者も実力によっては騎士団に入れていることから、階級が低い騎士たちから尊敬されているそうです。

子供についてですが、セルバ家は子供だからと甘やかすことも、厳しすぎることで腐らすことなく優秀な文官、騎士に育っており王城内に努められるほどの成績と性格とのこと。王家には友好的であり、友人でもある宰相のヤドゥール=ガディアと共に国を支えています。」

「……確か、今回来る長女レイラが殿下の婚約者候補だっけ?」

「その通りです。ですが、当主も本人も王太子妃になる気は無く、本人は当主を継ぐことなく文官として王城勤めになることを希望しています。」

「なるほど。」

「念のため、聞いていいかい?」

「ウィール様?なにかご不明な点がございましたか?」

「セルバ家の長女もだけど、ガディア家の方の婚約者候補も小鳥美が王太子妃になるなんて考えてないよね?」

「どうでしょう?………そういった情報は得ておりませんが、国のために尽くす者達の事です。マスターを王太子妃に向かえれば国力が増すと考えて、推す可能性はあるかと。」

「へぇ……?」

不穏な空気を出し、居心地を悪くするウィール様。

当主たちの考えは、国のことを第一に考えるのであれば正しい考えだろう。

精霊妃がいると精霊たちが自然にやってくるから、農作物も良く育つし自然災害はほとんどなくなる。

しかし、これらはすべて精霊妃が友好的な場合。

「ご心配なく、そんな気はありませんから。」

自分では聖母マリアの様に微笑んだつもりだ。しかし、そんな渾身の微笑みを見て息子は呆れて溜息を吐いた。

「マスターが王太子妃になってた日には、この国から精霊がいなくなりそうですね。まったく。まぁ、それはそれで楽しそうですが馬鹿の排除が追い付かない事態になりますね。マスター、面倒なのでならないでください。」

「なる気無いってば。精霊妃になんて面倒な役職、なった日にはこの国ごと荒野に返して神様の依頼を達成するからね。」

「どうぞそうしてください。ああ、もちろんお手伝いいたします。」

「よろしく~。それで?セルバ公爵についてはいいから、ガディア家について頼む。」

「かしこまりました。」

真面目な空気に戻り、報告を再開する一心。

「ガディア公爵家の当主は宰相のマフィックスであり、これについてはマスターと面識がありますよね?」

「なんとなく覚えてるよ。」

「ガディア家は代々優秀な魔術師を輩出している家で、文官気質の者が多いです。息子は先日店に来たヤドゥール=ガディアで、婚約者候補の長女は魔術師としてすでに王城で働いております。マフィックス個人についてですが、自他ともに厳しく接し不正を見逃さずに裁いていることから後ろ黒い貴族に批判されています。ですが逆に、搾取されていた貴族達からは好意的にとらえられています。」

「まったく。馬鹿な貴族に関しては自業自得だろうに。」

悪態をこぼしたウィール様。
精霊として生き、嘘と悪意になれていないからこその考え方なんだろうなと、ふと思う。

「自分勝手な恨みを向けて他者を攻撃するのが人間ですよ、ウィール様。自分とは違う生き物と認識して、排除しようと動くんです。」

悪意に慣れすぎた人間と、悪意に触れていない精霊。
考えが合わないことは分かり切っているが、反発しないだけ十分なのかとも思う。

ふわり、と壊れ物を大事に扱うようにウィール様が私の頭を撫でた。

悪意が無いこういった行動は、対応が遅れてしまうから正直して欲しくない。

……訓練内容を少し見直す必要があるかもしれないな。対応が一瞬遅れただけで、悪夢を見る可能性だってある。

「……………………君の師匠から、死にたがっていると聞いた。」

「殺してくれるんですか?」

顔と一割は冗談、他の九割は本気で問いかける。

「させません。」

間髪入れずに声を出し、ウィール様を睨みつけた一心。

「ウィール様、冗談でもそのようなことは仰らないようにお願いいたします。報告に戻ります。では次に、これから関わる事が増え――。」
「一心、主として命令する。私を殺せ。」

めったにしない命令を、一心にする。私には一心を強制的に動かすような力は無い。
でも、命令に従わない場合の報復は家に戻れば簡単に出来る。

「…………。」

他者からはよく「何を考えているのか全く分からない不気味な笑顔」と評される笑顔を浮かべて、一心を見る。

私の大事な存在である人工知能は、無言で私を睨んでいた。
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