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3章
5 哀しい運命
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ニアは膝を抱え直し、志津木を見て心配を掛けまいと笑って見せる。それがより悲痛に見えるとは、ニアは思ってもみないのだろう。志津木は胸が傷む。こちらではもう25歳だが、もっと甘やかされ、愛しまれて生きて来ても良い筈なのに。
「僕は父王の命(めい)をやり遂げれば、父王に認めて貰えると思っていた。アダマスに戻った時にヨウが一緒だったのは予想外だったけど、でも僕はやり遂げたんだよ」
ふふっと笑って志津木を見たニアには少し自信のようなものが見えたが、すぐに萎んで行く。
「二度目に会ったのはヨウと別れて王城へ向かった時だよ。王命をやり遂げた報告を、同じように遠くの王を見上げてした。でもね、それがどうした? って、疑問が返って来たんだ。意味が分からないよね? 当時の僕はまだ2歳だった——ああ、違うよ。獣人の2歳はこちらの15歳位の体格と知能があるから、僕は王命を理解していたし、自分で選んで行動したよ」
志津木の驚きを感じ取ったニアは説明を加えたが、志津木の脳裏にあるのはハクとメイだ。ハクとメイも数ヶ月で成人の姿に成長すると聞いてはいた。二人とも1歳半であの働きと会話だ。2歳で王命を理解すると聞かされても納得はするが、だからといって子どもは子ども。大人の勝手な思惑に巻き込む卑劣さは感じずにいられない。
「なぜニアだったんだ? もっと大人の見合った者がいなかったのか?」
「いなかったんだよ、ヨウ。だって時空を越えられるのは王族の血を持つ者だけで、時空を繋ぐのは聖気を持つ者だけなんだよ」
志津木は驚きに狼狽える。
マティアスが志津木に施した聖気の意味とニアの意味が重い意味を持って志津木に伝わる。
「ごめんニア。俺があの時、向こうで危険に晒されなければ、この国に戻らなくても良かった筈だ。ニアはこの国の記憶を失っていた——戻らなければ父王を失う事も無かったかもしれないのに……」
「僕の運命なんだよ、ヨウ。だって戻るのに聖気は必要なかった。僕があの時、生きたいと願ったからだよ。ヨウは悪くない。僕が甘くて、頼りないから——」
「違う、ニア、ニアのせいじゃない。最初から間違っている。身勝手な大人の思惑に振り回されて、ニアは怒って良いんだ。怒って、不満を言っても良いんだ」
ニアを抱きしめる。悲しい子供を抱きしめて、不運に見舞われているニアを暖めて、幸せにしてやりたいと思う。
ニアの体が震えている。志津木のシャツを握って、肩口で声も小刻みに震えている。
「僕は……アダマス国の第二王子で、ニア-レオパルダリ-アダマス、黒豹の血を濃く引く獣人国の王子。妾腹の出ではあるけど、王子だった。一度も、誰にも、愛された事も抱きしめて貰った事もなく——父も母も、兄も、近くで見た事もない、可哀想な王子なんだよ」
ニアの歯が鳴る。
たった2歳で異世界へ送られ、異世界でチップを入れられて記憶を失い、奴隷として酷く扱われる。
志津木はニアの背を撫で、ニアの苦しみごと抱きしめている。
「僕は、ただ、よくやった、偉かったって、言って欲しかっただけだよ。そう言って貰えたら、全部忘れて、好きでもない相手と婚姻させられても、国の為に、父や兄の為に、生きようと思っていたよ。——僕は、甘くて、弱くて、——幸せにはなれない運命だった? なぜ? どうして? 僕は王子に産まれたから、責務を果たそうと思っただけなのに」
「ニアは偉いよ、それに強いよ。たった2歳で異世界へ向かうなんて、誰にもできる事じゃない。ニアは良い子だ。幸せになれる。なっても良いんだよ」
しがみつくニアが志津木の肩を濡らす。歯を食いしばって嗚咽を漏らすニアの泣き方さえ哀しい。
志津木はニアを抱きしめながら、もう二度とニアを泣かせたくないと思った。
「僕は父王の命(めい)をやり遂げれば、父王に認めて貰えると思っていた。アダマスに戻った時にヨウが一緒だったのは予想外だったけど、でも僕はやり遂げたんだよ」
ふふっと笑って志津木を見たニアには少し自信のようなものが見えたが、すぐに萎んで行く。
「二度目に会ったのはヨウと別れて王城へ向かった時だよ。王命をやり遂げた報告を、同じように遠くの王を見上げてした。でもね、それがどうした? って、疑問が返って来たんだ。意味が分からないよね? 当時の僕はまだ2歳だった——ああ、違うよ。獣人の2歳はこちらの15歳位の体格と知能があるから、僕は王命を理解していたし、自分で選んで行動したよ」
志津木の驚きを感じ取ったニアは説明を加えたが、志津木の脳裏にあるのはハクとメイだ。ハクとメイも数ヶ月で成人の姿に成長すると聞いてはいた。二人とも1歳半であの働きと会話だ。2歳で王命を理解すると聞かされても納得はするが、だからといって子どもは子ども。大人の勝手な思惑に巻き込む卑劣さは感じずにいられない。
「なぜニアだったんだ? もっと大人の見合った者がいなかったのか?」
「いなかったんだよ、ヨウ。だって時空を越えられるのは王族の血を持つ者だけで、時空を繋ぐのは聖気を持つ者だけなんだよ」
志津木は驚きに狼狽える。
マティアスが志津木に施した聖気の意味とニアの意味が重い意味を持って志津木に伝わる。
「ごめんニア。俺があの時、向こうで危険に晒されなければ、この国に戻らなくても良かった筈だ。ニアはこの国の記憶を失っていた——戻らなければ父王を失う事も無かったかもしれないのに……」
「僕の運命なんだよ、ヨウ。だって戻るのに聖気は必要なかった。僕があの時、生きたいと願ったからだよ。ヨウは悪くない。僕が甘くて、頼りないから——」
「違う、ニア、ニアのせいじゃない。最初から間違っている。身勝手な大人の思惑に振り回されて、ニアは怒って良いんだ。怒って、不満を言っても良いんだ」
ニアを抱きしめる。悲しい子供を抱きしめて、不運に見舞われているニアを暖めて、幸せにしてやりたいと思う。
ニアの体が震えている。志津木のシャツを握って、肩口で声も小刻みに震えている。
「僕は……アダマス国の第二王子で、ニア-レオパルダリ-アダマス、黒豹の血を濃く引く獣人国の王子。妾腹の出ではあるけど、王子だった。一度も、誰にも、愛された事も抱きしめて貰った事もなく——父も母も、兄も、近くで見た事もない、可哀想な王子なんだよ」
ニアの歯が鳴る。
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「ニアは偉いよ、それに強いよ。たった2歳で異世界へ向かうなんて、誰にもできる事じゃない。ニアは良い子だ。幸せになれる。なっても良いんだよ」
しがみつくニアが志津木の肩を濡らす。歯を食いしばって嗚咽を漏らすニアの泣き方さえ哀しい。
志津木はニアを抱きしめながら、もう二度とニアを泣かせたくないと思った。
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