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29 ハルって本名なに?

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 過去のトラウマはきっちりデリートされた。こんな結果が生まれるとは思っていなくて、ただ普通に男としての機能に満足行く結果が望めればと思っただけだったのに。

「すげえ良かった」

 面倒なのはお互いにドロドロになるから、シーツを取り替えるのとシャワーを浴びる事だけど、事後の満足度は計り知れなくて、綺麗に整えられたベッドで思わず声に出していた。

「良かった」

 クスッと笑われて、しまった声に出してたと慌てるけど、本心だから仕方がない。ちょっと尻が心配だけど、とりあえず切れてはないし、開いてたのも閉じている。

「気分も悪くならなかったよね?」

「なってない。ハルだから大丈夫だよ」

 性的な匂いも雰囲気も気にならないくらいにハルに夢中だった。

「良かった」

「っていうか、気を使いすぎ。付き合うんだろ? ハルにも気楽にして欲しい」

 ムッとして言えば、ハルはまた笑った。

「ユウキは気楽?」

「すげえリラックスしてる。ハルの部屋いい匂いするし、ベッドのミントの匂いも好き」

 枕に振りかけてあるのかな。程よいミントの香りがする。

「良質な睡眠を促すフレグランスっていうのを兄の彼女に貰ったんだよ。効果ある?」

 また兄の彼女か、と思う。あまりに良く言うから気分が悪くなる。付き合った早々に嫉妬かと自分が嫌になる。

「なんだ、ハルのおかげじゃなく、匂いのおかげだったのか。勘違いした」

 ぷいっとそっぽを向いて布団を深くかぶる。嫉妬とか、面倒な感情だ。ハルの好意が彼女に向いているわけでもないのに。

「匂いのする俺のおかげでしょ? ユウキ?」

 背中に触れられて、ツツッと指先が下に降りる。ビクッと背を震わせて、振り返っていたずらなハルの手を止めた。

「俺、ハルが誰かを良く言うのが嫌みたい」

 顔が見れなくて視線を避けているのに、ハルに顔を上げさせられた。

「兄の彼女だよ? 義理の姉になるのに?」

 うんって頷く。我ながら面倒くさすぎる。この前までイケない、匂いが吐きそうとか言って困らせていたのに、それが解消した途端に今度は嫉妬とか。

「だったらユウキも家族になれば良いよ。今度、兄と彼女と一緒にごはん食べに行こう。名前はね、兄が一慶で彼女が朱音さん」

 すごく嬉しそうに話しているけど。

「っていうかハル、俺、ハルの本名知らずにお兄さんの知るの?」

「そうか、そうだったね」

 ベッドに寝ていたのに、ハルは起き上がって正座をするから、俺も起き上がって正座をする。ベッドの上で向き合って何をしているのか。手を握られて、見つめられて、変な感じ。

「塚崎晴臣です。晴れる家臣のおみって書きます。N大5年、22歳、歯学科は6年まであるし卒業後1年の研修があるから、社会に出るのはユウキと同じかな」

「樋口優希、2年20歳」

 手を繋いで自己紹介とか。恥ずかし過ぎる。手を離して布団に入って、ハルに背を向けたら近づいて来て腹に手を回された。

「2年で20歳って、もしかして誕生日過ぎたばかり?」

「初めてLillyに行った日だったけど?」

 思い出した。誰にもおめでとうを言われない誕生日。

「おめでとうユウキ、来年はケーキ食べてお祝いしようね。プレゼント何が良い? 楽しみだ」

「ハルは?」

 祝われない俺の誕生日が報われた気がする。同時にハルの誕生日が気になった。だってハルだし、春なんじゃ? あーでも晴臣だから関係ない?

「そういえば来月だな。兄たちが食事に連れて行ってくれるから、ユウキも一緒に行って、夜は二人で過ごそう?」

「……考えておく」

 って、嬉しいくせに。嬉しいのを隠すように話題を変えた。

「同い年じゃないのは何となく分かってたけど、ハルって普通なら社会人だよな」

「うん、そうだけど、気にする?」

「別に、良いけど」

 歯学科ってもっと詰めて講義を受けていて、実習とか多くて忙しい印象だったけど、ハルは自由すぎる気がする。

「晴臣って呼ぶ?」

「呼ばない。そんなの他のやつらといる時に呼んだら、なんで? ってなるだろ」

「そっか、今日、楽しかったよね。俺、普段も普通にみんなで遊べる彼氏が欲しかったから、嬉しくて」

「俺はハルと付き合ったって言うと思うよ? そのうち、タイミング見計らってだけど」

 そう言うとハルの手がビクッと揺れる。あれ? ハルってそういうの気にするんだ? 俺は割と言ってスッキリしたいけど。実家と離れているし、一人暮らしだし、今の友人は俺がゲイだって言っても、やっぱりで終わらせてくれそうだし。

「俺はどうかな。今の友人はいずれ歯科医になるヤツばかりだから、言わずに済めば良いなと思ってるよ。でも兄たちには言いたいと思ってる」

「俺と逆だ」

 振り返ってハルを見る。

「ごめん」

 ハルが謝って来るから、少し笑えた。

「なんで? 俺は親には言えないし、お互い様だろ? 分かった、俺も言わないし、バレないように気をつける」

「良いの?」

「とりあえず良いよ。不都合があったら話し合えば良い、違う?」

 そう言ったらハルがホッとしたように息を吐いた。

「ありがとうユウキ」

「うん」

 引き寄せられるままにキスをして、見つめ合って笑い合う。ハルが電気を消した。薄暗い中でハルを見る。寝れるかな? そう思っていると、またハルにキスされた。
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