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8 尻込みするのは仕方ないよね

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 すごい爽やかな好青年でも性的趣向はそれぞれだと思えば俺が受け入れられる奇跡も無いとは言えないだろうか。

 どう見てもよりどりみどりな男が自分を好んでくれるなんて冗談だと思えても仕方がない。俺って普通だよ。飛び抜けた才能もないし、見た目も大した事ないし、巧みな話術も持っていない。何をもってして俺を選んだの? 初モノっぽいから? それって重要な項目なの?

「初めて?」

「二回目」

 隣に座ってビール飲んでる。それもまた様になっていて、慣れている印象は強い。五條が綺麗系イケメンなら、この男は爽やかイケメンだ。笑顔が柔らかくて大型犬を思わせる。しいて言うならレトリバーか。ふわふわの髪と髪色がレトリバーを連想させる。

「大学生?」

「うん、一緒?」

「そう、ハルって呼んで?」

「ハル? 俺、ユウキ」

「ユウキ」

 ニコッて笑まれて、うわって思う。同じ男だよね? 男に向ける笑顔がそれ? 人好きするタイプだし、するっと入り込めてしまいそうな気軽さが逆に怖くもある。

「ゲイじゃないよね? 好奇心?」

「やっぱりそう見える? マスターにも指摘されたんだけど」

「慣れては無そう」

 クスッと笑まれて、カウンターに乗せてた手に手を重ねられた。ドキドキする。えーこんな簡単に触るの? 逃げるのも意識してると思われそうで出来ないし、逃げないと受け入れていると思われそうで——困るんですけど。

「困ってる? かわいい」

 かわいいが俺の評価になる日が来るなんて! ありえねえ。でも見つめて来る視線に揶揄いは無くて、微妙に嬉しそうにも見えて、そう見たいと自分が思っているんじゃないかって自問して、わからない。

「ごめん、慣れてないって正解、でも好奇心じゃないよ、切実って言うか、何というか」

 指の背を指先で撫でられて、ゾクッてして、逃げるついでに白状させられる。

「切実? どんな意味で?」

 かああっと頬が熱くなる。こんな女みたいな反応、ありえない。自分がメスにされてる気がする。

「やれるか、やれないかの意味で」

「試す?」

 強くてセクシーな視線を受け止めて、震える。えっと、どういうこと? 試すって何を? アレを? そんな出会ってすぐに、話もろくにせずに進むもの?

「あ、あの、お金無いし」

 マジか、俺、何言ってるんだか。そこじゃないだろ。ヤル気満々か。クスッと笑まれて、逃げた手が捕まえられる。

「気にしないで良いよ」

 どういうこと? お金いらないの? っていうか、これって逃げられなくなりそう? カレンを探したけど、別の客の相手をしてるし。こっちを見ようともしない。ついて行く? いや怖い。でも怖いばかりじゃ先に進めない気がするし。相手の良いか悪いかの判断なんて、付き合ってみなければわからない。なにせ清純な性的な欲求から遠いと思わせた女に乗られたんだ。だったらむしろ性的欲求剥き出しの、でも爽やかだって許せる男が相手をしてくれる奇跡に乗らないと次はないんじゃ?

「そんな考えなくて良いよ。はじめてなのにいっぱいはムリだよ」

 手を掴まれて、立たされた。支払い? って思ったら、ハルが一緒に払ってくれたようで、もつれる足をどうにかしながら、ハルと手を繋いで、昭和なドアを出た。

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