異世界情報収集生活

スカーレット

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神々編

49.「死神」

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「死神スキル、ライフカウント、発動。」

私の呟きと同時に、壁の外にいる敵軍を囲む様に時計台が現れる。

何十塔も現れた時計台は、絶対に壊すことはできない。ゲームの設定上、破壊は不可能になっているからだ。

その中心にゆっくりと宙を移動していく。
黒いローブを身にまとい、強化補正がある白い仮面をつける。

スキルによって現れた数字は1000からどんどん減ってゆく。

強制的に0になった時の恐怖を思い起こさせるカウントダウンは相手に動揺をもたらし、判断を狂わせた。

「と、突撃!あのモノを殺せ!あれは人ではない!ためらいは要らん!殺しても我らにとがはない!」

自分に言い聞かせるように叫んだ指揮官は、部下とともに空を駆け抜ける。

剣をガタガタと揺らしながらも果敢に来る者たちに歩いて向かい、その恐怖を終わらせてやる。

「死神スキル、死神の鎌。」

ふらりふらりと近くによって、鎌を一振りすればドサドサと落ちてゆく首。

「うっうわああああ!」

力のこもっていない剣を避けて、鎌で弾き返して切る。
あっという間に部下をなくした指揮官だった男は大慌てで叫ぶ。

「魔法を!魔法を早く打て!」

阿呆あほうにも後ろを向いたのでゆっくりと首に鎌を当てて、恐怖に固まるその耳にそっと呟く。

「一度では足りぬ。」  「死神スキル、死神の慈悲。」
何をされたか理解も出来ずにガタガタと震える指揮官を放り投げた。

「邪魔。」

「ギャァアアア!」

投げられてもなおギャアギャアと騒ぐ指揮官がうるさいので、魔法を使い静かにしておく。
「魔術スキル、サイレント。」
「ムグッ。」

口を開けなくなった様子に満足し、直後に打たれた炎を待ち構える。

「「「「「魔術スキル、火炎焔かえんほむら発動。」」」」」

「「「「「魔術スキル、火竜の咆哮かりゅうのほうこう発動。」」」」」

「「「「「魔術スキル、火竜の防壁かりゅうのぼうへき発動。」」」」」

魔術は正常に発動され、轟音ごうおんを放ちながらこちらに向かう。

「馬鹿だなぁ。」

思わず呟いた言葉は轟音ごうおんに飲み込まれて消えた。

炎は私の体に当たる寸前で見えない壁に阻まれると、少しづつ上に行きながら私を囲みどす黒くなっていく。

相手の魔法を利用させてもらう。まぁ威力はやや強いくらいかな?

……これで足りるのか?一応強化しとこうか。

「魔術強化スキル、属性強化、魔力強化発動。」

威力の上がった炎に満足し、死神の称号により赤く光る眼で獲物を確認しようと見る。

絶望の顔を浮かべて武器を落とすもの、あるいは、安堵だった顔を真っ青な顔に変える者もいる。

それでもなお、足りない。

勇ましくも、阿呆あほうにも声を荒げ指揮官は叫んだ。

「怯むな!相手は人間だ!神を殺す力は無い!」

下の者たちが生きていることを指して、防壁を張っているが無駄なこと。

今の私に常識は通じない。私は死神だから。

「死神スキル、加護発動。対象は魔術。」

ただの大きい炎から神をも殺す炎になった魔術は、目視すら難しい速さで神を貫いて行く。

地に這いつくばる虫の息の者を、光を灯さぬ哀れな女神を、指令をだした阿呆を。

全員を貫いた炎はまだ足りないというように、奥でこちらを窺っていた者たちを貫き続けてから消えた。

静かになった場所で、一心が悪魔の羽を羽ばたかせて伝える。

「あと10分ほどだとの事です。」

「了解。死体の処理は頼んでいいかい?」

「マスターのお心のままに。」

貫かれなかった者、まだまだ湧いてくる神々たちを一瞥して、タイムアップを告げる。

「時間切れだ。」

スキルの赴くままに体を動かす。

大きな鎌を真横に構えて、再び時計台の中心に降り立つ。

トンッとノックをするように地面をたたけば、地面からは新たな時計台がそびえ立った。
他の時計台をゆうにこす高さの時計台は、カチリを音を立て0時ちょうどを指す。

ゴ―――ンゴ―――ンゴ―――ンゴ―――ンゴ―――ンゴ―――ンゴ―――ン

動いていたすべての時計が一斉に鳴り響き、地面には巨大な魔方陣が覆っていく。

足元や崖を上って行った魔法陣は、周りの時計台に触れるとさらに光を増した。
神々しく淡い黄色の光は、同時に禍々しい赤に変化して、私の口が開くのを待った。

「死神スキル、ライフカウント、終焉。」

僅かな時間の間に迫りくる神々たちを確実に殺すために、より絶望を与えるために鎌で横に一回転してすべての首を刈り取る。

「お疲れ様でございました。マスター、死体は焼き払っておきました。」

「了解。」

一心と二人、静かになったこの地を見下ろした。
これでいい、お膳立ては十分だろう。

地面に下り立ち、ふと減った死体の山を見た。
一心は私がスキル死神の慈悲を使ったことを見て、ちゃんと焼かずに死体を残していたようだ。

ゆっくりと辺りを見渡していると、声も上げられずに死んでいった神々を呆然と見る者がいた。

「な、ぜだ…………。」

私が1度殺した指令をしていた指揮官。

「何が起きた?一体、何が………?」

「うぅ………。何が………。あの人間が……?」

「うぅっ。頭が………割れる。」

呻き声を上げるのは一心を刺した男と番人と英知。

惨状を起こした犯人に気付いておびえる男、敵に回したものの力量を悟って発狂寸前の番人。

光の戻った目で番人を見つけ、はっとして目をそらす英知。

もはや敵わないと理解しているのか、剣を杖にしてこちらにヨロヨロと来た指揮官。

「なぜおまえは神を殺せる?なぜ、私たちだけを助けた?なぜだ……。答えろ人間!」


大きすぎる勘違いを感じ取って、一心と二人顔を合わせて笑う。

腹を痛めるほど笑う私に怒りが湧いたのか、自分との力量差も忘れて指揮官は叫んだ。

「何がおかしい!」

「だっ、だって!助けた!ってあんた!あんた本当に馬鹿だろ!」

「仕方ないですよ、ええ。っ馬鹿は理解も出来ないのですから。」

後ろを向いて笑う顔を隠す一心。
完全に馬鹿にした様子で一心は話し始めた。

「いいですか。マスターは貴方がたに死神スキル、死神の慈悲を使いました。だから貴方たちは復活できたのですよ。今、貴方たちは向こうにある死体を利用して復活したんです。死体一つにつき1回、最大10回生き返ることができます。」

「ほら向こうに死体の山が見えるでしょう?」
と指さす一心は、子供を相手にしているように話す。

「あの死体は今、一つずつ減っていきました。貴方たち全員死んだので合計4つです。理解できましたか?」

呆然とした真っ青な顔で、ポツリと番人が呟いた。

「死神の、慈悲……?これが、慈悲……?」

放心した様子の四人をバッサリと切り捨てたのは一心。

「あなた方は我が主を、死神を怒らせたのですから妥当ですよ。死に切れぬ苦痛の中で苦しみ、その罪を償い続けなさい。自身が利用して魂ごと消え去ってしまった神々たちに謝罪し、生き地獄を味わうことでマスターに懺悔なさい。それがあなた方の今後の人生です。」

一心はそのまま、呆然とした四人を見て静かに笑っていた。

「答えてくれ人間、なぜお前たちは俺たちを攻撃できた?」

どれだけ考えても、分からないんだと零す男。
一心は刺してくれたに伝えた。出来る限りに表情を変えて。

「簡単なことです。称号死神は、ということですよ。」

「………?」

「どういうことよ!死神なんだから、人間管理の者の名でしょうに!」

いまだ命令口調のままの自称女神を睨みつけて、再び口を開いた。

「称号死神は、『神を死に追いやるもの』の名ですよ。だからこそマスターは、ゲームの世界で神を殺すことでこの称号を得ました。」

「それはゲームの話では?まさか、この世界でも……」

「通用しますよ?当然でしょう。他の称号はしっかりと機能しているのに、この称号だけ機能していなかったらエラーです。同じプログラムで動いていたのですから。」

そう答えた後、静かに振り返り、珍しいほど顔を緩めて真っ黒な絨毯を敷く。

声に感情をのせ、跪いて彼の者を迎え入れた。

「準備をお待たせして申し訳ありませんでした。最高の場が整いましたこと、ご報告申し上げます。」

顔を上げて、甘い声でその名を呼ぶ。

「マスター。」

同時に、と自称女神は溶けた。
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