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3章

11 獣人至上主義

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 車は高層ビル群を越えて街へ出る。異世界とはまた別の、文明の進んだ異世界とも思える風景を越え、やっとマシな風景になったかと思えば、今度は貧民層の暮らしが見える。極端な差は何なのか。志津木はこれこそが現実だと思える貧富の差を目の当たりにして、沈んだ気持ちがさらに下降する。
 クリスは貧民層といえども、まだマシと言える街の中にある、旅宿といった感じの店にいた。
 一階が食堂となっている宿の二階の部屋から下りて来たクリスと合流する。クリスの案内で外へ出ながら周りを観察した志津木は、周りの客や店員が人であると認識した。
 マティアス国は獣人の国だ。でも王の地位にある主は人だ。

「ここは獣人と家族になった人の住処だよ」

 獣人の国のホテルの一階には、高級なラウンジがあったけど、獣人の国の外側の人街にあるのは、とても庶民的な安宿で、クリスに連れられたのは、ファミレスやダイナーを思わせる店だ。
 クリスはメニューも見ずにコーヒーを頼んだから、志津木も同じで良いと頼む。店員も人の女で、皆好き好きな格好をしている。イスラム圏が近い場所だが、その手の衣装の者は見られない。やはりここが獣人の国という特殊な区域の端という事なのだろう。

「中心部は獣人オンリーなのか。徹底した獣人至上主義国だな」

 志津木はウンザリした。
 獣人が人の国で虐げられる存在だったのは分かっている。その立場から抜け、獣人の地位を確立する為の国造りだという事も。人を警戒するのも分かる。人を中心部へ入れれば、奴隷制度の復活に繋がる。乗っ取られる。様々な憶測が浮かぶのも分かる。だが志津木は獣人と人と種族の差のない国を想像していた。少なくとも家族となった人くらいは受け入れていると、トップが人だと知った時に勝手に想像していた。

「難しい所だな」

 クリスが呟く。
 コーヒーが運ばれて来て、一口飲めば、煮詰まったような濃さと苦さに思わず眉が寄る。

「この国の支援者は人だ。元飼主だな。獣人を飼いながらホテルに定住している者が殆どだよ。獣人の国と言いながら、今はまださほど機能していない。中心部はガラ空きだ」

 クリスもまた、コーヒーを飲んで顔を顰める。日本の淹れたての芳醇な香りを恋しく思う。まあ飲めるだけマシかとも思うが、まだ問題は多々残っている。

「何の為の開国だ? 富豪の有り余った金の捨て場所か? それとも新たなビジネスへの投資か?」

 世の中そんな上手い話はない。志津木が想像するのは、国の形を取ったペットショップだ。獣人を集めて自由にさせれば、純度の高い獣人が生まれる。そんな考えを持って思考を止める。
 そんな事はありえないと思考を変える。ニアの幸せに相応しくない。
 国のトップは異世界から来た者だ。人の思惑に簡単に乗るような者ではない。ましてやニアの乳兄弟だ。ニアを不幸にするような者ではないと信じたい。
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