迷宮転生記

こなぴ

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第2章

第13話 精霊湖での休息

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 真人が冒険者登録をしようとし、ギルドカードが消えてから、3週間が経とうとしていた。
 街の散策もそこそこ終わり、真人たちは暇をもて余すようになった。
 もっともクリス、ヴィア、ジョイナの3人はアルにダンジョンへ戻るよう呼び出され、帰ってきた時には、げっそりとなっていたりと、忙しい日々を送っていたようだが。
 4人が宿の1階で朝食を取っていると、ジョイナが急に手を上げて言った。

「はいっ!はいっ!真人様!行きたいとこがあります!」

「なんだ?ジョイナ?どこに行きたいんだ?」

「みんなで精霊湖に行きましょう!」

「ジョイナ。精霊湖に行っても何もない」

「まぁまぁ、クリスお姉様。行けばわかりますよ」

「ああ。アレをするつもりねジョイナ」

「「???」」

 真人とクリスは顔を見合せ、首を傾げた。

「まぁ、することないし、行ってみるか」

「マスターがそう言うなら」

 4人は通りを歩き、屋台を物色しながら街の門から出た。
 真人は、ルンルン♪と踊り出しそうなジョイナを見ながら声をかけた。

「ジョイナ。精霊湖まで少し歩くが転移で行くか?」

「ダメです。真人様。転移なんて使いませんよ!こんな時間滅多にないんですから!それに途中でやることがありますし」

「そ、そうか。それもそうだな。急ぐ必要もないか」

 ジョイナとヴィアは先を歩き始めた。
 そして、魔の森の入口に着くと、いつの間にかバケツと土を掘り返す道具を手に持ったジョイナが言った。
 ヴィアも似たような物を持っている。

「真人様、クリスお姉様。歩いてて手頃な岩が埋まってたり、落ち葉が溜まってる所を見つけたら教えてください」

「「・・・?。わかった」」

 2人は頭に?が浮かびながら答えた。
 そしてクリスが30センチ程の岩を見つけた。

「ジョイナ。ここに岩がある」

「クリスお姉様。はい」

 ジョイナは手に持っていたバケツと土を掘り返す道具をクリスの近くに置いた。

「・・・?掘れってこと?」

「クリスお姉様!岩を退けてどけてからが勝負ですよ!一瞬ですからねっ!」

「勝負?一瞬?ジョイナ。岩を退ければいいの?」

「そうです。クリスお姉様。岩を退かしたらそいつらがいるので、ガシッ!と捕まえてバッ!とバケツに入れて下さい。逃げ足だけは早いんですよ!外に出すと動きが鈍くなるんですけどね」

「ディーネみたいなもんか。それなら任せて」

「・・・・・」

 真人は何をしようとしてるのか感づき、顔をしかめながら三歩ほど下がった。
 クリスは、岩に手をかけて岩を退かすと、サッと何か動いた気がしたが、手を伸ばした時にはいなくなっていた。

「えっ?いない?」

「あ~。クリスお姉様。逃げられましたね。一瞬って言ったのに」

「逃げた?ジョイナには見えた?」

「はい。見えましたよ。それにほら。ここにそいつらがいた穴がありますから」

「むっ?私には見えなかった。ホントにいた?」

「いましたよ。慣れれば結構簡単ですよ?」

「むぅ。次こそは捕まえる」

「真人様もやってみますか?」

「い、いや。俺は遠慮しておこう」

「そうですか。まぁ、ヴィアが向こうでたくさん取ってくれてるはずですから、取れなくても安心してください」

 しかし、クリスは三回、四回と挑戦するも、一向に捕まえることができなかった。
 しびれを切らしたクリスは、プルプルと震えだし、真人とジョイナは焦り始めた。

「お、おいっ。クリス。落ち着け!」

「ク、クリスお姉様!?」

 するとクリスは膨大な魔力を発し、地面に手をついた。
 真人とジョイナが気づいた時には、地面から10メートルほどの深さの、半円球のクレーターができていた。
 真人とジョイナは唖然としながら、そのクレーターをみていると、突然上空から影がさした。
 2人は不思議に思い、真上を見上げると、クレーターと同じ大きさと思われる土の塊が20メートル程上空に浮かんでいた。
 2人がポカーンと口を開けて立ち尽くしているとクリスが叫んだ。

「ジョイナ!バケツ!」

「えっ?」

「バケツ!早くしないと穴から出てくる!」

「えっ?えっ?」

 ジョイナが困惑していると、土の塊にある無数の穴からニョロニョロした生物が一匹、二匹と落下し始めた。
 真人とクリスは転移でその場から逃げだし、ジョイナはバケツを持って、落ちてくるニョロニョロした生物を捕まえようと、右往左往している。
 そして、ドバッと大量のニョロニョロした生物が落下してきた。
 ジョイナはなすすべもなくニョロニョロした生物の中に埋まり、絶叫が聞こえてきた。

「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!気持ち悪い~!あ、ああ?服の中に~!?真人様!クリスお姉様!助けて~!」

「・・・・・」

「マスター。大量に取れた」

 クリスは笑顔でグッと親指を立てた。
 しばらくして、絶叫を聞いて駆けつけたヴィアによって、ジョイナは助けだされた。
 真人は放心状態のジョイナを見ながら、ヴィアに問いかけた。

「ヴィア。これはミミズか?」

「みみず?真人様。これは魔物のロックワームの幼体ですよ?大きいのは20メートル以上になります。地上付近では光を嫌うのか、大きくならないですけど、ダンジョンや洞窟にいるのは大きくなっていきますよ。それに宝石や鉱物類を長年補食した変異種、ジュエリーワームやミスリルワームという珍しいのも存在しているらしいです」

「これがロックワームの幼体?そういえばドワーフ側のダンジョンにいた気がするな。ここにいて害はないのか?」

「魔の森の深層部なら大きいのがいるかもしれませんが、この辺にいるのは幼体ばかりですね。これだけ小さいと反ってかえって土を耕してくれるので、植物の育ちもいいはずですよ。私は落ち葉がある方で探してましたが、ジョイナの叫び声が聞こえて、バケツを投げ出したので逃げちゃいました」

「そ、そうか。こっちもあんだけ大量にいたのに、ジョイナが持ってるバケツに入ってる分以外は逃げ出してしまったな」

「これだけいれば十分ですよ。そんなことより見て下さい!真人様!じゃーん!」

「・・・卑猥な形。ヴィア。いくらマスターに相手されないからって・・・」

「クリス姉様!何考えてるですか!違いますよ!」

「こ、これはマ、マツタケ!?」

「まつたけ?真人様。これは甘い蜜が出る木の根元に生えるスイートマッシュですよ。匂いが甘いので間違いないです!当たり外れがあって苦い蜜が出る木だと味も匂いも苦くなるんです。ひどい時は毒性があるポイズンマッシュに変異してしまいますが」

「ふむ。興味深いな。何本か取れたか?」

「はい。10本取れました!」

「昼食の時にでも試してみるか」

「やった!久しぶりに真人様の料理が食べられる!」

「むっ!さすが野性児のヴィア。キラービーとアルゴンスパイダーの森で過ごしていただけはある」

「あ、あれは、私が右も左もわからない時にクリス姉様が転移で置いていっただけじゃないですか!三日三晩、彷徨ったんですよ!アル様が助けてくれなきゃどうなっていたか・・・」

「限りある物の中で生活するのも修行の一つ。それよりジョイナ。これからどうする?」

 ボーッと空を見ていたジョイナは、クリスに声をかけられハッとなった。

「クリスお姉様?あれ?私は夢を見ていたようです。体をニョロニョロと動く生物に囲まれて・・・」

「ジョイナ。それは夢じゃない」

「夢じゃない?クリスお姉様は何を言って・・・。へっ?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ジョイナは自分の手元にあるバケツを見ると叫び、また放心状態となった。

「「「・・・・・」」」

「と、とりあえず、クリス。お前はあの浮かんでる土を元の場所に戻せ」

「ん。わかった」

「ク、クリス姉様。どうやったらそんなことできるんですか!?」

「これは風魔法で球状に地面を切り取って、重力魔法で重さを無くして、転移魔法で上空に跳ばして、浮遊魔法であの位置に維持してる」

「転移魔法や浮遊魔法は聞いたことありますが、重力魔法ですか?」

「私もゼノとリムに教えてもらったからなんとなくしか説明できない。マスターならわかるかも」

「ふーむ。原理は難しいから説明できないが、簡単に言うと物体の重量を軽くしたり重くしたりする魔法と覚えておけばいい」

「なるほど!土の重量を軽くしたってことですね!私にも使えるでしょうか?」

「無理とは言わないが、これは闇属性にあたるからな。ヴィアには少し難しいかもしれん」

「そうですか・・・。残念です」

「まぁ、魔石に闇属性を付与することはできるぞ?収納魔法も闇属性だからな」

「ほんとですか!?真人様!何か作って下さい!」

「ふむ。今すぐは無理だが考えておこう」

「やったー!ありがとうございますっ!」

 ヴィアはジョイナの周りを跳び跳ねて喜んでいたところ、クリスが土の塊を戻しながら言った。

「マスター。ジョイナがバケツの中見ながらニヤニヤしてる」

 真人がジョイナの方を見ると、ジョイナは頬を緩ませてバケツの中を凝視していた。
 ジョイナは少し前に放心状態から戻っており、バケツの中で一瞬、キラッと光ったのに気づき、それを探すのに夢中で真人たちの話しは聞いていなかった。
 ジョイナはバケツの中を凝視していると、茶色のロックワームの幼体がウジャウジャしている中に、一匹だけ白銀色がいて、それを見つけると一人で呟いた。

「こ、これは、も、もしかして、幸運を呼ぶミスリルワーム!?でもこんな幼体の時から?変異種なのかな?ダンジョンで飼ったらもっと大きくなるかも?どちらにしろ見つけられたことだけでも幸運だよね。なんかいいことありそう♪ふふっ。真人様にも見せよっと」

 真人、クリス、ヴィアの3人がジョイナの様子見ていると、ジョイナはいきなり大量のロックワームの幼体がいるバケツの中に手を突っ込んだ。

「「「っ!?」」」

 3人はその行動に驚き、後ずさった。
 そして、ジョイナがバケツの中から手を引き抜くと、一匹の白銀の色をした20センチ程のロックワームを手に握っていた。

「真人様!見て下さいっ!あれっ?なんでそんな嫌そうな顔して離れてるんですか?」

「い、いや。なんでもないぞ。ん?そいつだけ色が違うな?」

「ジョイナ!それは、ま、まさかミ、ミスリルワーム!?」

「へぇ。それがミスリルワームなのか。暴れてるようだが大丈夫なのか?」

「ジョイナ。嫌がってる」

「えっ?そうですか?あっ!?」

 ミスリルワームは暴れて、ジョイナの手から抜け出してしまった。

「あっ!あーっ!待って!・・・?」

 ところが、抜け出したミスリルワームは、土の中に潜ると思いきや地面を這いずり、なぜかクリスの足元へ寄っていった。

「なんで、クリスお姉様のところに?」

「そうか。お前たちは知らなかったな。クリスはミスリルを取り込んで変異した特殊個体なんだ。その聖属性の魔力に反応してるんだろう」

「えっ!?そうだったんですか?」

「初めて知りました」

「マスター。こいつがこのまま生き残る可能性は?」

「うーん。どこに移動するかにもよるが、1割か2割ってとこじゃないか?ミスリルを食べて育つんだろ?この辺にミスリルがあるとも思えんし。クリスに寄ってくるってことは、腹が減ってるんじゃないか?」

「そう」

 クリスは指輪の空間収納から小さなミスリルの欠片をいくつか取り出したが、それを見た真人が止めた。
「クリス。待て。この場でミスリルの与えるのは構わんが、そのあとはどうするつもりだ?ここにそいつが生きていける環境があると思うか?自然の摂理に逆らうなら、最後まで責任をもて」

「マスター。わかった。イルムドのダンジョンで飼う。欠片ならたくさんルタの鉱山でとれるし。大きくなったら開拓でも荷運びでも仕事させる」

「よし。それならいいぞ」

 クリスはしゃがみこみ、足元にいたミスリルワームのそばにミスリルの欠片をいくつか置くと、ミスリルワームは口を大きく開けて次々と欠片を飲み込んでいった。

「ミュウ♪ミュウ♪」

 元気になったミスリルワームは、クリスの周りをぐるぐると回った。

「ふふっ。ちょっと可愛いかも。ん。お前の名前はギンと名付けよう」

 クリスが手のひらにミスリルワームを載せて、名前をつけると一瞬だけ光り、嬉しそうに体をくねらせた。

「いいなぁ~。クリスお姉様。せっかく私が捕まえたのに」

「ジョイナにはシロとクロがいるじゃん。私はドラゴンが欲しい!」

「え~?ドラゴン?でかすぎるよ。可愛くないし」

「ドラゴンかっこいいじゃん!空飛べるし!」

「マスター。ヴィアが竜人ドラゴニュートつがいになりたいって。これで一人ライバルが減った」

「クリス姉様!そんなこと言ってません!私は真人様一筋ですっ!」

 真人は言い争いを始めたクリスとヴィアを無視して、ジョイナに問いかけた。

「ところでジョイナ。精霊湖で何するんだ?」

「そうでした。早く行きましょう」

 2人の言い争いにジョイナは巻き込まれ、3人は騒ぎながら先に進み、その様子を微笑ましく見ながら真人はあとを追った。
 4人が精霊湖に着くと、ジョイナはキョロキョロと周りを見渡して、魔の森から流れてきている小さい川の流れ込みがある場所へと向かった。

「ジョイナ。何する?飛び込む?押せばいい?」

 真人はその場所に向かった時点でピンときたのだが、クリスはわからないらしく、ジョイナをグイグイと湖の方へ追いやっていった。
 ギンも一緒になってジョイナを押していた。

「ク、クリスお姉様。違います!押さないでください!ほら!ギンまで真似してるじゃないですか!」

 ジョイナは、クリスが本気で湖へと落とそうとしてるのではないかと不安になり焦り始めた。
 真人はそれを横目に見ながらヴィアに声をかけた。

「なぁヴィア?釣りでもするのか?」

「よくわかりましたね。真人様。アル様たちが精霊湖から離れたため、アル様たちの魔力は失くなりましたけど、魔の森からの魔力は少し流れてきてるみたいで、大きくて美味しいのが釣れるみたいです」

「それは楽しみだな」

「はいっ!」

 真人とヴィアが話してるとジョイナが叫んだ。

「落ちる!クリスお姉様!落ちるから!あっ!?あーーーーーーっ!」

 クリスは本当にジョイナを落としたようだ。
 しかし、高さ1メートル程の岸から落ちたジョイナは、水面に着水する瞬間に黒い渦にのみ込まれた。

「なにっ!?」

「えっ?ジョイナが黒い中に消えた?」

 真人とヴィアが驚いていると、今度は真人の目の前の1メートル程の高さに黒い渦が現れ、そこからジョイナが落ちてきた。

「いたっ!あれ?水じゃない?」

「あっ。ジョイナが黒い中から出てきた」

「なんだと!?これは転移?いや違うな。空間と空間を繋いだ?」

「ん。新しい魔法。ゲート。成功した」

「クリスお姉様!私で実験しないでください!びっくりして漏らすとこだったじゃないですか!」

「漏らしても問題ない。その時は湖にそのまま落とすからバレない」

「そういう問題じゃないです!」

 ジョイナはプンプンと怒りながらクリスに勢いよく詰め寄ろうとすると、ジョイナの前にまた黒い渦が現れ、のみ込まれた。
 今度はヴィアの目の前に現れ、勢いがついたままのジョイナは、ヴィアにぶつかっていった。

「「いったーっ!」」

「ふむ。魔法陣式のワープと違って、見える範囲だけってとこだな。転移の簡易版ってとこか」

「正解。さすがマスター」

 ジョイナは額をさすりながら言った。

「うー。もういいです。さっさと始めましょう。道具は私が持ってますので。じゃーん!」

 そして、腕輪の空間収納から、2メートル程の黒い棒を3本取り出した。
 手元は3センチ程だが、先にかけて細くなっていっている。
 どうやら釣り竿のようだ。
 真人は、ジョイナから渡された釣り竿を持ちながら言った。

「これは魔鉄?重いんじゃないか?まぁ、身体強化すれば問題ないが・・・。それにリールと糸は?」

 ジョイナは人差し指を立て左右に振り、得意気な顔になった。

「チッ、チッ、チッ!真人様。これはルタ様と作った特別製なんですよ!魔力を流すと軽くなるんです!りーる?が何かわかりませんが、糸も魔力を流せば出てきて、長さも自由自在です。あとは、その糸に、この魔鉄製の針をつければ完璧です!」

「なるほどな。この魔力の糸を水に垂らして、電撃を流せば一網打尽ってわけか」

「なるほど。そういう手もあったか。さっきのロックワームを捕まえた時みたいにしようと思ってたのに」

「へっ?ま、真人様!ク、クリスお姉様!それは禁止ですっ!それは釣りではなく漁なので禁止にします!」

「ははっ。冗談だ」

「・・・・・」

 ジョイナは黙っているクリスを見て不安になり、再度釘を刺した。

「クリスお姉様!ダメですからね!そ!し!て!私の釣り竿は、さらに特別製のっ!じゃーん!」

 ジョイナは腕輪の空間収納から、1本の白銀の釣り竿を、鼻息を荒くしながら出した。

「出た!ジョイナの自慢の釣り竿」

「それはミスリルで作ったのか?目立ちすぎだろう」

「ジョイナ。ミスリルの無駄遣い」

「フフン!何とでも言いなさい!これがあれば百人力!」

 そこにクリスの足元からギンが顔を覗かせた。

「ミュウ♪ミュウ♪」

「ああっ!?ギン!かじらないでっ!」

「ん。ギン。やっちゃえ」

 ジョイナは、ギンに竿の手元を齧られて、少し短くなったのを悲しそう顔で見ながら、腕輪にしまい、渋々と魔鉄製の釣り竿を1本取り出した。

「ジョイナ。この針にロックワームを刺せばいいのか?ウキはないのか?」

「うき?真人様。ロックワームの尻尾の方に針を刺して投げれば勝手に泳いでくれますよ?あとはロックワームを信じるだけです」

「なるほど。生き餌ってヤツか」

 4人は針にロックワームをつけ、それぞれの方向に投げた。
 ヴィアとジョイナは10メートル程、真人が15メートル程投げ、クリスは湖の真ん中、200メートル程まで投げた。

「クリス。投げすぎじゃないか?」

「ん。マスター。真ん中の方が水深があると思って。それに探知に大きい反応があるから期待できる」

「探知を使ったのか。思ってる以上に水の中の魚の動きは素早いから、すぐいなくなるぞ?大丈夫か?」

「釣れなかったら次の手を考える」

 4人が竿先をジッと見て待っていると、一番最初に糸が引っ張られたのは・・・真人だった。

「おっ!きたぞ!」

「真人様!合わせてくださいっ!」

 真人は竿を振り上げ、合わせると竿先がしなった。

「お、おおっ!?これは中々、引・・・かないな。思ったより普通だ」

 真人は魔力を制御して糸を手繰り寄せると、ジョイナがかなりの大きさの網を出して掬った。
 釣れたのは、50センチ程の鱗が岩のような魚だった。
 しかし、よく見ると、ロックワーム食いついたのではなく、ロックワーム魚の尻尾に食いついていた。

「あ~。真人様。残念でしたね。こいつはロックフィッシュと言って、鱗も身も硬くて食べれません。ロックワームを針から外して、そのまま食べさせてください」

 するとロックワームは、ロックフィッシュを少しずつのみ込んでいき、ゲプッとなりながら満足そうに土の中へと潜っていった。
 真人はそれを見て首を傾げ、ヴィアに声をかけることにした。

「・・・なぁ。ヴィア?俺が思っていた釣りと違うんだが・・・」

「えっ?なにがですか?ロックフィッシュのことですか?」

「いや。ロックワームを餌にして釣るんだと思ってたんだが・・・」

「あ~。ロックワームはロックフィッシュが大好物みたいですからね。でも大丈夫ですよ。他のはちゃんとロックワームを追いかけてきますから。それにロックフィッシュを追いかけるロックワームに反応するんで、逆に言えば、ロックフィッシュがいないとロックワームも元気に泳がないってことです」

「そういうことか。まぁ、気長に待つか」

 次に竿がしなったのはジョイナだった。

「キターッ!」

 ジョイナは竿を振り上げて糸を手繰り寄せ始めた。

「この全く引かない感じ、ただ重いだけ!これは本命っぽいですっ!」

「えっ?引かない?ゴミなんじゃないのかそれ?」

「何言ってるですか!真人様!きっと本命ですよ!網をお願いしますっ!」

「お、おう」

 そして、水面に姿を現し、網に入ったのは・・・長い8本脚、大きな2本のハサミを持ち、背中には細いトゲだらけの黒い球体を乗せている、1メートル程のカニ?だった・・・。
 真人が眉間にしわを寄せて言った。

「ジョイナ。これが本命?たしかにでかいが、これはカニ?ウニ?どっちなんだ?」

「真人様。カニ?ウニ?いいえ。こいつはカウニフィッシュですよ。下半分は白身で、トゲがある方の中身は甘くて美味しいんですよ!」

「カウニ・・・?なんかよくわからん生物だな・・・。やっぱり俺が思っていた釣りと違うようだ。それに、ロックワームはどこいったんだ?こいつは口じゃなくて体に針が刺さってるんだが・・・?」

「ロックワームは普通に尻尾を切って逃げますよ?カウニフィッシュよりロックワームの方が動きが早いので。そしてカウニフィッシュの脚をすり抜ける時に糸が引っ張られるので、そこで合わせればカウニフィッシュの体に針が刺さって、同時にロックワームは尻尾を切って逃げるわけです」

「よくロックワームがカウニフィッシュの脚に逃げるってわかるな」

「うーん。ロックワームの本能じゃないですか?脚が長いからハサミが届かないとわかってるんだと思いますよ?」

「そうなのか。まぁ、これが引きを楽しむものじゃないことはわかった」

 ジョイナは真人の言葉に首を傾げた。

「食べること以外に楽しむことがあるんですか?」

「いや。なんでもない。食べることが一番の楽しみだな」

 しばらくして、真人とヴィアも一匹ずつカウニフィッシュを釣りあげた。
 クリスはというと、先程からロックフィッシュばかり釣り上げており、地面にはロックワームが潜った穴がたくさん開いていた。
 そして、案の定クリスがしびれを切らし始めようとしていた。

「ま、真人様!クリスお姉様がまた何かやらかしそうです!」

「わ、わかった。とりあえず説得しよう」

 焦った真人とジョイナは釣り竿を置き、クリスの元へと向かった。
 ヴィアは大量のロックワームを捕獲した経緯を知らないため、2人の行動を不思議そうに見ていた。
 クリスに近づいた2人は

「クリス。調子はどうだ?」

「見ればわかる。ロックフィッシュしか釣れない」

 クリスは大分ご機嫌ナナメのようだ。

「す、すまん。やっぱりもっと手前に投げればいいんじゃないか?」

「クリスお姉様。カウニフィッシュは底に近いところにいるので、真ん中だと深すぎて、ロックワームの方が先にロックフィッシュを見つけてるんじゃないですか?」

「なるほど。いいことを聞いた」

 クリスは糸を回収し始めた。
 どうやら真ん中は諦めたようだと、ホッとなっていた2人だったが、なぜか糸を全部回収してしまった。
 2人は顔を見合せていると、クリスはなにやら針をいじっているようだ。
 不思議に思い、真人がクリスの手元を覗きこむと唖然となった。

「な、なぁ?クリス?な、何してるんだ?」

「ん。ロックワームを4匹つければ、潜る速さも4倍。それにもっと元気よくするために、私の魔力を少し与えた」

 クリスは上機嫌になり、また真ん中へとロックワームを投げた。

「「・・・・・」」

 しばらくの間、2人が声を出せずにいると、クリスが焦り出した。

「マ、マスター。す、すごい引っ張ってる。ど、どど、どうしよう」

「クリス。落ち着け。もう少し待って合わせるんだ」

 そして、ついにその時がきた。
 クリスが竿を振り上げて、思いきり合わせると、勢いよく糸が引っ張られ、クリスは空中へと投げ出された。

「はっ?ク、クリス!?」

「えっ?ク、クリスお姉様っ!」

 2人が声を上げるも、クリスは平然とした顔だ。

「むっ!魚のくせに中々やる。だが甘いっ!」

 クリスはそう叫ぶと、結界で足場を作り、空中で竿を構え、糸に膨大な魔力を注ぎ、思いきっり引っ張った。
 しかし、クリスの膨大な魔力に魔鉄の竿は、耐えられず砕け散り、力が加わっていた糸は、何かを引っ張った状態からフニャリと垂れてしまった。
 だが、クリスが思いっきり引っ張ったせいか、湖の真ん中からはザバァー!と激しい濁音が聞こえ、巨大な何かがクリスたちの方向に飛んできた。
 そこに、合流してきたヴィアが言った。

「真人様、ジョイナ。クリス姉様がなんか騒いでたけど何か釣れた?」

 真人とジョイナはヴィアの方を見ずに、湖の方を見て、目を細めながら言った。

「あ、ああ。現在進行形でな・・・。しかしあれは・・・」

「ま、真人様。あ、あれは何でしょうか?キラキラ反射してよく見えないのですが・・・」

 ヴィアは2人の様子を不思議に思いながら、ようやく湖の方に目を向けた。

「?何かいるんですか?えっ?な、なな、何か飛んでくる!?何ですか!?あのでかいの!?シーサーペント並みですよ!?」

 そこに、クリスが地面に降りてきて言った。

「ジョイナ。ごめん。竿が砕けた。次こそは釣る!」

「クリスお姉様!それはいいですから!あの飛んでくるのをなんとかして下さい!」

「なんでそんな焦ってる?私の計算じゃ失速して、ここまで届かないと思うけど?それとも捕まえる?輪切り?生け捕り?」

「うーん。届かないならそのままでいいんじゃないか?」

「真人様!私は生け捕りがいいと思います!食べれるかもしれません!」

「私は頭だけ落としてギルドに買い取ってもらえばいいと思います!」

「ふむ。ジョイナは食、ヴィアは金か。クリスはどう思う?」

「あのミスリルワームはギンの親かもしれないから私はパス」

「そうだな。その可能性もあるからやめとくか」

「ミュウ!ミュウ!」

「「えっ!?ミスリルワーム!?」」

 クリスはギンを手のひらに載せ、真人の方へと近づくと結界を発動させた。
 ヴィアとジョイナは、ミスリルワームを確認しようと湖へと近づこうとしていたが、気づいた時には岸から10メートル程のところに、激しい轟音とともに着水していた。
 そして2人は・・・水しぶきでずぶ濡れになった。
 真人、クリス、ギンは結界に覆われていたため、濡れることなくその様子を眺めていた。
 2人はずぶ濡れになりながら真人たちのところへトボトボ歩いてきた。

「クリス姉様!」

「クリスお姉様!」

「「わかってたなら言ってくださいよっ!」」

「何言ってる。注意力がなさすぎる。それに2人共。ずぶ濡れになるのなんていつものこと。今日はまだマシな方」

「「た、たしかにそうですが・・・」」

「まぁ、3人共無事だったんだ。それでよしとしよう。そんなことより昼食にするか」

「マスター。お腹空いた」

「真人様!それでしたら向こうに花畑があるのでそっちに行きましょう!」

「真人様?それにしてもあの巨大なミスリルワームはなんでこの湖にいたのでしょう?」

「さぁな。ヴィア。もしかしたら湖にミスリルでも埋まってるのかもな。クリスがロックワームに魔力を与えてたから、それに反応したんじゃないか?なんにせよ、襲ってこないなら大人しいヤツだったんだろう。悪いことをしたな」

「でもここの精霊湖とダンジョンの精霊湖は繋がってるんですよね?もしかしたらディーネ様が飼ってるんじゃないですか?」

「あ~。それはあり得るな。今度聞いてみるか」

「そうですね」

 ◇◇◇
 その頃、ダンジョンでは、ディーネが毎日の日課であるクリスの家の池にいる鯉、クリス、アル、ルタ、サラに餌をあげ終わり、精霊湖にやってきたところだ。
 ディーネは精霊湖に近づくと叫んだ。

「リル~!ご飯だよ~!リル~?あれ~?おかしいな~。上の精霊湖で寝てるのかな~?」

 すると、湖の水面が盛り上がり、勢いよく白銀色をした生物が現れた。

「もう!リル!どこ行ってたの!うん?どうしたの?そんなに震えて」

 そこに現れたのは、30メートルはあるミスリルワームだった。
 精霊湖の水が透き通っているため、沈んでいる尻尾の先まで綺麗に輝いてるのが見える。

「ギャウ!ギャウギャウギャウ!ギャウギャウ!」

「えっ?何?上で寝てたら美味しそうな魔力が目の前を通って、寝ぼけて食べたら釣り上げられた?あはは!そんなわけないじゃん!リルを釣り上げられヤツがいるなら化け物だよ!」

「ギャウ!ギャウ!」

「えっ?化け物が4人いた?たしかにリルは、手のひらぐらいの小さい頃に拾って、それから水の中で育てたから、目は退化して魔力で探知してるみたいだけど・・・。水の中しかわかんないんでしょ?」

「ギャウギャウ!ギャウ!ギャウギャウ!」

「え~?空中で探知したから間違いない?200メートルは空中を飛ばされたって?リルがぁ?」

「ギャウ!ギャウギャウギャウ!」

「1人は空に浮かんでた?魔王みたいだった?私じゃ魔王が何かわかんないよ。まぁ悪い存在だったら真人様たちが倒してくれるから大丈夫だよリル」

「ギャウ?」

「うん。ホント。それじゃご飯にしよ~リル」

「ギャウ♪」

 ディーネは、どこからかルタの鉱山で取れた、使い道のない小さなミスリルの欠片を大量に取り出してリルに与えた。
 リルは、ミスリルを食べ終わると、上機嫌で湖の底に沈んでいった。
 そして、地上の精霊湖で起こった出来事は、ヴィアが自警団に頼み、後日ディーネへ伝わった。
 そのことにより、遠くない未来で4人の魔王たちと相見えた時のリルは、終始震えていたのだった。
 そして、クリスは不満そうにしてたが、ギンは、経験のあるディーネの手によって育てられ、ギンがカウニフィッシュを繁殖させていくのであった。

 ◇◇◇
 一向は昼食を取ろうと、ジョイナの案内で花畑を訪れた。

「へー。こんな場所があったんだな」

「はい。アル様たちが以前、薬草を栽培していた場所だと言っていました」

「そうなのか。ふむ。では花畑は避けて、向こうで調理するとしよう。クリスは4人が座れる椅子とテーブル、ヴィアは調理で使う大きめの作業台、ジョイナは解体して使わないのを埋める穴を作るように。それが終わったら解体を手伝ってくれ」

「わかった」

「「わかりましたっ!」」

「さて。何を作るか・・・。スイートマッシュはデザートか?カウニフィッシュは・・・。うーん。どんな味か想像がつかんから何も思い浮かばん。デザートはあとでいいとして、とりあえずカウニフィッシュを解体するか」

 真人は1匹のカウニフィッシュを取り出した。
 釣った瞬間に魔石を取ったので、新鮮だ。

「しかし、カニの甲羅にウニが乗ってるとしか思えん。元々は別個体だったんじゃないか?」

「マスター。終わった。何すればいい?」

「クリス。ちょうどいいところにきた。こいつの背中に乗っかってる部分を切り離してくれ」

「任せて」

 クリスはウィンドカッターを使い、背中についていたトゲだらけの黒い球体を2つ切り落とした。

「真人様。私たちも終わりました」

「ヴィアとジョイナは、あの黒い球体の中身を取り出してくれるか?トゲがあるから怪我しないようにな。クリスはこっちを手伝ってくれ」

「わかった」

「「わかりました!」」

「見た目はカニだからな。要領はカニでいいとして、問題は味もカニなのかだな。クリス。脚を1本落としてくれ」

 クリスから切り落とした脚を受け取った真人は、匂いはカニだなと呟き、簡単なカニ料理にすることにした。

「さすがに1匹は食べきれないだろうから、脚5本だけで十分だな。残りは保管して、アルたちにも食べさせてやろう。こっちがカニならやはり向こうはウニだろうな。生食はまずいし、なんにするかな」

 しかし、ここで想定外のことがおきた。

「真人様。中身が出せました」

「おう。ごくろう。あ、あれっ!?ウニじゃない!?」

 トゲの中から出されていたのは、なんと、クリ?だった。

「真人様。これはどうしますか?」

「う、うん?ジョイナはこの中身を食べたことがあるんだったな?」

「はい。甘くておいしいですよ!」

「甘いのか・・・デザートにでもするか?」
「はいっ!楽しみにしてますっ!」

「まぁ、時間がかからない簡単なヤツだけどな」

 しばらくして出来上がったのは、カウニフィッシュの脚を使った鍋、カウニフィッシュのグラタン、クレープ生地を何層も重ね、間にクリ?をペースト状にして生クリーム加えたのをたっぷり塗り、上にはダンジョン産のリンゴ、マンゴー、オレンジ、イチゴにスイートマッシュを乾燥させ粉末状にしてまぶしたミルクレープだ。
 冬に食べそうな物になってしまったが、暑い時期でもないので問題ないだろう。
 4人は席に着き手を合わせ、いただきますと言うと、クリス、ヴィア、ジョイナの目は鍋へと向かった。
 余程気になるのかチラチラと真人の方を見ている。

「マスター。これどうやって食べるの?」

「殻が割ってあって身がぶつ切りにしてあるだろ?それを鍋にくぐらせて、ダンジョンで作ったポン酢やごまダレをつけて食べるんだ。あとはマヨネーズとかも合うかもな」

 本来のカニなら身が縦に解れるほぐれるはずだが、このカウニフィッシュは身も味も、魚のすり身のような感じだった。
 真人はつみれのような・・・、かまぼこのような・・・物だなと思い鍋にすることにしたのだ。
 出汁は昆布で取り、少し醤油等を加え、カウニフィッシュから取れたミソを追加して仕上げた。
 3人は鍋につみれをくぐらせて各々の好きなタレにつけて食べた。
 クリスはごまダレ、ヴィアはポン酢、ジョイナはもちろんマイマヨネーズ持参だ。

「お、おいしい」

「こ、これはおいしいですね。この鍋の味はなんでしょう?タレがなくても味が効いてます」

「おいしい!マヨネーズに合う!」

「ははっ。そうか。よかったな。寒い時期にコタツの中で食べるとさらにおいしいかもな。ヴィア。鍋の味が気になるのか?教えてやろうか?」

 真人はつみれをつつきながら、ニヤリとしてヴィアを見た。

「なんでそんな顔して言うんですか!気になるじゃないですか!」

「知りたいような知りたくないような・・・」

「真人様!教えてください。私も今度作って見ます」

「そうかそんなに知りたいか。この鍋の味はな・・・。カウニフィッシュの・・・。脳ミソだ!」

「「の、のうみそ!?」」

「うっ!」

「冗談だ。肝膵臓きもすいぞうって器官だ」

「真人様。難しいこと言われてもわかりません」

「うーん。マスター。のうみそってどこ?」

「あ、あれっ?知らないのか!なんで驚いたんだ!?」

「真人様の雰囲気ですかね?」

「マスター。きもすいぞうってなに?」

「・・・・・」

「そ、そうか。ヴィア。気を遣ってくれてありがとな・・・。クリス。脳ミソは頭の中に詰まってるんだ。肝膵臓は・・・まぁ消化する器官だな。うん?ジョイナ?お、おいっ!ジョイナ!大丈夫か!?」

 真人は、ジョイナが静かなことに気づき、ジョイナを見ると、顔を青くさせていた。
 どうやら喉に詰まらせたようだ。

「ジョイナ。はい。水」

「ジョイナ。がっつき過ぎ」

 ヴィアに水を差し出されたジョイナはひったくるように受け取り、一気に飲んだ。

「はーっ!死ぬかと思った・・・。真人様が脳ミソなんて言うからびっくりしましたよっ!」

「ん?ジョイナは知ってるんだな」

「これでも魔術師のはしくれですから。昔、そういうのを研究してる組織の討伐依頼なんかも受けたことありますし」

「それはすまん。まぁ、飯の時にする話しじゃないな。早く食べよう」

 クリスたちの方を見ると、カウニフィッシュのグラタンに手をつけ始めていた。

「こっちもおいしいですね」

「ん。チーズがのびる」

「中にも火が通ってる?」

 3人はおいしそうに頬張り、真人もそれをみながらカウニフィッシュのグラタンを食べ終えた。
 すると、ジョイナが不思議そうな顔をして言った。

「真人様。これはどうやって作ったんですか?コンロの魔道具じゃできないですよね?」

「そうだな。ジョイナ。これは上下で熱を加えるオーブンの魔道具で作ったからな。普通に熱すると時間がかかるから、今回は空間収納を利用したんだ」

「おーぶんですか?私にも使えますか?」

「真人様。空間収納でどうやったんですか?」

「オーブンは出さない予定だ。だが、使い方が簡単なグリルというオーブンと似たのを出すつもりだ。ヴィア。俺の空間は3種類あってな。一つは完全に時間停止、一つは時間調整、一つは生き物用になっていて、今回使ったのは時間調整だな。本来なら時間をかけて調理する物を時間を加速させて短時間で仕上げたんだ」

「オーブンとグリルは何が違うんですか?」

「ほへー。真人様。すごいです!私たちの腕輪の収納は時間停止が付与されてますよね?他のを付与することも出来るんですか?」

「ふむ。どちらも加熱方法には変わりはないんだが、オーブンは温度調整できて、肉の塊なんかの中心にまで火を通すことができる。グリルは一定温度で、短時間で薄切りした肉を焼いたりする時だな。ヴィア。時間停止以外の収納はおそらく付与できない。というより機能が複雑になれば魔石が耐えられない。と思う。試してみないとわからないが、転移魔法を腕輪に付与した時と同じだ。すまん」

「グリルだけでも十分ですっ!楽しみにしときますっ!」

「なるほど。そんなっ!謝らないでください!私たちはこの腕輪があるだけでも十分ですからっ!ただ、生き物用があれば・・・ドラゴンが飼えるかな~と!」

「ヴィア!まだ言ってるの!無理無理!あんなでかいの!」

「わからないでしょ!ジョイナ!小さいのがいるかもしれないじゃん!」

「なに?ギンみたいな小さなドラゴンがいるって?」

「それは極端過ぎるでしょ!もっとこう・・・私1人乗せれるぐらいの大きさの・・・」

「あはは!そんなのただのでかいトカゲじゃん!」

「マスター。ヴィアはドラゴンに乗って1人で飛びたいみたいだから、竜人の国ドラゴニアに置いていこう」

「そうだな~。ドラゴニアかぁ~。行ってみるか」

「えっ!?」

「ん。シルフィスのあとは竜人の国に決定!ヴィアの嫁入り先」

「ヴィア・・・。元気でね・・・」

「そ、そんな・・・。真人様・・・。冗談ですよね・・・?」

「ん?なんでそんなに悲しんでるんだ?俺は全部の国を回るつもりだぞ?」

「ぷっ!マスター。言うのが早い」

「あはは!ヴィアの焦った顔!」

「もう!二人共!からかったな!こうしてやる!」

 ヴィアは、からかわれたことに地団駄を踏み、テーブルの上にあった2人のミルクレープを腕輪に収納した。

「「あっ!?あーっ!」」

「ふんっ!真人様。食べましょう」

 2人はヴィアにすがりつき、目を血走らせながら必死になって許しを乞うた。

「ヴィア!ごめんなさい!私も食べたい!」

「ヴィア~。ごめんて~。早く返して~」

 ヴィアはミルクレープを口に運び、足元にすがりついてる2人をチラッと見ながら言った。

「真人様。これは味も食感も最高ですね!私は一番好きかもしれません!」

「「ヴィア~!」」

 するとヴィアは、2人だけに聞こえるように呟いた。

「しょうがないですね。1日デート券で手を打ちましょう」

「むぅ。ヴィアの鬼っ!」

「うっ。うーん。しょうがないかぁ~」

 ヴィアはニンマリとした笑顔になり、2人の分のミルクレープを収納から取り出した。
 クリスとジョイナはふところに抱え込むようにミルクレープを受け取ると、ヴィアに背を向けて食べ始め、その様子を真人は苦笑しながら眺めていた。
 クリスとジョイナは、ヴィアに取られまいと急いで食べ終わり、真人へとつめ寄った。

「マスター!マスター!おいしかった。もっと作って」

「真人様!私も食べたいです!」

「そ、そうか。気に入ったならよかった。また今度な。だがダンジョンの食堂では食べれるようにしておこう」

 真人の言葉を聞いたクリス、ヴィア、ジョイナの3人は、無言で立ち上がり、ガツッと拳を突き合わた。
 そして、顔を見合わせて頷き叫んだ。

「ディーネには黙っておこう!」

「「ディーネ様には黙っていましょう!」」

 その無駄な叫びに真人は呆れながら、3人に声をかけた。

「そろそろ片付けて帰るか」

「マスター。待って。ギンを3号に預けてくる」

 クリスはそう言うと、転移を使い消え、そしてすぐに戻ってきた。

「大丈夫そうだったか?」

「ん。ダンジョンの魔力の方が好きみたい。しばらくは3号と一緒に行動させる」

「そうか。さっさと片付けを終わらせよう。歩いて帰るのも時間がかかるだろうし」

「マスターは歩いて帰るの?」

「真人様?転移で帰りましょうよ」

「真人様。疲れてないんですか?」

「えっ?そうなのか?たしかに疲れたが、それなら行きも転移でよかったんじゃないか?」

「マスター。行きは良い良い帰りは怖いって言う」

「そうですよ。真人様。クリス姉様の言う通りです」

「真人様。乙女に歩かせるつもりですか?」

「だ、誰にそんな言葉教わったんだ?」

「もちろんゼノ様です」

「ゼノ様は勇者にこき使われたと言ってました」

「ん。ゼノも苦労した」

 真人は口元をヒクヒクさせながら、心の中で叫んだ。
 (ゼノめ!変な入れ知恵ばっかりしやがって!)
 そして4人は門の近くの誰もいない所に転移し、宿へと戻り、その日は相当疲れていたらしく、翌日の昼頃まで惰眠しているのだった・・・。

 ◇◇◇
 これは、あとからわかったことだが、カウニフィッシュの上と下は元々別個体で、お互いが幼いうちに、下側の方は頭上の敵から身を守るために背中に乗せ、上側は移動手段と餌を得るため背中に乗るようで、共存し、成長していく段階で魔石も一つになるようだ。
 そして上側は、生きてる時の中身は柔らかいそうで、味も甘くはないそうだ。魔石を抜かれ、死んだことにより、中身は硬くなり甘くなると言う。
 その噂を宿の主人から聞いた真人は、生きた状態のカウニフィッシュをもう一度釣り、上側の中身を取り出して食べたところ、なんとウニだったのだ。
 下側の方も生きている時に中身を取り出したところ、真人の知っているカニの身のように縦に割くことができ、味もカニそのものだった。
 生きてる時は下がカニ、上がウニ、死んだ時は下が魚のすり身、上がクリという、このなんとも不思議な生物だが、真人は4種類の味が楽しめるとお得な気持ちになり、ダンジョンで飼うことに決めたのだった。



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