93 / 204
ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
72.本
しおりを挟む
「本日はどうされるおつもりで?」
一心が新しく入れてくれたお茶を飲んで、ホッと一息つく。
「今日はあちこち飛び回って噂を広めてこようかと思ってね。最初はマルクトリアかな。ついでに、これも売ってくる。」
そう言って私は一心に本を投げた。
紙が普及しているこの世界では平民でも買えるくらい本は安い。私の手元にあるのは貴族用の高い本。一心に渡したのは平民用の安い本。今回大事なのは、その内容。
「…ほう、なるほど。……………。」
ニタリと楽しそうに口元を歪めて、「貴方も大概ですよ」と言った一心。
「私も見たいよ、小鳥美。仲間外れは寂しいからさ。」
「どうぞ、ウィール様。」
本の内容はどこかで聞いたことのある内容になっている。
違法に異世界から呼び出された精霊妃と精霊妃の兄は精霊妃と気づかれないまま、異世界人として奴隷同然の扱いを受けた。それを見て怒りを露わにしたウィール様が、二人を国から連れ出した。
その後、精霊の土地で精霊妃として精霊達に認められた精霊妃は、この世界の人間たちの暮らしを見たくなった。そこでウィール様がすすめたのが精霊の信仰が深いと思われたこの国、ライミリ精霊信仰国。
しかし、内密に連れられた二人は精霊妃として国の貴族に認識されず、貴族を始めとした王妃にもひどい扱いを受けた。
異世界人だと思っていた国王は慌てて謝罪をしたが、精霊妃は自分の大切な側近を異世界人として見下した王族の謝罪を受け取らなかった。
さて、この国の運命やいかに!といった内容だ。もちろん、一心や私の名前、神様のことなどは伏せてあるものの、内容はほぼ事実だ。
これを他国で売れば精霊妃の存在を他国に知らせることもできるし、牽制もできる。
同時に、今代の精霊妃の性格や精霊妃に関する規則などをまとめた本を売る予定だ。
利益は高い本の方で出すので、安い本は薄利多売だ。
一心と人間になれているイア、ラトネスに本を大量に渡して各地で売ってもらう。
ちなみにラトネスは、推薦した人間が馬鹿だった罰として売りに出てもらう。
それぞれが別の国に飛び、本を売ってもらった。
そういう私は男装してライミリの隣、マルクトリア国で本を売る。
そして今日は、この国の国王がお忍びで城下町に来る情報を得ているので、国王にもぜひ買って欲しいものだ。
………念のため、この国の国王のフットワークが軽いだけであって、こんなことは他の国ではありえないことだけは言っておく。
まぁ、それはそこらに放り捨てて。
いつもの事ながら不法入国をして正式に商売の一日許可証を得る。町の広場まで歩き、ゆっくりと引いて来た台車を安定させてから声をはり上げた。
「さあさあ誰か買わないのか!巷で噂の精霊妃様の本だよ!精霊妃様が登場されている本は、この場限りの品しかないよ!値段はたったの銀貨5枚!」
精霊妃、という単語を聞きつけて複数人が興味深そうにこちらを眺め始めた。
そんな彼らに買ってもらうために、さらに声を上げる。
「精霊妃様や精霊王様はもちろん、世界樹ウィール様が登場するこの本!さらに精霊妃様に失礼がないためにはこちらが必須!精霊妃様に関する決まりごとが書かれている本だよ!こちらもたったの銀貨5枚!一緒に買えば子供と共に学べること間違いなし!」
振り返った人数を見ると、どうやら精霊妃に関する規則書の方が売れそうだ。
「ご友人の贈り物にはこちらもどうだい?ちょっと高いが美しい!精霊妃様が持つ精霊石とよく似た石で飾られたこちら!これ一つだと金貨一枚と銀貨10枚!規則書と一緒に買えば金貨1枚!」
華美ではないが美しい宝飾に目を引かれて、金持ちそうな男が買っていった。パラパラとその場で本を開き、声を上げる。
「ほう、こりゃ凄い!この内容は本当なのかい?!」
「もっちろんさ!これがたったの銀貨5枚!安いもんだろう?」
「よっし!あんたを信じようじゃあないか。規則書も買う!まとめて5冊だ!」
「まいど!」
それをかわきりに、次々と本は売れた。物語も、規則書も。
おそらく、最初に買った中年の男は有名人だったのだろう。
いったん区切りがついたので、持ってきたお昼を食べる。
(そういえば、貴族はどうせ馬車から出てこないだろうから見本がいるな。)
急遽3種類の本をごく薄いガラスの上に並べ、その枠を木で囲う。本が落ちないように下は厚めの木を使い、見本の本を取られては困るので紐で囲い取れないようにする。30分くらいで完成した見本をカタリと立てかけて、店を再開した。
再開と同時くらいに馬車が停車する。
慌てた風を装い洋服を正して、従者を待つ。ガタリと音を立てながら燕尾を着た老人がこちらに向かってくる。
「この店に精霊妃様が登場する物語があると我が主の耳に届いた。真実か。」
「はっ!はい。この店では3種の本を取り扱っております。精霊妃様が登場する物語、装飾が施された物語、精霊妃様や世界樹様への決まり事をまとめました規則書でございます。」
見本を渡し、物語の内容の違いを確認した後馬車の中へ見本が消えた。
少しして、装飾された方と規則書を5冊ずつ買って帰った。
(複製スキルで増やしているとはいえ、予想以上に売れてるな。)
水筒の中に入れた魔力ポーションを飲んで、複製スキルで増やした端から売り切れていく。しばらくしてヘロヘロになり始めたころ、夕暮れごろに待ち人は来た。
一心が新しく入れてくれたお茶を飲んで、ホッと一息つく。
「今日はあちこち飛び回って噂を広めてこようかと思ってね。最初はマルクトリアかな。ついでに、これも売ってくる。」
そう言って私は一心に本を投げた。
紙が普及しているこの世界では平民でも買えるくらい本は安い。私の手元にあるのは貴族用の高い本。一心に渡したのは平民用の安い本。今回大事なのは、その内容。
「…ほう、なるほど。……………。」
ニタリと楽しそうに口元を歪めて、「貴方も大概ですよ」と言った一心。
「私も見たいよ、小鳥美。仲間外れは寂しいからさ。」
「どうぞ、ウィール様。」
本の内容はどこかで聞いたことのある内容になっている。
違法に異世界から呼び出された精霊妃と精霊妃の兄は精霊妃と気づかれないまま、異世界人として奴隷同然の扱いを受けた。それを見て怒りを露わにしたウィール様が、二人を国から連れ出した。
その後、精霊の土地で精霊妃として精霊達に認められた精霊妃は、この世界の人間たちの暮らしを見たくなった。そこでウィール様がすすめたのが精霊の信仰が深いと思われたこの国、ライミリ精霊信仰国。
しかし、内密に連れられた二人は精霊妃として国の貴族に認識されず、貴族を始めとした王妃にもひどい扱いを受けた。
異世界人だと思っていた国王は慌てて謝罪をしたが、精霊妃は自分の大切な側近を異世界人として見下した王族の謝罪を受け取らなかった。
さて、この国の運命やいかに!といった内容だ。もちろん、一心や私の名前、神様のことなどは伏せてあるものの、内容はほぼ事実だ。
これを他国で売れば精霊妃の存在を他国に知らせることもできるし、牽制もできる。
同時に、今代の精霊妃の性格や精霊妃に関する規則などをまとめた本を売る予定だ。
利益は高い本の方で出すので、安い本は薄利多売だ。
一心と人間になれているイア、ラトネスに本を大量に渡して各地で売ってもらう。
ちなみにラトネスは、推薦した人間が馬鹿だった罰として売りに出てもらう。
それぞれが別の国に飛び、本を売ってもらった。
そういう私は男装してライミリの隣、マルクトリア国で本を売る。
そして今日は、この国の国王がお忍びで城下町に来る情報を得ているので、国王にもぜひ買って欲しいものだ。
………念のため、この国の国王のフットワークが軽いだけであって、こんなことは他の国ではありえないことだけは言っておく。
まぁ、それはそこらに放り捨てて。
いつもの事ながら不法入国をして正式に商売の一日許可証を得る。町の広場まで歩き、ゆっくりと引いて来た台車を安定させてから声をはり上げた。
「さあさあ誰か買わないのか!巷で噂の精霊妃様の本だよ!精霊妃様が登場されている本は、この場限りの品しかないよ!値段はたったの銀貨5枚!」
精霊妃、という単語を聞きつけて複数人が興味深そうにこちらを眺め始めた。
そんな彼らに買ってもらうために、さらに声を上げる。
「精霊妃様や精霊王様はもちろん、世界樹ウィール様が登場するこの本!さらに精霊妃様に失礼がないためにはこちらが必須!精霊妃様に関する決まりごとが書かれている本だよ!こちらもたったの銀貨5枚!一緒に買えば子供と共に学べること間違いなし!」
振り返った人数を見ると、どうやら精霊妃に関する規則書の方が売れそうだ。
「ご友人の贈り物にはこちらもどうだい?ちょっと高いが美しい!精霊妃様が持つ精霊石とよく似た石で飾られたこちら!これ一つだと金貨一枚と銀貨10枚!規則書と一緒に買えば金貨1枚!」
華美ではないが美しい宝飾に目を引かれて、金持ちそうな男が買っていった。パラパラとその場で本を開き、声を上げる。
「ほう、こりゃ凄い!この内容は本当なのかい?!」
「もっちろんさ!これがたったの銀貨5枚!安いもんだろう?」
「よっし!あんたを信じようじゃあないか。規則書も買う!まとめて5冊だ!」
「まいど!」
それをかわきりに、次々と本は売れた。物語も、規則書も。
おそらく、最初に買った中年の男は有名人だったのだろう。
いったん区切りがついたので、持ってきたお昼を食べる。
(そういえば、貴族はどうせ馬車から出てこないだろうから見本がいるな。)
急遽3種類の本をごく薄いガラスの上に並べ、その枠を木で囲う。本が落ちないように下は厚めの木を使い、見本の本を取られては困るので紐で囲い取れないようにする。30分くらいで完成した見本をカタリと立てかけて、店を再開した。
再開と同時くらいに馬車が停車する。
慌てた風を装い洋服を正して、従者を待つ。ガタリと音を立てながら燕尾を着た老人がこちらに向かってくる。
「この店に精霊妃様が登場する物語があると我が主の耳に届いた。真実か。」
「はっ!はい。この店では3種の本を取り扱っております。精霊妃様が登場する物語、装飾が施された物語、精霊妃様や世界樹様への決まり事をまとめました規則書でございます。」
見本を渡し、物語の内容の違いを確認した後馬車の中へ見本が消えた。
少しして、装飾された方と規則書を5冊ずつ買って帰った。
(複製スキルで増やしているとはいえ、予想以上に売れてるな。)
水筒の中に入れた魔力ポーションを飲んで、複製スキルで増やした端から売り切れていく。しばらくしてヘロヘロになり始めたころ、夕暮れごろに待ち人は来た。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!
猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
私だけを愛してくれたなら、それだけで。
iBuKi
恋愛
大層美しく聡明でありながら、女だというだけで継承権はない王女。
王女の使い道等、国の政略の駒として嫁ぐ事だけ。
幼い頃からたくさんの婚約者候補がいる王女。
政略結婚だとしても、候補の中の誰かと思いを通わせて結ばれたいと思った王女。
候補たちとしっかり向き合って接するうちに、その中のひとりに好意を抱いた。
分かり易い好意を示した途端、婚約者候補から相手が外される。
それを何度か繰り返したある日。
王女はとある条件の者でないと婚約は絶対にしたくないと話す。
そして王女の婚約者として選ばれたのは――――
ひょろひょろと背だけは高く、折れそうな程に細い身体と手足、視力が悪い為分厚すぎるメガネをかけ、不健康そうに青白い顔色をしたルカリオン・コルベール公爵令息だった。
果たして公爵令息は王女の願いを叶えることが出来るのか。
キスの練習台
菅井群青
恋愛
「──ちょっとクチ貸せや」
「……ツラ貸せやじゃないの?」
幼馴染の腐れ縁から酒の席で突然の提案を受け、なぜかいい大人がキスの練習台になってしまうことになった。
どうやら歴代彼女にキスが下手という理由でフラれまくるというなんとも不憫な男と……キスは手を繋ぐのと一緒のようなモンだといい恋心をかくしている女の話。
※本編完結しました
※番外編完結しました(2019/06/19)
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる