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2章
20 逃亡
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腕の中にいるニアの鼓動が早い。緊張しているのが志津木に伝わる。志津木といえば、こんな場面をやり過ごして来た過去があるから、感覚が研ぎ澄まされるし、ピンチがあってこその成功の喜びを知ってしまっているが故の高揚がある。だがいつもと違うのはニアがいる事。守れるかな? 守れたら良いなくらいの心持ちで挑む数分間。
「どうするの?」
「臨機応変? 適当にするからニアは黙って下向いて」
言われた通りに俯くニアを可愛いと思う。もうチップは無いから、強制的に従わせられていないのに、合わせてくれる。以前のモヤモヤが少し解消した。
目の前で馬が足を止める。先頭の兵が嫌な目つきで睨み落として来るが、志津木は平然と見返した。
「不審者を発見しました。連行します」
志津木から話してみる。敬礼とか必要だったか? 報告には決まり文句があったかも。
「どこの隊の何部の管轄だ! 所属番号を述べよ!」
やっぱり無理だ。
そう判断した時にはナイフを投げて後ろ二人の喉元へ。話していたヤツが後ろを振り返る瞬間に蹴落として馬を奪った。なんで振り返るかな?
「ニア、伏せてろ、正面突破する」
膝の前にニアを乗せて、前が見えないから伏せさせる。攻撃から身を守る事にも繋がるが、概ね身長差のせいってのはニアには言わない志津木だ。
「あーハクとメイのナイフ、使う気無かったのに」
と泣き言を言いながら馬を駆る。
「正面突破できそう?」
馬の立髪を握って伏せてるニアの耳がピクピクしている。尾も下に垂れてて、志津木の足に沿っている。
「正面混み合ってるが、バレてなければイケるだろ……たぶん」
矢を射られて馬を無くすのは困る。せめて街中までは何とかならないかと思いつつ、兵が集ってるんだよな、弓構えてるよな、残っている武器はサバイバルナイフ1本だ。不利にも程がある。撃って来るな、とりあえずまだ距離があるから何とか避けられる。
「落ちるなよ、ニア」
馬が向かって来る。馬上で抜刀している。お前らの国の第二王子を乗せてるんだから、攻撃はマズいんじゃない?
「僕が死んでも誰も困りません」
「悪い、言葉に出てた?」
サバイバルナイフ1本で矢を払う? 無理無理、そんなの長剣でも無理。どこぞの武将には一生なれない。
「ニア、魔法とかない? 風を巻き起こすとか炎で焼き払うとか、バリアーとか出来ない? 異世界なのに? ニアが主人公なのに?」
「簡単な結界以外は出来ませんよ。主人公でもありません」
もう無理だ、完全に当てられる距離になった。馬の足を止められたら逃げる方法はない。いっそお堀に飛び込んで一か八かを狙う? あー武器がないって辛い。さっき長剣盗むべきだったな。
「当たったらごめん、ニア」
身構えたらトカゲが騎馬を蹴散らせてる。は? と思った瞬間、トカゲの車が停まる。橋の上へ馬を駆る。トカゲが後ろをついて来て、橋を渡り切る頃に横に並んだ。隙間から中が見える。レイモンドだ。絶妙のタイミング。
「ニア、無事に脱出だ」
と意気込んで言ってみたのに、最悪だ。
「止まれ!」
レイモンドはそのまま大通りを真っ直ぐに行った。兵は追って来ていない。ただ橋の向こうから一騎かけて来る。
「止まらないで!」
ニアが身を乗り出して後ろを見て顔色を変えた。志津木も振り返る。屈強な男。たぶんアニエスだ。抜刀はしていない。武器は背にある。馬脚を落とす。追いつかれない程度に、声は聞ける程度に。
「なぜ逃げる! お前は私の伴侶と決まっている」
「嫌だ! 絶対に嫌だ!」
ニアが叫ぶ。馬に伏せて震えている。尻尾が体の前に巻き付いている。
「残念だったな、アニエス、ニアは俺が良いんだって」
言い残して速度を上げる。アニエスが兵に合図を送ったのだろう。無数の馬脚の音が響いて来る。街の路地に入る。絶対に逃げ切ってやる。
「どうするの?」
「臨機応変? 適当にするからニアは黙って下向いて」
言われた通りに俯くニアを可愛いと思う。もうチップは無いから、強制的に従わせられていないのに、合わせてくれる。以前のモヤモヤが少し解消した。
目の前で馬が足を止める。先頭の兵が嫌な目つきで睨み落として来るが、志津木は平然と見返した。
「不審者を発見しました。連行します」
志津木から話してみる。敬礼とか必要だったか? 報告には決まり文句があったかも。
「どこの隊の何部の管轄だ! 所属番号を述べよ!」
やっぱり無理だ。
そう判断した時にはナイフを投げて後ろ二人の喉元へ。話していたヤツが後ろを振り返る瞬間に蹴落として馬を奪った。なんで振り返るかな?
「ニア、伏せてろ、正面突破する」
膝の前にニアを乗せて、前が見えないから伏せさせる。攻撃から身を守る事にも繋がるが、概ね身長差のせいってのはニアには言わない志津木だ。
「あーハクとメイのナイフ、使う気無かったのに」
と泣き言を言いながら馬を駆る。
「正面突破できそう?」
馬の立髪を握って伏せてるニアの耳がピクピクしている。尾も下に垂れてて、志津木の足に沿っている。
「正面混み合ってるが、バレてなければイケるだろ……たぶん」
矢を射られて馬を無くすのは困る。せめて街中までは何とかならないかと思いつつ、兵が集ってるんだよな、弓構えてるよな、残っている武器はサバイバルナイフ1本だ。不利にも程がある。撃って来るな、とりあえずまだ距離があるから何とか避けられる。
「落ちるなよ、ニア」
馬が向かって来る。馬上で抜刀している。お前らの国の第二王子を乗せてるんだから、攻撃はマズいんじゃない?
「僕が死んでも誰も困りません」
「悪い、言葉に出てた?」
サバイバルナイフ1本で矢を払う? 無理無理、そんなの長剣でも無理。どこぞの武将には一生なれない。
「ニア、魔法とかない? 風を巻き起こすとか炎で焼き払うとか、バリアーとか出来ない? 異世界なのに? ニアが主人公なのに?」
「簡単な結界以外は出来ませんよ。主人公でもありません」
もう無理だ、完全に当てられる距離になった。馬の足を止められたら逃げる方法はない。いっそお堀に飛び込んで一か八かを狙う? あー武器がないって辛い。さっき長剣盗むべきだったな。
「当たったらごめん、ニア」
身構えたらトカゲが騎馬を蹴散らせてる。は? と思った瞬間、トカゲの車が停まる。橋の上へ馬を駆る。トカゲが後ろをついて来て、橋を渡り切る頃に横に並んだ。隙間から中が見える。レイモンドだ。絶妙のタイミング。
「ニア、無事に脱出だ」
と意気込んで言ってみたのに、最悪だ。
「止まれ!」
レイモンドはそのまま大通りを真っ直ぐに行った。兵は追って来ていない。ただ橋の向こうから一騎かけて来る。
「止まらないで!」
ニアが身を乗り出して後ろを見て顔色を変えた。志津木も振り返る。屈強な男。たぶんアニエスだ。抜刀はしていない。武器は背にある。馬脚を落とす。追いつかれない程度に、声は聞ける程度に。
「なぜ逃げる! お前は私の伴侶と決まっている」
「嫌だ! 絶対に嫌だ!」
ニアが叫ぶ。馬に伏せて震えている。尻尾が体の前に巻き付いている。
「残念だったな、アニエス、ニアは俺が良いんだって」
言い残して速度を上げる。アニエスが兵に合図を送ったのだろう。無数の馬脚の音が響いて来る。街の路地に入る。絶対に逃げ切ってやる。
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