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精霊達の土地編
39.主のための行動2 アクス視点
しおりを挟むウィール様は問う。
「姫はなぜ、毒の耐性を付けたがっている?」
アーシェは言う。「姫自身の『完璧』を崩さないため。」
「姫はなぜ、暴力と呼ばれる力を願った?」
私は答える。「誘拐されても、自力で脱出するため。」
「姫はなぜ、話術という力を願った?」
ラトネスが答える。「危険に引き込まれないようにするため。」
「姫はなぜ、一心に毒を盛るように指示した?」
ミカが答える。「いつ毒を盛られても『完璧』を崩さぬため」
「姫はなぜ、自ら矢面に立つ?」
アーシェが答える。「自身よりも大切な者たちを、傷付けさせないため。」
「姫はなぜ、私達の力を頼らない?」
…………誰も、答えられずにいた。
「私達を姫の日常に巻き込まないため……か?」
ダーネスがポツリと呟く。静かにうなずいたウィール様は言い聞かせるように、少しゆっくり話す。
「姫の日常は君等が思っている以上に殺伐としているんだよ。嘲り、嫉妬、恨み、怒り。そして、殺意。これらが毎日あるんだよ。毎日。大切なものを傷つけようと相手は攻撃するし、姫自身も狙われていた。」
「聞きました、人の子を殺す仕事をしていたと。」
「……姫の過去を話してくれませんか?」
ラトネスの言葉に、ウィール様は悲しそうに姫の過去を話してくれた。
「姫には大切に思っていた部下がいた。優秀で有能で美しい人の子だって言っていた。そんな人の子はもう、死んだ。姫が来た時には、肉片だった。」
ヒュッと音が鳴ったのは私なのか、もう分らない。
「原因は姫が『仕えたい』と言ったことを敵が知って、部下君を傷つければ姫が苦しむと思ったんだよ。そうして計画は立てられて、誘拐されて、監禁中に拷問を受けて死んでしまった。たった一度、『仕えたい』といったことで、死なせてしまったんだ。」
サラリと言うその様子とは裏腹に、恐ろしいことを言うウィール様。
誰も彼もがもう、真っ青だろう。ガチガチとヒュッー、ヒュッ―という音がそれを考えさせる。
美しい人。姫が自分の主として探し求める人。
…………死体ではなく……肉片…?
「分かるかい?大切で、自分が仕えたかった相手が目の前に肉片としているんだ。一心が読み取れば、拷問の跡がビッシリとデータとして表示された。何回切り付けられたかも、何回何をされたか丸わかりだ。」
「部下君を姫として考えてごらん?」というウィール様は、とても恐ろしい。
………この人、私達を落ち着かせに来たんだよな?
そんな考えすら浮かぶが、そんなことはどうでもいい。
頭はもうパンクしている。悲しすぎるが故に理解できない悲しみに、苦しみ。
震える体は頭よりも姫の悲しみを理解している。
「姫は怒り狂って敵を滅ぼしに行こうとした。その時に師匠である上官に地下室に閉じ込められて、言われたんだ。なんだか分かる?」
「『明日はそいつらとパーティーだ。笑顔で対応しろよ?怒りと憎しみは、てめぇの中で二週間煮えたぎらせておけ。』だって。」
絶句しかできなかった。自分の弟子にそんなことを言うだろうか。
「姫はその言葉に従って証拠が集まる2週間待って、組織ごと滅ぼした。えらい子だよ、本当に。」
「彼女は本当に強いよ。心も、体も、力もね。でも、それゆえに自分で抱え込む癖がついている。自分が矢面に立てばいいと学んでしまった。一心は気づいているからこそ、自ら毒を盛って協力するんだ。『自分はいつでも側にいる』という無言のアピールだね。」
一心は、一心に教えられたニアは、気付いていたからこその行動だったのか。
「姫はね、それでいて優しいんだよ。自分のいる世界が殺伐とした恐ろしい世界と知っているから、君等を突き離すんだ。穏やかな世界に留める為に、恐ろしい世界を知らせないためにね。」
何かに気付いたウィール様はパンっと唐突に手を叩き、「伝言だよ。」といった。
「伝言ですか?いったい誰から……?」
「姫の師匠と、ずっと前にあずかっている人だよ。こっちは悪いけど明かせない。姫の師匠は『覚悟がないのなら、俺の愛弟子の邪魔でしかねぇ。消え去れ。』だって。」
「…………もっともですわね。わたくしたちが姫の弱点になることは、分かりますわ。」
アーシェの言う通り、キツイ言葉だがその通りだろう。姫の弱点にしかならないのなら、口を閉ざし姫の護衛として立っていた方がいい。
…………それすらも邪魔になってしまうのなら、姫から離れて精霊の土地で過ごすしかない。
キツイ言葉であろう聞きたくない伝言だが、聞くしかないのでウィール様を促す。
「それで、もう一つの伝言は?」
「それがねぇ……。」
……?
『僕の最愛を傷つけるのなら、自害するまで追い込むからね?僕の居ないときに小鳥美のそばにいるのなら、それぐらいの覚悟は当然、するんだよね?』
……………独占欲丸出しだった。
小首をかしげたミカが問う。
「あれ、ウィール様の御髪が緑ではなく黒に見えたような……?」
「気のせいだろう。」
私自身分からなかった。そう返すと、そのようですね。
と呟きを聞いた時、
「やあやあ、久しぶり…でもないか。みんな集まってたんだね。リーンフォルに聞いたよ?悩んでるんだって?」
ウィール様が来た。反射的にウィール様がいた方を振り返ると。
「………?!」
「どういうことですの!」
ウィール様はいなかった。
そうだ、なぜあんなにも詳しく姫の過去を知っていた?
それになぜ、姫の知人から、異世界の人間にウィール様が伝言を受け取れた?
今になって違和感を覚えたが、もう遅いようで。
「……………?ああ、もしかして誰かにもう相談していたのかい?解決?」
「いえ、今の今までここに偽のウィール様と偽のフォルじいがいたのです。」
「ほうアクス、愉快なことを言うな。偽のわしとウィール様がおったと?」
「フォルじい、私も証言しよう。今までそこには、ウィール様がいた。其方はあちらにいた。」
ふわふわと先ほどまで偽物がいた空間を指さすイア。いったい何の目的で……?
「……………友人が『異世界から人間が来たみたい』って言っていたから異世界人かもね。」
「まぁ、いなくなったものはしょうがない。悩みは平気なのかい?」
「そうです、ウィール様お聞きください!姫が毒を盛れというのです。姫に分からぬように、ですぞ!しかも一心は側近でありながらそれを容認しておる。」
「まぁ、警戒心強いからね~小鳥美は。そうした方かいいんじゃないかい?」
「ウィール様までそのような!おお、ニア。ニアの意見を聞かせてはくれぬか?」
掃除に来たニアを呼び止め、何とか味方を得ようとフォルじいは聞く。
「リーンフォル様、私はマスターの側近としてマスターのためになるとこを実行いたします。よって、私はマスターに毒を盛ることを実行いたします。」
「毒を盛ることは姫のためになるというのか!」
ザワザワと怒りを近くの木々が示した。ニアは私達が見つめる中、冷静な様子で言い放つ。
「マスターが考案し、一心兄上がマスターのためになるといいました。よって、マスターのためになります。」
………………………………。
あっけにとられたフォルじいはその瞬間
「さて、リーンフォル。毒としてよく使われる植物、一緒に探そうか。」
ウィール様に肩を叩かれて、負けが確定した。
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