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ライミリ精霊信仰国編(ライミリ編)
55.噂=利用する物
しおりを挟む情報収集をしている中で、情報を売り買いしている者達の存在を確認できた。
しかし、粗悪を越えた雑なもので、前金が基本。そのため、前金だけもらって姿をくらます奴等が多いらしい。
そんな中で、王家からも重宝される情報屋が現れれば…?
(やってみる価値はあるな。)
優秀な情報屋がある、という情報を一心と共にライミリと隣のマルクトリア国に流す。
ついでのように、魔力を吸い取る石があると情報を、主に王城あたりに流す。
それに警戒心むき出しで食らいつくのか、諦めるのか。
狙いであるヤドゥール=ガディアはおそらく、食い付くだろう。
なにせ焦りが酷い。手当たり次第情報屋を回っているらしいことと、カリストロ殿下に2番目の忠誠を誓っている。
さて、いつ釣れるかなぁ~。
殺し屋や情報屋達から信頼を得てからしばらくした後、町人に変装したニアから連絡があった。
「ヤドゥール=ガディアとみられる者からマスターの店の場所を聞かれました。」
思わず口角が上がるのは仕方ない。
「了解。彼の好みの紅茶葉とシュークリームの材料を買ってくれるかい?せっかくの上客だ。もてなさないとね。」
情報料が書かれた「メニュー」と黒魔石を倉庫からいくつか取り出し、一心に椅子と机の準備を頼む。
それと同時に、気になる情報を一心から聞いた。
「町に人間そっくりな魔術具が居る、という噂が広まりつつあります。」
「へぇ?」
(うまくいけばこちらが恩を売るのではなく、相手が恩を売ることになるかもしれないね。)
わざとニアを誘拐させることを前提に、一心と共に作戦を練った。
「マスターがすぐに向かえば、傷を負うことは無いのでは?」
「だと思うけど、なーんか不安が拭えないんだよね。」
「まぁ、わざと誘拐させることに罪悪感を抱いても仕方ないでしょう。マスター風に言えば、可愛い娘、なのでしょう?」
「当然!」
少し残念そうな一心を見て、ふと思ったことを実行する。
「ていっ!」
「!…?」
自分で作った一心の頭に、気の抜ける声と共に手をのせる。
わしゃわしゃと少し雑に頭を撫で、のしっとその頭に自分の頭をのせる。
「……マスター?」
「何にションボリしているのかは知らないけどさ、大丈夫だから。」
「それはどうも、それよりも重いです。」
頭を振られ振り落とされたことに、「うぎゃっ」と声が漏れる。
改めて後ろから一心を抱きしめたら、言い聞かせるように声を出す。
「大丈夫、二人は絶対に守るよ。一心も、ニアも、大事な私の家族だ。大丈夫。」
頭に思い浮かぶのは、大切な人間だった肉片。
むせかえるほどの血の匂い。
つい最近まで使われていたのであろう手錠と拷問器具。
流れ落ちる血
壁や床にこびり付く血
大切な人の、血
(あの時に様にさせてたまるか。絶対に守り切る、あの時の二の舞になどさせてたまるか。)
一人決意を固め、真面目な空気をぶった切るためにふざけて様子で思ったことを言う。
「まぁ、念のため治療室を掃除してもらうとして、一心。」
「何でしょう。」
「この状態さぁー。傍から見たら勘違いされそうじゃない?」
「……………………………………。」
「主に、性別を表す単語の前に腐るという字がよく使われている人たちに。」
さあここで唐突に始まる現在の状況説明―!
男装している人間(女だけど外から見れば男)がきちっとした黒い服を着た人間(人工知能だけど外から見れば男)を後ろから抱きしめている。
「………。」
「………。」
誤魔化すためにヘラリと笑ったら、ペシリと叩かれた。
なお、音が「ペシリ」なだけであって威力は「ペシリ」から想像できるものではなかったことを、ここに残しておく。
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