迷宮転生記

こなぴ

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第2章

第14話 ギルドカード

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 俺たちが精霊湖で釣りをしてから1ヶ月が経とうしていた。
 ギルドカードが消えてから1ヶ月半程だ。
 同じ宿に宿泊するのも面白味がないと判断した俺は、2週間ごとに宿を変えていき、今は火の精霊亭に宿泊していて、一階で朝食をとっているところだ。
 すると、宿の受付の女性が来客の知らせを届けてきた。
 俺は誰だ?と思いながら通すようにお願いした。
 現れたのは、どこかで見たことある女性で、息切れしていることから、俺たちを探し回っていたことがわかる。
 俺は正面に座っていたヴィアに小声で誰だ?と聞くと、冒険者ギルドの受付にいた女性ですとヴィアは答え、ああ。なるほどと思い、椅子に座るように促した。
 しかし、6人用テーブルの席には、クリス、俺、対面にジョイナ、ヴィアが座っており、受付の女性は迷ったあげく、何を思ったのか俺の隣に座った。
 そして、椅子を俺の方へと寄せ、暑いのか胸元をパタパタと仰ぎ始めた。
 この行動にイラっとしたクリスが威圧しながら、ドスの利いたきいた声で言った。

「おい。女ぁ!マスターに近寄るな。斬るぞ」

 随分とガラの悪い言い方だ。
 受付の女性はクリスに怯えながら立ち上がり、対面の席へと移動した。
 俺はクリスを落ち着かせ、受付の女性に水を差し出し、用件を尋ねた。

「それで?冒険者ギルドが何の用だ?」

 受付の女性は水を一気に飲み干して答えた。

「は、はいっ。真人様でございますね。ギルドマスターより伝言を預かって参りました。ギルドカードの件が判明したので、今日または明日の昼頃にギルドにお越しくださいとのことでした。たしかに伝えました。そ、それでは失礼いたします」

 クリスに睨まれたにらまれた受付の女性は逃げるように去っていった。

「そういえば、ギルドカードがまだだったな」

「真人様。忘れてたんですか?」

「ああ。なくても特に問題はなかったからな」

「でも依頼を受けるなら、やはりカードがあった方がいいですよ?変わりに私たちが受けてもいいですが・・・」

「そうだな。とりあえずギルドには顔を出そう。今日の昼で問題ないか?」

「私は今日で大丈夫です」

「私も特にすることないので今日でいいです」

「・・・・・」

 ヴィアとジョイナは答えたが、クリスは無言で手を上げて発言の許可を求めてきた。

 「・・・なんだクリス?何か企んでるのか?」

「マスター。問題ならある。色目を使う女は先に処分するに限る」

「た、たしかにそれは問題ですね。クリス姉様」

「クリスお姉様。先に3人でギルドに乗り込みますか?」

「待て待て。3人共。そんなことしたらまたアルに怒られるぞ?」

 3人はブルッと体を震わせた。

「うっ。それはいや!」

「思い出しただけでも震えが・・・」

「アル様は怒ると怖いです・・・」

「よし。わかったなら大人しくしてるんだ」

「「「はい・・・」」」

 3人はシュンとなり、体を小さくさせた。
 俺は次もこの手でいこうと決めたのであった。

 ◇◇◇
 一行は、朝食を食べ終え、宿を出るとメイグウ商会へと足を向けた。
 特に用事はなく、冷やかしに行こうというわけだ。
 露店を見ながら歩いていると、俺はジョイナがいないことに気づいた。

「ヴ、ヴィア!ジョイナがいないぞ!?どこ行った!?」

「あ~。またですか。いつものことですよ。いつの間にかいなくなって、しばらくしたらフラッと戻ってくるんです」

「大丈夫なのか?」

「さぁ?でもこの辺は何度も来てるので、迷子にはならないと思いますよ?」

「なんで疑問系なんだ!?」

「初めてジョイナと旅にでた時は私も気にしてたんですよ?でも毎回いなくなるし、何度言っても同じなので諦めました」

「ギルドに行く前に、メイグウ商会に行こうと思ってたんだが、行き先を伝えなかったな・・・」

「大丈夫ですよ。そのうち戻ってきますよ。匂いかなんかで見つけてるのかもしれません」

「犬か!あいつは!」

「ディーネみたい」

 俺とクリスの言葉が重なった。
 どうやらジョイナの放浪癖が出たようだ。

「最悪、ギルドに現れるでしょうから、気にしないで進みましょう」

「そうだな。ジョイナに手を出して無事なヤツがいるとは思えんしな。相手の方が悲惨な目に合うだろう」

「ん。それにジョイナはしぶとい。柔な鍛え方したつもりもない」

 3人は気にしないで進むことにして、しばらく歩き、メイグウ商会を目前にして真新しい建物が目に入った。
 そう。ここは以前、ヴィアが壊してしまった建物があった場所で、ヴィアとジョイナが住人に頭を下げ、新しい住宅を建築したのだ。
 その住宅の前を通ると、住宅の前で屋台をしていた恰幅の良い中年の女性が声をかけてきた。
 同時に屋台からいい匂いが漂ってきた。

「あら。ヴィアちゃん。この間はありがとうねぇ。こんな立派な家を建ててもらっちゃって。今日は、ジョイナちゃんはいないのね。それにいい男を連れてるわね。そちらは妹さん?よかったら、みんなで食べて」

 中年の女性はそう言って屋台から3本の細長い物が刺さった串を渡してきた。

「おばちゃん。私たちが悪いんだから当然のことしただけよ。でもありがたくいただくわ。こちらは私の主様。こっちは私の師匠」

 中年の女性はヴィアの言葉に真人を睨むようにして目を細めた。

「ヴィアちゃんの主?ヴィアちゃんは奴隷なのかい?あんた!どこのお貴族様かなんかしらないけど、こんないい子を奴隷にするなんて痛い目みるよ!」

「あはは。おばちゃん。違う違う。主様っていうのは旦那様ってこと」

 するとクリスがヴィアの前に出てきて、胸を張って言った。

「むっ!私はヴィアの妹じゃない!私が正妻のクリス!」

「そ、そうかい。ならいいんだ。まぁたしかにここには奴隷なんて考え持つ者は少ないだろうからね。あんたも悪かったね!それによく見たらみんな仲良さそうだね!冷めないうちに早く食べな!」

「あはは。ジョイナはどっか行っちゃったけどね」

 俺は中年の女性に軽く会釈して、不思議に思っていたことを聞くことにした。

「いや。気にしないでくれ。それよりも、おばちゃん。この串には何が刺さってるんだ?何かの開き?蒲焼きみたいなんだが」

「なんだ。あんた知らないのかい?今流行ってるロックワームの一本串だよ」

「「「えっ?ロックワーム?」」」

 3人の声が重なった。

「そうだよ。ロックワームは普段は堅いけど、熱によって堅さが変わるらしくてね。焼くとこれがまたおいしいんだよ!普段は土の中にいてなかなか取れないんだけど、最近になって、大量に取れる不思議な場所が見つかったんだと」

 3人は顔を見合わせ、思い当たるフシがある真人が言った。

「なぁ?おばちゃん。もしかして、そこって精霊湖の近くで、円形状に抉られたえぐられた跡がある場所じゃないか?」

「なんだ。あんたたちも行ったことあるのかい。冒険者たちいわく、他の場所より魔力が多い場所なんだとさ。私にゃさっぱりだけどね」

 中年の女性の話しを聞いた3人はコソコソ話し始めた。

「な、なぁ?間違いなく前にクリスがくり貫いたぬいた所だろう?」

「そういえば、そんなこともありましたね」

「ん。私の魔力があの土の塊に残ってるのかも。浮遊魔法で長い時間固定してたし」

「あのままにして大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですか?ロックワームは次から次に現れるから、いなくなることはないでしょうし。幼体だから被害が出ることもないと思いますよ?」

「ん。それにこのロックワームの串焼きおいしい」

「た、食べたのか。ジョイナがいたら叫んでたかもな。あいつはあれ以来、ロックワームの夢を見るとか言ってたぞ」

「あっ。ほんとにおいしいですね。クリス姉様」

「マスター。ロックワーム捕まえてジョイナの枕元に置いとく?」

「やめときなさい。おっ。たしかにいけるな。少し鰻の味に似てるか。ディーネが喜びそうだ」

「マスター。ディーネもロックワームに埋もれさせる?」

「やめなさい。それより、何本か買ってそろそろ行こう」

 真人は中年の女性から10本程ロックワームの串焼きを購入すると、空間収納に放り込んだ。
 3人は中年の女性にお礼を言って別れ、歩き始めると、すぐにメイグウ商会に着いた。
 そこには30人程の冒険者が列を成して並んでいた。
 店の方を見ると、店内も満員のようだ。
 真人は列の後ろに並びながら、ヴィアに声をかけた。

「なぁ。ヴィア。いつもこんなに並んでるのか?それも冒険者ばかりか?」

「普段はここまでないですが・・・もしかしたら何かあったのかもしれませんね。一般人が訪れるのは、冒険者がいなくなった後だと思いますよ?」

「たしかに、これだけの冒険者が朝一で並んでるってことはそういうことになるのか。まぁローニャに聞けばわかるか」

「真人様。買う物があるんですか?」

「いや。ないな」

「でしたら、事務所の方に行ってはいかがでしょう?」

「それもそうだな。クリス。何をキョロキョロしてるんだ?何か欲しい物でもあるのか?」

「ん。ゼーニャが近づいてこないか監視中」

「そうか。ヴィア。クリスはここにいるそうだ。事務所に行こう」

「そうですね。真人様。早く行きましょう」

「あーっ!?マスター!うそうそ!私も行くから置いてかないで」

 真人とヴィアが列を外れ、歩き始めるとクリスが焦りながらついてきた。
 3人は店舗横の事務所に向かい、扉をノックすると、返事があり、店員と思われる女性が出てきた。
 店員の女性は真人、クリス、ヴィアの順番にみると、ヴィアで視線がとまった。

「あっ。あなたは以前助けていただいたヴィア様ですね。その節はありがとうございました。支配人にご用でしょうか?」

「お気になさらずに。用があるわけではないんですが、ローニャさんは不在ですか?」

「いえ。いるにはいるんですが・・・」

「何かありましたか?」

「今はゼーニャさんと揉めているようで・・・。中でお待ちいただけますか?」

 ヴィアは真人の方をチラッと見ると、真人は頷いた。

「それでは待たせていただきます」

 3人は、店員の女性に応接室に案内され、店員の女性は、お茶とお菓子を3人の前に置き、退室していった。
 しかし、2人は出されたお菓子を見て黙り込んでしまった。
 クリスはゼーニャが揉めてると聞いてか、ご機嫌だ。

「「・・・・・」」

「~♪」

「なぁ。ヴィア?」

「はい・・・。真人様」

「なんでここでもロックワームが出てくるんだ?」

「さぁ・・・?私に聞かれてもわかりませんが、私も同じこと思ってました」

 出されたお菓子は、皿の上に20センチ程のロックワームが丸々1匹載っているものだった。
 ダンジョン産のフォークとナイフまで添えてある。

「ヴィア。ロックワームはそんなに流行ってるのか?さっき食べた串焼きの味は悪くなかったが・・・。お菓子として普通に出てきたぞ?」

「真人様。私も最近こちらには顔を出してなかったので・・・。でも、残すのも悪いですし、食べるしかないですよ・・・?」

「そ、そうだな・・・」

 2人がチラッとクリスの方を見ると、クリスは上機嫌でロックワームをナイフで切り、フォークに刺しておいしそうに食べていた。
 2人はその様子にギョッとなり、真人がクリスに言った。

「ク、クリス?大丈夫なのか?」

「マスター。何が?」

「う、うまいのか?それ」

「ん。甘くて美味しい。でも甘過ぎてたくさんは食べれない」

 真人とヴィアは顔を見合わせて首を傾げた。

「甘い?ヴィア。ロックワームは甘いのか?クリみたいなもんか?」

「真人様!私も食べたことないですよ!」

「しょうがない。食べてみるか・・・」

 真人が意を決してロックワームにナイフを入れると、サクッと小気味良い音がして、真人は目を見張った。

「こ、これは砂糖菓子?生地に砂糖練り込んで揚げたのか?」

 真人は本物のロックワームでないことがわかると少しホッとなった。

「あっ。ほんとですね。甘い匂いがします」

「中身は・・・白い餡か?いや。練乳っぽいな」

 2人はロックワームを口に運ぶと目を見開いた。

「お、おいしいです!」

「ふむ。これはうまいな。外はサクッとして中はトロッとしてる。だがクリスの言うとおり甘過ぎるな。お茶よりも苦めのコーヒーなんかと合うかもしれん」

「味もですけど、見た目も本物かと思いました。メイグウ商会はお菓子職人でもいるんですかね?新しいことでも始めたとか?」

「だとするとダンジョンのお菓子のレシピを何個か教えてみるか」

 すると、廊下の方からドタドタと騒がしい音が聞こえ、真人たちのいる応接室の扉が、勢いよく開かれて、ローニャが現れた。

「真人様!お久しぶりです!よくぞお越しくださいました!」

「お、おおう。元気そうだな」

「お久しぶりです。ローニャさん」

「ヴィア様とクリス様もお久しぶりです。ゆっくりしていってください。あれ?今日はジョイナ様はいらっしゃらないのですか?」

「ああ。ジョイナはちょっとな」

「ん。ジョイナは行方不明」

「えっ?大丈夫なんですか?」

「ローニャさん。いつものことだから大丈夫。そのうち戻ってくるから」

「そ、そうですか。それで商会に何かご入り用でしょうか?」

 挨拶もそこそこに、真人はローニャにお菓子の話しを聞くことにした。

「いや。特に用事があってきたわけじゃないんだが、ローニャ。メイグウ商会はお菓子も取り扱うのか?このロックワームのお菓子は精巧に作られてるな。ここまで再現するのは苦労しただろう?」

「せいこう?真人様?ウチにお菓子の職人はいませんよ?店員が何名か趣味で作る程度の物ですよ?」

「はっ?このロックワームのお菓子は・・・?」

「ああ。これも店員が作った物ですよ。最近、ロックワームが大量に取れる不思議な場所が見つかったみたいで」

 真人とヴィアは顔を見合わた。

「こ、これは作られた物では・・・?」

「えっ?何言ってるですか?真人様。あんな本物のように作れるわけないじゃないですか。これはロックワームを高温の油で揚げた、ロックワームの素揚げですよ?コンロの魔道具とダンジョン産の最高級の油を使用してるんです。これも真人様たちのおかげですね!従業員たちのご褒美としても出していて好評なんです!」

「「・・・・・」」

「ん。ローニャおいしかった。でも中身が甘過ぎるから、苦めのチョコとか添えてあるといいかも」

「クリス様。私どももそう感じておりましたが・・・。なるほど。チョコで包んでしまってもいいかもしれませんね。見た目が苦手という方もいらっしゃいますし」

「あとはパンとかに挟んでもよさそう」

「それも手軽に食べれそうでいいですね」

 意外なことにローニャとクリスはお菓子について盛り上がっていた。 
 俺はその様子をみながら、ふと先程の疑問を思い出し、ローニャに聞くことにした。

「そういえばローニャ。店舗には冒険者たちが押し掛けてきていたが何かあったのか?」

「それはですね・・・。私もまだ詳しいことは聞いてないのですが、どこかの村にゴブリンが出現したみたいで、その村の近くにダンジョンが出来たんじゃないかって噂なんですよ。それで冒険者の方々はギルドからの調査依頼が出る前に準備してるみたいです。真人様たちも冒険者なんですよね?きっと冒険者ギルドからも近々お達しがあると思いますよ」

「いや。俺は事情があって、まだ冒険者に登録してないんだ。クリス、ヴィア、ジョイナは登録してるから、依頼は受けれるけどな」

「真人様。私たちもその依頼受けましょう」

「ん。暇つぶしにはなる」

「待て。2人共。とりあえず昼にギルドに行ってからだ。その時、ついでにギルドマスターに聞いてみよう」

「そうですね。でもその前にジョイナを見つけないといけないですね」

「今度から首輪つければいい」

「まぁ、念話が使えるから大丈夫だろ。ゼーニャも冒険者だったな。ローニャ。ゼーニャも行くのか?揉めてると聞いたが」

 と、そこに様子を窺っていたようなタイミングでゼーニャが扉を開けて現れた。

「真人様!私に会いにきてくれたんですねっ!」

 「ゼーニャ全然違う。マスターから離れる。ほら。シッシッ」

「あっ!ちょっ!クリス様!離してくださいっ!ひっ!?ひょぇっ!?なんですかこの黒いのは!?」

 クリスはゼーニャの後ろにゲートを開き、ゼーニャは謎の黒いのが現れたことに驚いた。

「大人しくしとかないと、黒いのに引き込まれて帰ってこれなくなる。わかった?」

 ゼーニャは涙目になり激しく首を縦に振った。
 ローニャの話しによると、調査の依頼を受けれるのはCランク以上の冒険者かららしく、目と足が治ったゼーニャはこれを受けるつもりだったようで、それに反対したのがローニャということだ。
 ローニャが反対の理由は、単純に心配なのと、ゴブリンの数も場所も不明なこと、信頼できる人がいないこと、パーティを組めていないことを言っていた。
 そんな風に眉根を寄せて話していると、ローニャは何かいいことを思いついたのか、ハッとなった顔をした。
 そして真人に向かって頭を下げた。

「真人様。どうかゼーニャを連れていっていただけませんか?調査となれば、この子もどこかのパーティに組み込まれるはずです。どこの馬の骨かもわからない人たちより、真人様たちのそばの方が安心ですので・・・。どうかお願いできないでしょうか・・・?」

「馬の骨って・・・。俺たちもまだ依頼を受けれるかわからないんだ。それに依頼自体もまだ出てないんだろう?とりあえず冒険者ギルドで話し合ってから決めることにしよう。ゼーニャ。それまで大人しくしてるんだ。いいな?」

「はいっ!真人様!大人しく待っときますっ!」

「もう!この子は真人様の言うことは聞くんですから」

「ははっ。では俺たちは冒険者ギルドに行くとするか」

「ローニャさん。ご馳走様でした。失礼します」

「ん。おいしかった。またくる」

「はい。またのお越しをお待ちしております」

 3人は事務所を出て通りを歩いていると、別の屋台でもロックワームが売っていた。
 そのことに気づいた真人がヴィアに問いかけた。

「なぁ?ヴィア。ロックワームといいカウニフィッシュといい万能な食材じゃないか?調理次第で味がガラッと変わるのなんて中々ないぞ?」

「思った以上においしかったですね。でも真人様。ロックワームもカウニフィッシュも私たちには簡単ですが、普通は捕獲するのも困難なはずですよ?今はクリス姉様の魔力に引き寄せられてるのを捕獲してるみたいですけど」

「それもそうか。そういえば、クリスも取るのに苦労していたな。だが、もしかすると他にも万能な生物がいるかもしれん」

「そうかもしれませんが・・・。食べるまではわからないですよね・・・?外れを引いた時が怖いです・・・。あと、ロックワームならまだなんとかって感じでしたが、あれ以上見た目が悪いとちょっと食べる気が・・・。それにしても誰がロックワームを食べてみようと思ったのでしょう?」

「そうだな・・・。怖いもの知らずのヤツがいたもんだ。たしかに食べるまでは味がわからんか・・・。ディーネに味見させるか・・・?」

「真人様。さすがにそれはひどくないですか?」

「ディーネなら大丈夫。暴飲暴食の称号を持ってる」

「えっ?クリス姉様。なんですか?その暴飲暴食って?」

「それは、クリスが勝手につけただけだ。多分。簡単に言えは、飲み過ぎたり食べすぎたりすることだ」

「そうなんですか。でもディーネ様ならその称号を持ってても不思議じゃないです」

「ま、まぁ、たしかにな・・・」

 3人はディーネの食べてる姿を思い出しながら、冒険者ギルドへと足を進めるのだった。

 ◇◇◇
 その頃、ジョイナは細い路地裏を文句を言いながら歩いていた。

「もう!みんなすぐ迷子になるんだから!真人様がいるから大丈夫だと思うけど、早く見つけないと!」

 どうやらジョイナは、3人の方が迷子だと思っているようだ。
 そして1人の黒づくめの男性が前から歩いてきたことに目を細め警戒したが、知っている人物だと気づき駆け寄った。

「あっ。なんだ。おじちゃんか。格好が怪し過ぎるよ。聖教国から戻ってきたんだ。何かいいのあった?」

「これはこれはジョイナ様。お久しぶりでございます。聖教国からは先日、戻って参りました。向こうでは帝国産の魔道具が流れてきておりましたよ。よほど貴族が金銭に困っているのでしょう。店の方に来ていただければ、お出ししますが」

「帝国のが?ロクな物なさそうだけど・・・。まぁ見るだけ見てみよっかな!」

 男は商人のようで、細い路地裏を歩いていることからわかるように、少し後ろめたい物を扱っているようだ。
 2人は路地裏を歩き、男の店に着くと、仕入れた商品を保管している倉庫へ向かった。

「ジョイナ様。ご足労いただいて申し訳ありませんねぇ。先日仕入れたばかりでまだ表には並べてなくて」

「いいよ。おじちゃん。掘り出し物があれば先に買うし」

「そうでございますか。ではこちらから、これは魔法の敷物と言いまして、これに座り瞑想すると魔法の威力が上がるという物です」

「ん?ただの布に魔法陣が書いてあるだけ?瞑想したままどうやって魔法打つの?後衛は常に動いて、敵より先手の位置取りして仕留められる位置にいなきゃ。はあっ?動くと効果が切れる?冗談でしょ?」

「で、ではこちらはどうでしょう?これは、呪いの首飾りと言いまして、身につけると動きが遅くなりますが、魔力が上がるという物です」

「何?動きが遅くなった分、その魔力使って身体強化しろって?それ意味ないじゃん!」

 他にも呪いの腕輪(足が速くなる変わりに腕が重くなる)や呪いの鎧(不死身になれる)恐らくアンデッドになるため不死身、と思われる即死効果付きの鎧等、いわく付きの物を延々と紹介された。
 ジョイナはため息をつきながら言った。

「おじちゃん・・・。ロクな物がないよ・・・。しかも相変わらず呪い系ばっかりだし。王都に行って貴族に売るしかないと思う。向こうの貴族はここと違って、見栄ばっかり張ってるし、飾ってるだけで満足するはずだから」

「はぁ・・・。やっぱりそうですか。帝国の物ですから期待はしておりませんでしたが・・・」

「おじちゃん。悪いことは言わないから帝国の物は止めた方がいいよ」

「まぁ、それでも一部の物好きな方には売れますので」

「だったら王都に店を構えればいいのに」

「私も当初その予定だったのですが、やはりダンジョンのドロップアイテムの方がおもしろいのが出ますので」

「その気持ちはわかるけど・・・。ここのダンジョンは、おじちゃんが期待してるような呪い系は絶対出ないよ?」

「はぁ・・・?たしかにまだ見たことありませんが、深層の方に到達する冒険者がいればアンデッド系が出る階層が見つかもしれませんよ?」

「あはは!ないない!絶対ないよ!」

「それはなぜでしょうか?」

 ジョイナは真顔になり、男の目を見ながら言った。

「いい?おじちゃん。ここのダンジョンにはね神がいるんだよ。神が死者を弄ぶようなことすると思う?神はいつも人のことを見てるんだよ。だから悪いことをするとね、罰が当たるんだよ。だからおじちゃんも気を付けてね。どうしてもというなら、帝国側のダンジョンに行けばいいよ?あまりオススメしないけどね」

 男はジョイナの凄みを帯びた顔に恐怖した。

「ジ、ジョイナ様。あ、あなたはまさかダンジョンの最下層に何があるかご存じで・・・?」

「さぁね。でも忠告はしたからね。次があったらまたくるね」

 ジョイナはそう言い残して店をあとにした。
 ジョイナが去り、店に残された男は、ドサッと尻もちをついた。

「お、おお・・・。あの方はもしや神の使いなのでは・・・?こうして私が足を踏み外す前に忠告してくださったと。最近の私は後先考えずに行動してましたが、目が覚めた思いです。心を入れ替えましょう。ジョイナ様。感謝いたします」

 男はジョイナに祈りを捧げるのだった。
 そして呪いの魔道具たちは王都へと流れていった。

 ◇◇◇
 真人、クリス、ヴィアの3人が冒険者ギルドに向かっていると、細い路地からヒョコッとジョイナが出てくるところにでくわし、ヴィアが叫んだ。

「ジョイナ!どこ行ってたの!」

「あっ!ヴィア!それはこっちが言いたいよ!急にいなくならないでよね!探してたんだから!」

「ジョイナ。違う。いなくなったのはジョイナの方。私たちが探してた。いや、探してはいないけど。とにかくジョイナが悪い」

「クリスお姉様まで!真人様!なんとか言ってやってください!」

「あ、ああ。まぁ、落ち着け。なんにせよ、ギルドに着く前に合流できてよかった」

「マスター。ジョイナにはお仕置きが必要」

「そうです!真人様!ジョイナは何回言っても聞かないんですから!」

「なんで私がお仕置きされるの!真人様は私にお仕置きなんてしませんよね?」

 ジョイナは真人にすがりついて、上目遣いをしてきた。

「うっ。そ、そうだな。さてどうしたものか」

「マスター。甘いよ!ジョイナはロックワームの中にでも投げ込めばいい!」

「そうです!真人様!ジョイナにロックワームを取ってこさせて、新しい料理の味見係にさせましょう!」

「まぁそんなことならいいか。ジョイナは今度から味見係な」

「えっ!?味見係?なんか嫌な予感がするんですけど・・・」

 4人は騒がしくしながら歩き、ようやく冒険者ギルドに着いた。
 扉をくぐり中に入ると、冒険者たちでごった返していた。
 4人が受付の方へと近づくと、朝に宿へと訪れた女性を発見し、その女性の元へと向かうと、真人たちに気づいた。
 その女性は、集団の中では心理的に強気でいられるのか、クリスを見るとフンッと鼻を鳴らし、顎を階段方へとしゃくった。
 しかし、後方にいた上司と思われる女性に頭を叩かれて涙目になっていた。
 すると、後方にいた女性が前に出てきて言った。

「真人様ですね?お待ちしておりました。ギルドマスターの部屋へ案内いたします」

「ああ。よろしく頼む」

 真人は、3人が珍しく大人しいことに気づき目を向けると、先程の女性とにらみ合っていた。
 真人が気にすることなく階段の方へと向かい始めると、3人は女性にベーッと舌を出し、そのあとに焦りながら追いかけてきた。
 2階のギルドマスターの執務室に案内された4人は、2人の男性と対面していた。
 1人はガイレン、もう1人は金髪、碧眼の男だ。
 しかし、金髪、碧眼の男はヴィアとジョイナの姿を見るなり、目を見開いていた。
 真人はその様子を不思議に思いながらその男を見ていたが、それに気づくことなくガイレンが言った。

「真人殿。長い間お待たせして申し訳ありません。ギルドカードの件をお話しするためにお呼びいたしました。ご足労いただきありがとうございます。どうぞお座りください」

 真人とクリスはソファーに座り、ヴィアとジョイナはその後ろに立ち控えた。

「それで?そちらの男性は?」

「真人殿。こちらの方は王都にある冒険者ギルドの本部のグランドマスター、ザム殿です。ギルドカードの件を色々調べてくださいました」
「真人殿。お初にお目にかかります。セリア王国冒険者ギルド本部、グランドマスターのザムと申します」

「真人だ。なぁ?ザム殿はグランドマスターなんだろう?冒険者でもなんでもない俺に、なんでそんなに畏まるんだ?」

 ザムはチラッとヴィアの方に目を向けてから答えた。

「そ、それは、ハイエルフ様を従えているとなると、それ以上の存在とお見受けいたしましたので・・・」

「ん?ザム殿はハイエルフを知っているのか?」

「はい。今は魔道具で姿を変えてますが、私もエルフですので」

 その言葉に驚いたのは何故かガイレンだった。

「えっ!?ザムさんはエルフだったんですか!?」

「ガイレンは知らなかったか。たしかにお前はダンジョンがあるから、ここを離れることができないか。本部であるギルドマスターが集まるギルド会議にも参加してなかったから知らないのも無理はない。絶対に秘密というわけでもないが、できれば他言無用で頼む。生きづらくなるからな」

 ジョイナは自分も体験してきたことから、少しザムに同情した。

「それでザム殿はハイエルフのことをどこまで知ってるんだ?」

「私もそんなに詳しくないですよ?白銀の髪、紫眼を持ったエルフはかつて存在した先祖返りであること。一部の者が何か使命を持ってるということぐらいですよ。私は冒険者になろうと国を出ましたが、ハイエルフ様の存在を知ったのも国を出てから、文献によって知っただけですので」

「そうなのか。俺たちもはっきりとしたことはわかってなくてな。当時を知る者もいないだろうし。だから機会をみてシルフィスに行く予定なんだ」

「そうでしたか。話しが逸れましたが、ギルドカードの件ですが・・・。私にもはっきりとした理由はわかりませんでした。かつての勇者や聖女も似たようなことが起きたということはわかりましたが、詳しくは・・・。おそらく魔道具が認識する範疇はんちゅうを越えた、所謂、上位に近い存在であるのが原因かと思われます」

「ほらね。私が言ったとおり!マスターを人間ごときが作った魔道具で登録できるわけない」

「クリス姉様の言うとおりでしたね」

「・・・・・」

 クリスとヴィアは鼻息荒く話していたが、真人はジョイナが何か言いたそうな顔をしていることに気づいた。

「ジョイナ?どうした?」

「真人様。少しよろしいでしょうか?」

「ああ。別にかまわんが」

 ジョイナはザムの方に目を向けた。

「グランドマスター。お久しぶりです。ジョイナです。お会いするのは・・・研究所の壊滅とここのダンジョンが出来た当初に、調査の依頼を受けた時以来でしょうか?」

「ああ。やはりあのジョイナなのか。あの時は気づかなかったが、エルフだったんだな。元気そうで何よりだ。眼の色はそのままだが、髪の色は緑だと記憶しているんだが・・・?」

「私もしばらくは地上で暮らしてたんですけどね。生きづらくなって、真人様を頼ったってわけです。髪の色が変わったのは、真人様から一番寵愛を受けてる証ですっ!」

 真人が口をヒクつかせていると、クリスが立ち上がり、ジョイナの方を向き言った。

「ジョイナ。勘違い!一番の寵愛を受けてるのは私」

「いいえ!クリス姉様!それは違います!一番目は政略婚、二番目は恋愛婚と言うように、一番寵愛を受けてるのは私ですっ!ジョイナは愛人枠で例外ですが」

「「「違う!私が一番!」」」

 3人はその場で言い争いを始め、真人は手で額を押さえた。
 そして無言で結界魔法で3人を覆い、サイレントという魔法を付与した。
 傍からはたから見れば、3人は必死の形相で口をパクパクさせている風に見えるだろう。
 ところが、それを見て真人の対面に座っている2人も別の意味で口をパクパクさせていた。

「ザ、ザムさん。急に透明の膜ができて静かになったんですが・・・」

「あ、ああ。一瞬で結界魔法を・・・。しかも無詠唱で発動した・・・」

「ジョイナのことはおいておこう。それで?俺のギルドカードはどうなるんだ?」

 真人の声でハッとなった2人は顔を見合わせ頷いて、ザムが答えた。
 男同士のアイコンタクトはきついなと思いながら真人はその様子を見ていた。

「真人殿。私どももギルドカードの件を決めかねているのです。それで私が直接見極めようと訪れたわけです。まぁ聖教国に調査した帰りというのもありますが。ところで真人殿のステータスを拝見しても?うっ!?」

「っ!?」

 ザムが真人のステータスを確認しようと声をかけると、言い争っていた3人が膨大な魔力を発し、結界魔法を破って威圧してきた。
 そして3人は、ザムとガイレンを鋭い目で見ながら声を発した。

「マスターはこの世を統べる『魔神』」

「真人様はこの地を支配する『王』」

「真人様は私たちの『主』であらせられる」

「「「それが真実!」」」

 声を揃えて言い終えた3人は、徐々に魔力をおさめていった。
 真人、ザム、ガイレンは呆然としていたが、気を取り戻した真人が言った。

「ま、まぁそういうことだ。わざわざステータスを見せてまでギルドカードに執着してないしな」

「い、いえ。真人殿。いや・・・真人様。今ので確信致しました。ギルドカードは材料さえ手に入ればなんとかなるかもしれません」

「ザムさん。いいんですか?」

「ああ。ガイレン。お前もあの3人の言霊を聞いただろう。間違いなくこの方は神に近い存在だ。このことは他言無用だ」

「わ、わかりました」

「さ、様?ザム殿?俺は普通の話し方で構わないのだが」

「いえ。そういうわけにもいきません。上位の存在とわかった以上は敬わなければいけません」

 それを聞いた3人は腕を組んでうんうんと頷いている。

「そ、それで?その材料とは?」

「アダマンタイトです。そのアダマンタイトをドワーフの鍛治師に頼み、ギルドカード程の大きさに加工してもらい、真人様の名前と魔力を登録し、ギルドからの証明として私の魔力を流します。ですが・・・」

「なんだ?」

「アダマンタイトは伝説の金属ですので、どこで入手できるか不明なんです。あるとしたら王国の宝物庫なんですが、経緯と説明がいるため少々めんどくさいことになるでしょう。真人様もあまり公にされることを望みませんよね?」

「そうだな。そこまでする必要はないな」

「それともう一つ」

「まだあるのか」

「冒険者ギルドには真人様のカードのことは手紙を用いて伝えることはできます。しかし入国や入門の際の証明としては・・・」

「なるほど。ギルドとは関係ない者には見たことないカードってなるわけだな。その辺は仕方ないだろう」

「そうなります。それでどうなさいますか?アダマンタイトの採取依頼を出してみますか?見つかるとは思えませんが・・・」

「ザム。マスターを舐めてもらっては困る!」

「真人様なら簡単に解決できます!」

「真人様!やっちゃってください!」

 3人は息の合った声で叫んだ。

「ふむ。クリス。ギルドカードを貸してくれ」

「マスター。はい。何するの?」

「いや。ただの大きさの見本だ」

「「「なるほど!」」」

「「?」」

 3人は真人が今から何をするのか納得し、対面の2人は不思議そうな顔をして首を傾げた。
 クリスのギルドカードを眺めて大きさを確認した真人は、手に魔力・・・神気を集め、次の瞬間、強烈な光りを放った。
 光りがおさまった真人の手の上には、ギルドカードと同じ大きさの黒い色をしたカードがあった。
 対面の2人はそれを見て口をポカーンと開けた。

「ザム殿。これでいいか?」

 真人から声をかけられたザムは、ハッとなって我を取り戻した。

「ま、真人様?い、今のは・・・?」

「ん?アダマンタイトでカードを作り出しただけだが?名前と魔力は刻んである」

「「えっ!?アダマンタイトを作った!?」」

 2人は驚いてまた口をあんぐりと開けてしまった。

「マスター。さっき買ったロックワームの串焼きでも突っ込んでみれば?」

「うーん。私は生きてるのがいいと思いますけど。そのうちジョイナに味見させようと思ってたし」

「ロックワーム?ロックワームは生きてる時は堅くて食べれないよ?」

「「えっ?」」

「ジョイナはロックワームを食べたことある・・・?」

「ジョイナ?お金に困ってるの?食べ物買うお金がないとか?」

「ヴィア!なんでそうなるの!結構前におもしろい場所みつけてね。クリスお姉様の魔力にロックワームが集まってる場所があって、憂さ晴らしに焼いてみたら香ばしい香りがして、近くにいた冒険者呼んで食べさせてみたら、これがまたおいしくてね!その冒険者が生きてるまま口にしたけど、堅くて食べれなかったんだよね。熱の温度によって変わるみたい」

「「「・・・・・」」」

 真人、クリス、ヴィアは無言になり、真人は空間収納から屋台で購入した1本のロックワームの串焼きを取り出した。
 そして、口を開けたままその様子を視界に捉えたザムとガイレンはさらに驚くことになった。

「「し、収納魔法!?」」

「ジョイナ。このロックワームを食べたことあるか?」

「あぁ。真人様もおばちゃんの屋台に行ったんだね。私がおばちゃんのとこに持っていったら、売り物にするからロックワームを捕まえてきてくれって言われたんだよね。でもめんどくさかったからローニャさんに任せちゃったんだよね~。おいしいけど私はもう飽きたからいらないかな~。最近は焼きつくそうとしたら怒られちゃうし。冒険者も多くなったし。場所教えたのは失敗だったかな」

「お前か!ロックワームを広めたのは!」

「真人様?どうしたんですか?おいしくなかったですか?」

「いや。おいしかったんだが・・・。なんと言っていいかわからんな・・・」

「真人様!疲れてるんですね!そういう時こそロックワームですよ!」

「な、なんだ?ジョイナ」

「生きてるロックワームの首を切って、中身の白い液体を飲めば元気になるらしいですよ!冒険者たちが言ってました!」

「それってもしかして精力剤・・・?」

 ヴィアはその話しを聞いて、ボソッと呟き、何を考えたのか顔を赤くさせて俯いた。
 しかし、クリスはというと

「ジョイナ!早くそれを言う!たくさん捕まえてマスターに飲ませれば、襲ってくれるかも!ムフフ」

「天才ですか!クリスお姉様!その手がありました!キャー」

 クリスとジョイナは体をクネクネとさせ始めた。
 呆れた真人は3人を無視して一向に進まない話しを進めることにした。

「ザム殿。うちの者がすまん。それで話しを進めてもらっていいか?ギルドカードはこれで問題ないだろう?」

「は、はい。あとは私の魔力を流せば完了ですが・・・」

「ですが?何か問題が?」

「これは神器ですよね・・・?それに感じたことない神々しい魔力だったのですが、おそらく以前の時は、その魔力にギルドカードが耐えきれなくて消えたのでしょう。やはり人の魔道具では神は登録できないということですね」

 ザムは真人と話しながらアダマンタイト製のギルドカードを震える手に取り、魔力を流して登録を完了させた。

「そうなのか。普段は抑えてるんだがな」

「お連れ様方ももの凄い魔力でしたが、やはり真人様の魔力は別格でしたね」

「あのぅ・・・?」

 真人がザムと話しをしていると、そこにガイレンがおずおずと話しに入ってきた。

「どうしたんだ?ガイレン」

「ザムさん。ギルドカードにランクが入ってないんですが、どう判断すれば?」

「「あっ!」」

 真人とザムは揃って声をあげたが、すぐに真人はなんでもないように答えた。

「俺はFでもEでもいいぞ」

「真人様。ご冗談を!ギルドカードが神器という時点で最上位ランクでしょう。もしくは新しいランクを作るかですね。通常のギルドカードとは色も違うので、ちょうどいいかもしれませんね」

「SSSとかか?」

「いえ。Sランクもピンからキリまで強さがあり、どう判断していいかわかりません。ですので、さらに上のEXランクというのはどうでしょうか?」

「EXランクか・・・」

 それは奇しくもくしくも真人の今のダンジョンと同じランクであった。
 真人は少し考えるそぶりをして、滅多に見ることのなくなったステータスを確認した。


 迷宮魔神めいきゅうまじん(???) EXランクダンジョン
 
 称号  転生者、ダンジョンマスター(第一核)、魔の森の支配者、精霊の守護者、魔神、世界を導く者
 
 スキル  創造魔法(パッシブ/アクティブ)
 
 固有スキル  創造魔法、言語理解、迷宮掌握、生活魔法、人化


 以前から特に変わったところもなく、今回も称号のところにEXランク冒険者が追加されるだけだろう。

「真人様?いかがなさいましたか?」

「いや。なんでもない。ザム殿。それでお願いしてもいいか?」

「承知しました。ギルドカードの方にはご自分でランクの記入をお願いできますか?ここでのギルドカードはガイレンが立ち会っていたため本日からでも使えますが、各国の冒険者ギルドで使用できるのは、通知が届くのに1ヶ月以上かかると思いますので、それだけはご理解ください」

「ああ。わかった」

「それでは私はこれで失礼します。何分なにぶん1ヶ月半近く本部を空けてるものですから、そろそろ呼び戻されるはずです。少し寄るところもありますし、そのあとに急いで帰路につきます。真人様。お会いできてよかったです。王都にお越しの際は本部にお寄りください。ガイレン。あとは頼んだぞ」

「わかりました。ザムさん。お気をつけてお帰りください!」

 ザムは立ち上がると、真人と握手を交わし、ガイレンとも握手をして部屋を退出しようとしたところで、何か思い出したのか振り返った。

「それともう一つありました。聖教国のウォル・ブランク枢機卿が、是非真人様にお会いしたいと申してました。機会があれば訪ねてみてください。それでは」

 そして俺は念願の冒険者になったのだった。
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