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精霊達の土地編
38.主のための行動 アクス視点
しおりを挟む姫がなぜか、毒の耐性をつけたがっている。
姫が話した次の日、我々は集まった。
頭が回るアーシェやフォルじい、ラトネスさえも理解ができないらしい。
アーシェが提案したとおり、私達がいるのだから毒の耐性をわざわざ苦しんでつける必要がない。
精霊王の全力は凄まじいものだ。探し物はすぐに見つかるし、この大陸一つ簡単に沈められる。五精霊だけでも十分だろう。
皆で唸る中、イアがふと声を上げた。
「姫はそもそも、なぜ毒の耐性を作り始めたのだろうか。」
思えば盲点だった。解毒薬がある以上、必要ないのでは?
「イア、それはおそらく即死の毒の時に時間を稼ぐためかと。」
「ラトネス、それでは姫が媚薬の耐性を付けていた理由にはならん。」
「……………もっと根本的に、私達の常識と人の子の常識では何かが違うのかもしれん。」
アイセンの言葉も一理ある。人の子の生活には詳しいウィンを下級に頼んで遊んでいたところを呼び出す。
遊んでいたところを邪魔されて不満げなウィンを、「姫のため」と宥め聞き出す。
「ウィン、何か私達の生活と人の子の生活の違いを知らないか?」
「うーんとね、みえ、が大事なんだって。あとねー、じゅんけつ、も大事って言ってたよ。」
「ウィン、言っていたのは誰じゃ?」
「どっかの貴族~。」
「ふむ………。」
「ウィン!人の子の貴族と言われるものが言っていたのね?」
「うん!」
「皆聞いてちょうだい!」
アーシェが少し焦ったように言った。
「姫は女性よ。そして純潔だとおっしゃっていた。そして人の子の貴族と呼ばれる者達は結婚しない限り純潔が望ましいそうよ。そして純潔を失えば、失わせた相手と婚姻を結ぶことがほとんどって言っていたわ。」
「そういえば姫に薦めた人の子の国王もそんなことを…。」
「待て、ならばアーシェ媚薬を持った人の子の目的は姫に無体を強いることではなく……。」
「姫と婚姻を結ぶことが目的ですわ!」
「なるほど、理解した。」
唐突に、しかしどこかスッキリした顔でダーネスがつぶやいた。
「なにをじゃ。」
「姫が毒の耐性を付けようとしている理由だ。おそらく姫は、俺達が感じたことのないような緊迫した世界で毎日過ごしていたのだろう。姫が媚薬を盛られたとき、俺達は気づけなかった。ウィール様さえ分かった毒を俺達は気づけなかった。本来であれば側にいた俺達が気付くべきだったのに、だ。それにアクス。」
「なんだ。」
「アクスが『大丈夫か』と聞いた時、姫は『何のことかしら』と答えた。姫は女性だ。姫がいた世界では女性は侮られ易かったのではないか?」
「その通りかもしれんな。」
呆然とした様子で、姫は、と呟くフォルじい。
「姫は女性ということで侮られていたそうじゃ。隙を見せらない日常だったとウィール様に聞いた。」
「体調一つさえつつく者がいたのなら、姫が強がっていたことにも納得がいく。」
ダーネスは平然と言うがこんなことが『日常』ならば、姫は……。
姫の心は無事なのか…………?
一切の隙を見せないように過ごすことはかなり厳しいだろう。体調一つ、笑顔一つ完璧でいなければならない。
それを毎日……?
ゾッとした。姫の純潔は、姫の努力と『完璧』の賜物。だが、姫の心は考えられているのか?
珍しく悲しげに、ウィンが言う。
「姫様元気本当かな……?」
(一心より君たちの方が信用ならない。)
今朝の姫の言葉が耳にこだました。
そうであってほしくない考えを、思わず声に出す。
「姫は、私達の前でさえ、『完璧』でいる………?」
誰かが息を呑んだ音が聞こえる、がそんなことはどうでもいい。
姫が『完璧』でいるためには毒の耐性は必須だろう。
姫の体を守る目にも、姫の婚姻相手を勝手に決めさせないためにも、姫を利用させないためにも。
では、………………では姫の心は、どう守る?
元から白い顔を青白くさせて、呟いたのはアイセン。
「姫の食事に一心が毒をたまに盛るのは、姫がいつ毒を盛られてもいいようにするため………?」
「わしは……わしはウィール様に報告をしなければ……。」
幽鬼のようなフォルじいがフラフラと姿を消す。ウィール様に植物をつたって報告に行ったのだろう。
アーシェはイアと話している。女性型の精霊として、姫の力になりたいのだろう。
ウィンはダーネスに説得されて、人の子の貴族について情報を集めに共に出かけた。
私にできることは……。姫のために、水に見える解毒薬を開発することだろうか。
アイセンは氷に見せた解毒薬のために一心を探している。
各々が姫のために幽鬼のように動いた後、しばらくしてウィール様が来た。
「うわっ!どうしたの皆そんな青白い顔して!下級や小精霊が不安そうにしてたよ?」
「ウィール様…………。」
姫のことを、自分でそこから考えたことを全てウィール様に伝えた。
「そっか、一心が姫の食事に毒を……ね。リーンフォルには悪いことしたな。入れ違いだ。」
とりあえず、と全員を再び集めたウィール様は全員を宥めるように話し始めた。
姫の分かっている気になっていた『日常』について。
「姫は、千利はなんで『千利』なんだと思う?」
「と、いいますと?」
「千利の本名は『春原 小鳥美』だよ?なんで『架空の兄』である『春原 千利』を演じているんだと思う?」
男装とかも、だね。と続けるウィール様。
ラトネスが答える。
「自身の純潔を守るためでは?」
否定をしたのはダーネス。
「姫は自身よりも仲間や家族を優先する方だ。違うだろう。」
「どっちも合ってるよ。」
僅かに苦笑したウィール様は、どこか羨ましいものを思い出しているような顔で言う。
「姫にはね、本気で仕えたいと思っていた人の子がいたんだ。その人は、姫の完璧が崩れたせいで死んでしまったんだよ。だから、姫は自分を許すわけにはいかないんだ。」
そう言ったウィール様は、真剣な目で私達を試すように、質問を投げかける。
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