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MMM(トリプルエム)の文化祭

妖精西田と早瀬真理のマジックショー

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 10月もそろそろ暮れになってきたような週末のある日、俺たちの学校は1年の学校行事最大のイベントである文化祭を開催していた。
 俺は望月と一緒に文化祭を楽しむことにしたのだった。
 昼飯にはちょっとはやいくらいの時間に立花のクラスによった俺たちは立花の手づくりお好み焼きを存分に楽しむことができた。
 そして冷やかしついでに我らがコスプレ衣装レンタル屋に寄ってみることにした。
 教室で接客をしていた西田のくだらん一言によって望月はテキトーに選んだであろう服を持ってベニヤ板で囲んだだけの雑な作りの簡易更衣室そそくさと逃げるように向かっていった。
「望月さんって何の服選んだんだ? エロい衣装でも着てくれたら俺は歓喜の涙にむせび泣くだろうぜ。はやく着替え終わんねぇかなぁ~」
 自らコスプレでエロい衣装を選ぶやつはいねえだろうよ。とは言っても、アニメのコスプレでもしない限りの話だが。
「そんなエロい衣装なんて持ってきてなかっただろ? って言うか俺はエロい衣装エロい衣装って連呼したくないんだが……」
「いいじゃねえか~っ! お前も男だろ? もっと堂々とでかい声で下ネタを叫べるようなやつにならねえとな! 」
 そんなやつになる気はないし、なりたくもない。近隣のご迷惑になるだけだろう。
 西田め。どうせならこの際逮捕されちまえ。お前の考えはいつか痴漢とか強姦とかに発展しそうで怖い。今のうちに逮捕されちまった方が世の中の女性たちは安心して夜も思う存分に眠れるだろうさ。
 西田とのくだらん会話を数分ほど続けると、簡易更衣室からやっと望月が出てきた。
 待っている身になって考えてみると何もせずに数分というのはやたらと長く感じる。
「お待たせーっ! 」
 望月が着ていた衣装は、言うまでもなく西田のエロいコスプレではなく健全な衣装だった。
 頭に赤いバンダナを巻いたその姿は、頭だけ見るとラーメン屋の店主みたいだがまるっきり海賊の衣装だ。
 腰についてるホルダーにはリボルバーと思われる銃がいくつか入っていて、望月が歩く度にガチャガチャと音をたててやかましい。だが細部まで細かく見ていると海賊になるために色々とミックスしているようだ。
 腰の銃のホルダーやブーツは明らかに西部劇風の衣装だし、背中に背負っている大剣はおそらく勇者のコスプレ用小道具なのだろう。頭に巻いてる赤いバンダナに至っては西田が調理実習の時に持ってきていた無地のやつだ。
 大満足そうな笑顔を輝かせた望月は腰のホルダーから銃を一丁引き抜いて、俺に銃口を向けてきた。
「西田くん! マスター! キサマら程度の人間がこの私の前に立てるなんて50000年はやいわ! とっとと死に絶えろ! 」
 望月はウインクしながら俺に背中の大剣向けてきた。
 なんだか西田と共にけっこうな罵倒をされたような気がしたのだが、望月は気にせずホルダーに収まった銃を使って望月曰く海賊っぽいポーズをどんどん取りまくっていた。
「あっ! マスターも西田くんもやってみなよ! コスプレ! 」
 いちいち語尾にビックリマークをつけるやつである。どれだけでかい声を出せば気が済むというのだろうか。
「コスプレですか? いいっすね~っ! ぜひともやらせていただきま~す! 」
 望月にモテたいからなのか、西田は随分乗り気だ。
 だが俺はやりたくないな。望月にモテたいわけでもないし。
「俺たちにコスプレしろだって? 何着りゃいいんだよ。俺はやらんからな」
「え~っ! マスターもやろうよ~! コスプレする衣装は私がぜ~んぶプロデュースしてあげるからね! そのヘンの心配はなんにもいらないからね! ほら! 更衣室に入った入った~。衣装は決まりしだいすぐにもって行ってあげるからね! 」
 俺たちは望月に無理やり雑なベニヤ簡易更衣室に押し込まれると、望月の悩んでいるようなう~んという唸り声を聞きながらぼーっと待つことになった。
 いくら雑な作りの更衣室と言っても、時間が余りまくったため小さな個室を5つほど作っていた覚えがある。
 俺たちはそのうちの1つにそれぞれ押し込まれて、およそ5分ほど待たされることになった。
「おまたせ~っ! はいこれ。ちゃんと着てね! 絶対似合うから! 」
 勢いよくドアを開けて、言いたいことだけ言って勢いよくドアを閉めて行った。隣がやたら騒がしくなったため隣の西田の入った更衣室でも同じようなことが起こったことを確認できる。
 俺は望月に強引に手渡されたコスプレ衣装を仕方なく着ていった。着替え終わって更衣室に建て付けられた鏡を見てみると、まるっきり侍の格好だ。
 日本刀まである。それも望月のお馴染みの小太刀ではなくちゃんとした太刀だ。
「おお~! 似合ってるよマスター! 」
 更衣室から渋々出ていくと望月の歓声に出迎えられた。
 それに続いて西田も出てきた。妖精のコスプレだ。
「ブッ! アッハッハッハッハッ! ク~っハッハッハ! なんだその格好は? アッハッハッハッハッ! 」
 思わず大笑いしてしまった。西田の衣装は青と緑のグラデーションが鮮やかな輝きを放っていて、背中にはえた翼又は羽はキラキラと光っている。
 あーなんて神々しい姿なんだろう西田が着てなかったら。
「くっ! わ、笑うんじゃねえマスター! せっかく望月さんが選んでくれた衣装だぞ……! 」
 まるで負け惜しみを吐くような声で反論してきたが、苦し紛れの一言に尽きるね。反論にもなってないぞ西田よ。
「西田くん……似合ってるよ……! クフフ……! 」
 望月も笑いを堪えるのが精一杯といった感じだ。
 顔を真っ赤にしてうつむいたままの西田をあとにして、俺たちはコスプレをしたまま早瀬のいる教室に行った。するとそこには教室から溢れ出るような人でごった返していた。
 廊下に貼られたポスターを見ると、マジックショーをしているようだがなんでここまで人がいるのだろうか。そんなに素人のマジックが面白いのだろうか。
 なんとなく俺の頭によぎった予感を振り払いながらなんとか教室に入った俺たちは、空いた席を確保してマジックショーを見学することにした。
「みなさんお待たせしました! これより1年3組によるマジックショーを開催します! 」
 既にスタンバイをしていた早瀬は客に向かって満面の笑みを浮べながらマジックショーの開催を宣言した。
 服装はいつもの制服ではなく、長い背広のタキシードスーツを着ている。紳士風の衣装だ。
「早速ですが、マジックを披露して行きたいと思います! まずはこのマジックに必要な道具を用意したいと思います! 『召喚』! 」
 手を後ろに素早く回して、ほんのコンマ数秒後にはその手にハンドガンが握られていた。
「マジックショーを見に来て頂いたみなさんにはお礼をしなくちゃいけませんね。お花のプレゼントを用意しましょう! 」
 早瀬はハンドガンの銃口付近を隠すように手で覆った。
「『薔薇の手品ローズマジック』! 」
 早瀬が観客に向けて銃口を向けると、クラッカーのような弾ける音がして薔薇の花束が教室中に放たれた。
 観客から歓声が上がる。
 だが俺から見たら全部タネも仕掛けもない本物の魔法だ。予感が当たったな。
 魔法を使うなんてちょっとせこくないか?
「次のマジックにまいりたいと思います。この教室ってちょっと暑いですよね。そこでちょうどいい具合の気温にしようと思います。『冷房銃の手品クールマジック』! 」
 早瀬がまた観客に向けて銃口を向けると今度は扇風機のような音を出してヒンヤリとした空気が教室中に流れた。
 観客から拍手が起こる。
「少しヒンヤリしすぎましたね。『暖房銃の手品ヒートマジック』! 」
 今度はヒーターのような音を出してちょうどいいくらいの暖かい空気が流れる。
 観客が目を丸くしているようだ。
 そりゃそうだろう。普通に考えたらありえないのだから。実際にタネも仕掛けもないから分かりっこないだろう。
「さて、早いようですが最後のマジックに入りたいと思います。マジックと言えばトランプマジックですよね。私もそれをしたいと思います」
 早瀬は観客席の一番前にいる少女にトランプカード一式を渡した。
「好きなカードを1枚私に見えないように選んでくれる? ありがとう。みなさん、この子が選んでくれたカードを私に見えないように確認してください」
 少女が掲げてくれたカードはスペースの5だった。
「確認できましたか? それでは、この子が選んでくれたカードを当ててみたいと思います」
 女子生徒がカードを回収すると、早瀬は何もないところからゴツイマシンガンを取り出した。
 観客から歓声が上がる。
「それでは、この子が選んでくれたカードを当ててみせましょう! 」
 早瀬は斜め前にある天井に向かってマシンガンをぶっぱなした。
 頭上からヒラヒラと大量に舞い降りてきたのはスペースの5のカードだった。目算でおよそ50枚といったところか。
 観客から拍手喝采を浴びた早瀬は何度もありがとうございますと連呼してマジックショーは終わった。
 俺たちはその後、望月の要請で再び立花のお好み焼き屋に行き、俺の奢りでお好み焼きを食べまくって俺たちの文化祭は終わった。
 片付けの時間に教室に戻ると西田がクラス全員から笑いものにされていた。妖精のコスプレなんてすぐにやめれば良かったものをなんで文化祭が終わるまで続けたのだろうか。
 西田の一生モンの黒歴史は俺が永遠に語り継いでやろう。
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