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4 相談は計画的に
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好きになれば全てが許せるなんて綺麗事は経験不足による妄想でしかない。
それでもそれに縋りたいと思うくらいには拗れていて、恋愛が全てじゃないと言いつつも、世には恋愛が溢れていて、隣を見れば愛を疎かにできるくらい恵まれた環境のヤツらがゴロゴロいる。
「ユウキちゃんはネコなの? 試したいの?」
去って行ったナナは俺を見限ったらしい。新規客を狙う為か入口付近に立って常連と話している。チラ見されていると思うのも自意識過剰なのか。
「ネコ……なんですかね? とりあえず入れるのムリだから、そっちはどうかと思うんですけど。試したいのともまた違って。好きな人が相手ならいけるんじゃないかな~って感じで」
照れ隠しで笑って見せているけど内心は戦々恐々だ。ゲイバーだって初体験でどこまで話して良いのかわからないし、男と経験のない俺が踏み込んでいい場所かさえわからない。
「好きな人は?」
「います!」
せめて好きな男がいるアピールくらいしないと許されない気がする。
「どういう子?」
「同じ大学の友人で見た目がタイプというか」
「綺麗系でしょ」
カレンに指摘されてビクッとする。どうして分かるのかとじーっと見たら、不敵に笑まれた。
「綺麗系の素敵女子に乗られて満更でもなかったんでしょ? すごく面食いなんじゃない? でも理想と現実とのギャップに耐えられなかった。ある意味ああいう行為は不潔だものね。思春期の夢見る坊やには刺激が強かったのかも」
今でも思い出せるあの光景。きっと普通の男子なら性的興奮を覚えるあの瞬間に、俺は射精ではなく汚物を吐いた。素敵女子に素敵なことをされているのに吐くっていうトラウマは今でも健在で、女子とそういう行為をしようとも思えない所か、女子そのものが苦手となり、触れるのさえ躊躇う存在になってしまった。
「一度試してみたら? ユウキくんとシたいって相手、良かったら紹介するけど? 理想の相手を前に出来なくなるよりはダメージ受けないと思うし、慣れた相手ならその時に相談も出来ると思うけど?」
たしかに。そう思いながらも戸惑う。五條の事が好き。許される範囲内で側にいたいと思うくらいには好き。両腕に寄り添う女を敵視するくらいには好き。でもその反面で諦めている。五條は女が好きだ。同棲相手がいるという噂もある。同棲相手がいるのに女遊びをしているし、女のいる場所に出向いてモテを楽しんでもいる。
「綺麗系のタチっていってもいろいろいるけど、同い年くらいが良い?」
「……そうですね」
もう一杯、お酒を飲んで、覚悟を決める。
「出来ればお付き合いできる相手が良い——と思います」
わおっとカレンが声を上げる。
「そうね、真面目そうだものね」
同情にも見える笑み。憐れみ? でも良い。俺に遊ぶなんてスキルはない。そういう行為をするのなら、好きになれる相手が良い。
「俺なんかを好きになってくれそうな相手っているものでしょうか?」
自分に自信などカケラもない。魅力的な話術もない。惹きつけるような特技もない。そしてああいった行為にトラウマを持つような俺を相手にしようと思うような危篤な相手っているのだろうか。
「長期戦ね」
とカレンが呟く。グイッと酒を飲み、俺を見る。
「金曜日にいらっしゃい。大学生の坊やは金曜に多いわ。おすすめを教えてあげる」
相談料五千円。さらに後日追加予定。それでもこのトラウマを克服できるのなら必要経費か。
「わかりました。よろしくお願いします」
財布から五千円を抜き出して、差し出した。
「頑張りましょうね」
五千円を引き抜いたカレンがウンウンと頷いている。ドキドキするのは新たな恋人の出現に対する緊張によるものか? ドアまで送られて、外に出る。嫌、違う。寂しくなった財布の中身に対する不整脈だ。仕送りとバイトで生活している学生にとって飲み代五千円は痛い。明日から菓子パンひとつかカップ麺の生活にしよう。
それでもそれに縋りたいと思うくらいには拗れていて、恋愛が全てじゃないと言いつつも、世には恋愛が溢れていて、隣を見れば愛を疎かにできるくらい恵まれた環境のヤツらがゴロゴロいる。
「ユウキちゃんはネコなの? 試したいの?」
去って行ったナナは俺を見限ったらしい。新規客を狙う為か入口付近に立って常連と話している。チラ見されていると思うのも自意識過剰なのか。
「ネコ……なんですかね? とりあえず入れるのムリだから、そっちはどうかと思うんですけど。試したいのともまた違って。好きな人が相手ならいけるんじゃないかな~って感じで」
照れ隠しで笑って見せているけど内心は戦々恐々だ。ゲイバーだって初体験でどこまで話して良いのかわからないし、男と経験のない俺が踏み込んでいい場所かさえわからない。
「好きな人は?」
「います!」
せめて好きな男がいるアピールくらいしないと許されない気がする。
「どういう子?」
「同じ大学の友人で見た目がタイプというか」
「綺麗系でしょ」
カレンに指摘されてビクッとする。どうして分かるのかとじーっと見たら、不敵に笑まれた。
「綺麗系の素敵女子に乗られて満更でもなかったんでしょ? すごく面食いなんじゃない? でも理想と現実とのギャップに耐えられなかった。ある意味ああいう行為は不潔だものね。思春期の夢見る坊やには刺激が強かったのかも」
今でも思い出せるあの光景。きっと普通の男子なら性的興奮を覚えるあの瞬間に、俺は射精ではなく汚物を吐いた。素敵女子に素敵なことをされているのに吐くっていうトラウマは今でも健在で、女子とそういう行為をしようとも思えない所か、女子そのものが苦手となり、触れるのさえ躊躇う存在になってしまった。
「一度試してみたら? ユウキくんとシたいって相手、良かったら紹介するけど? 理想の相手を前に出来なくなるよりはダメージ受けないと思うし、慣れた相手ならその時に相談も出来ると思うけど?」
たしかに。そう思いながらも戸惑う。五條の事が好き。許される範囲内で側にいたいと思うくらいには好き。両腕に寄り添う女を敵視するくらいには好き。でもその反面で諦めている。五條は女が好きだ。同棲相手がいるという噂もある。同棲相手がいるのに女遊びをしているし、女のいる場所に出向いてモテを楽しんでもいる。
「綺麗系のタチっていってもいろいろいるけど、同い年くらいが良い?」
「……そうですね」
もう一杯、お酒を飲んで、覚悟を決める。
「出来ればお付き合いできる相手が良い——と思います」
わおっとカレンが声を上げる。
「そうね、真面目そうだものね」
同情にも見える笑み。憐れみ? でも良い。俺に遊ぶなんてスキルはない。そういう行為をするのなら、好きになれる相手が良い。
「俺なんかを好きになってくれそうな相手っているものでしょうか?」
自分に自信などカケラもない。魅力的な話術もない。惹きつけるような特技もない。そしてああいった行為にトラウマを持つような俺を相手にしようと思うような危篤な相手っているのだろうか。
「長期戦ね」
とカレンが呟く。グイッと酒を飲み、俺を見る。
「金曜日にいらっしゃい。大学生の坊やは金曜に多いわ。おすすめを教えてあげる」
相談料五千円。さらに後日追加予定。それでもこのトラウマを克服できるのなら必要経費か。
「わかりました。よろしくお願いします」
財布から五千円を抜き出して、差し出した。
「頑張りましょうね」
五千円を引き抜いたカレンがウンウンと頷いている。ドキドキするのは新たな恋人の出現に対する緊張によるものか? ドアまで送られて、外に出る。嫌、違う。寂しくなった財布の中身に対する不整脈だ。仕送りとバイトで生活している学生にとって飲み代五千円は痛い。明日から菓子パンひとつかカップ麺の生活にしよう。
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