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 別に、付き合っている気はない。
 まだ話をしてから時間もそんな、経っていない。
 ふたりで話す一ノ瀬は、感じ良い。

 土日、ずっと、バイトの時間以外、一緒にいた。
 映画の話もした。
 俺は予告を見て、次に観る映画を決めるタイプ。
 あれってエンドレスになる。

 一ノ瀬は、ふだんは雑誌を見て選んでいるらしい。
 あとは誰かのおススメ。

 あの日、たまたま一緒になった映画は、CMで良く流れているヤツだった。
 うちはテレビがないから、スマホの広告で見たんだけど。
 一ノ瀬は朝の報道番組で俳優が挨拶をしているのを見て、観てみようと思ったらしい。

 なんか探偵物+アクションな感じのヤツで、コミカルでありながら、シリアスでもあるヤツ。
 有名な俳優が出ていて、シャワーシーンが良かったとか、そういう感想を言ったら、邪道だと言われた。
 内容は、まあ、それなりだったから。

 二日目はおとなしく、会話をしながら、スマホを見ていて、体のどこかが触れ合っている程度。

 俺はそんな頻繁にヤりたい方じゃない。
 だいたい2週間に1度。
 あとはムラムラした時。その周期はナゾ。

 一ノ瀬はどうなのかな。
 週1であの店に行っていたらしいから、週1?
 普通の頻度がわからない。
 でもたぶん、俺は少ない方だと思う。
 誘われたら、ノル時はあるんだけど。

 今日の一ノ瀬は、たぶん、満足してる。
 ヤりたいって言えば、ヤるんだろうけど、今日はのんびりしたい気分。

「明日は?」

 部屋を暗くして、干してお日様の匂いの布団に寝転がって、お互いスマホを見てる。
 スマホの明かりが、ぼんやり一ノ瀬を照らしていて、一緒にいるのが不思議でしょうがない。

「一緒じゃない?」

 一ノ瀬とは取っている講義がほとんどかぶっている。
 ずっと行動が一緒だったのに、すれ違うことはあっても、話したことはなかったのに。
 この2日で、ずいぶん話した。

「そう?」

「そう。でも一緒に行かないし、話さないから」

「……わかってる」

 お互い、背中を向けているんだけど、足が触れ合ってる。
 ツツって、足先でふくらはぎを撫でられて、変な感じ。

「一ノ瀬は? お昼は構内のカフェ?」

「うん、たぶん。なんで?」

「俺も明日はたぶん構内カフェだから。絶対に話しかけないでよ」

 そう言うと、一ノ瀬は体を起こして、俺の上にかぶさって来た。

「なんで?」

 じっと上から見下ろされる。
 自分のスマホのライトに照らされているのも嫌なので、スマホを脇に置いて、一ノ瀬を見上げる。

「なんでって、講義の提出課題、4人で組んでやるヤツ。明日のお昼、構内カフェで打ち合わせする」

「ああ、あれか」

 ついでのようにキスされて、一ノ瀬は上からどいて、元の場所に戻った。
 なんなんだ? よくわからない。

「一ノ瀬は? もう終わった?」

「終わった」

 ……でしょうね。
 俺はなんかよく知らない、っていうか、同じ講義取ってるなって思ってるくらいの子たち、要は友達の少ないタイプがたまたま近くにいて、集まって作ったグループだから、連絡先の交換から始まって、お互いの時間を合わせるのにも苦労して、やっと打ち合わせの段階なのに。一ノ瀬は終わっていると。

「っていうか、提出まであと1週間じゃね?」

「だね。一応、個々にまとめて来る予定で、打ち合わせで意見まとめることになってる」

「ふうん、頑張れ」

 人ごとだよね。そうだよね。

「話しかけるなよ」

 念を押してみる。
 スマホを見ていたのに、くるっと向きを変えて来て、俺のこと、抱き締めて来た。

「うるさいな、わかってるよ」

 抱き締めて来て、キスされる。
 キスが深くなって来て。
 なんか、ヤバい。
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