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会い出すと、会うらしく、休みの日に映画に行ったら一ノ瀬がいた。
俺はひとり映画派だ。
一ノ瀬もそうなのか、後ろの座席にひとりで座ってた。幸いなのは終了後にみつけたこと。
見終わった後に誰かと感想を共有したいと思うことはあるけど、隣は知らない人が良い。っていうかいない方が良いけど。
見て見ないふり。
でも一ノ瀬は来る。
後ろから来られて、肩ぶつけられた。
「腹減った」
耳元で言われる。
ため息をつく。
「バイト」
「バイト? どこ?」
「コンビニ」
映画館を出て歩く。
もう夜だ。
「ついてく」
「は? なんで?」
コンビニは借りてるアパートの近くだ。21時から深夜2時のシフト。
「バイト先知りてえから」
「知られたくないけど」
「大学の近く?」
「まあ、近いね」
「行く」
電車に乗る。こういう時、電子マネーだと簡単に着いて来られてしまう。本気で着いて来るんだと電車に乗って、ドア付近に立っていながら思う。
一ノ瀬、乗客の視線集めてる。部活帰りの女子高生にヒソヒソ噂されてる。
そういうの、耳に入らないのだろうか。シャットアウト機能が付いているみたいだ。他人の俺の方が気になってる。
電車を降りて駅前のラーメン屋の前で足を止める。
「ここ、行く」
「やった」
一ノ瀬が笑う。
「腹減った」
ここで話したら帰って貰おうと思う。
「いらっしゃい」
いつもの店員がいつものように接客して来る。
「俺いつもミソと餃子」
「じゃあ、俺も」
一ノ瀬の注文を聞いて店員に告げる。
客はまばらで、注文システムは大声だ。
大声で注文すると、一ノ瀬が笑ってる。いつもの事だから何とも思わなかったのに、ちょっと恥ずかしい。
「常連?」
「うん」
アパートはこの店から近い。近い店でここが一番安くてうまい。そして早い。
「バイト9時からだから、30分くらいな」
「食えるよ」
こんな脂ぎった店内に一ノ瀬。うーん、でも悪くはない。
見た目はフレンチとかカフェとかスウィーツとか、そういうイメージで、可愛い子が似合う。
でも意外。
男臭い一ノ瀬も案外良い。
もやしとチャーシューいっぱいの味噌ラーメンと餃子。
割り箸取ってくれて、手を合わせていただきますって言う。
「うまいね」
スープ、レンゲで掬って飲んで、麺啜って、チャーシュー食べて、嬉しそうにしてる。
「イメージ違う」
食べながら一ノ瀬観察して、思わず言う。
「それは上がった? 下がった?」
「どっちでもない」
ただの俺の決め付けが違っただけ。
「一ノ瀬ってさ、周りの反応、耳に入らない?」
「うん、入れねえ、めんどう」
だよな、と思う。
入れないっていうことは、知ってて知らないふりしている。
「真夜のイメージだって大概だろ。俺、別にフツウだし、期待されても困る」
「確かに。俺とラーメン啜るイメージはなかったし、ストーカーされるとか」
「ストーカーじゃねえだろ? つけてきたんじゃねえよ」
餃子が見事に消えて行く。
大口で豪快に。話しながらなのに。
「俺のバイト先知ってどーするの?」
「……会いに来る」
「ストーカーだろ」
はあっとため息を吐く。
ダメ? っていう大型犬がシュンとするイメージの顔で見られて、内心くすぐられてる。
「……いいよ、でも連絡してからにして」
「やった」
本気で来る気か? と思いながら、悪い気はしなくなった。一対一の一ノ瀬だったら受け入れられそうだ。
「でも大学内は無視して? 条件」
「……わかった」
ホッとする。
これで一応、日常生活に支障はなさそうだ。大学では目立たず、こっそりしていたい。
俺はひとり映画派だ。
一ノ瀬もそうなのか、後ろの座席にひとりで座ってた。幸いなのは終了後にみつけたこと。
見終わった後に誰かと感想を共有したいと思うことはあるけど、隣は知らない人が良い。っていうかいない方が良いけど。
見て見ないふり。
でも一ノ瀬は来る。
後ろから来られて、肩ぶつけられた。
「腹減った」
耳元で言われる。
ため息をつく。
「バイト」
「バイト? どこ?」
「コンビニ」
映画館を出て歩く。
もう夜だ。
「ついてく」
「は? なんで?」
コンビニは借りてるアパートの近くだ。21時から深夜2時のシフト。
「バイト先知りてえから」
「知られたくないけど」
「大学の近く?」
「まあ、近いね」
「行く」
電車に乗る。こういう時、電子マネーだと簡単に着いて来られてしまう。本気で着いて来るんだと電車に乗って、ドア付近に立っていながら思う。
一ノ瀬、乗客の視線集めてる。部活帰りの女子高生にヒソヒソ噂されてる。
そういうの、耳に入らないのだろうか。シャットアウト機能が付いているみたいだ。他人の俺の方が気になってる。
電車を降りて駅前のラーメン屋の前で足を止める。
「ここ、行く」
「やった」
一ノ瀬が笑う。
「腹減った」
ここで話したら帰って貰おうと思う。
「いらっしゃい」
いつもの店員がいつものように接客して来る。
「俺いつもミソと餃子」
「じゃあ、俺も」
一ノ瀬の注文を聞いて店員に告げる。
客はまばらで、注文システムは大声だ。
大声で注文すると、一ノ瀬が笑ってる。いつもの事だから何とも思わなかったのに、ちょっと恥ずかしい。
「常連?」
「うん」
アパートはこの店から近い。近い店でここが一番安くてうまい。そして早い。
「バイト9時からだから、30分くらいな」
「食えるよ」
こんな脂ぎった店内に一ノ瀬。うーん、でも悪くはない。
見た目はフレンチとかカフェとかスウィーツとか、そういうイメージで、可愛い子が似合う。
でも意外。
男臭い一ノ瀬も案外良い。
もやしとチャーシューいっぱいの味噌ラーメンと餃子。
割り箸取ってくれて、手を合わせていただきますって言う。
「うまいね」
スープ、レンゲで掬って飲んで、麺啜って、チャーシュー食べて、嬉しそうにしてる。
「イメージ違う」
食べながら一ノ瀬観察して、思わず言う。
「それは上がった? 下がった?」
「どっちでもない」
ただの俺の決め付けが違っただけ。
「一ノ瀬ってさ、周りの反応、耳に入らない?」
「うん、入れねえ、めんどう」
だよな、と思う。
入れないっていうことは、知ってて知らないふりしている。
「真夜のイメージだって大概だろ。俺、別にフツウだし、期待されても困る」
「確かに。俺とラーメン啜るイメージはなかったし、ストーカーされるとか」
「ストーカーじゃねえだろ? つけてきたんじゃねえよ」
餃子が見事に消えて行く。
大口で豪快に。話しながらなのに。
「俺のバイト先知ってどーするの?」
「……会いに来る」
「ストーカーだろ」
はあっとため息を吐く。
ダメ? っていう大型犬がシュンとするイメージの顔で見られて、内心くすぐられてる。
「……いいよ、でも連絡してからにして」
「やった」
本気で来る気か? と思いながら、悪い気はしなくなった。一対一の一ノ瀬だったら受け入れられそうだ。
「でも大学内は無視して? 条件」
「……わかった」
ホッとする。
これで一応、日常生活に支障はなさそうだ。大学では目立たず、こっそりしていたい。
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