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2章
19 お堀を越える
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ニアは背が高いけど軽い。それは相変わらずだ。向こうからこっちに来た時に、少し持ち直したと思っていたのに、また痩せている。志津木の背にニアの肋が当たっている。腰に回されている足も細くて骨が浮き出ていて可哀想だ。こんなニアに衝撃を加えたら簡単に折れる。そんなニアは見たくない。
蔦にぶら下がりながら壁を降りる。蔦だって強度は弱い。志津木も平均よりは軽い体重だが、二人であれば重い。無事に蔦の下部まで伝ったが、あと二階分がある。前に回っているニアの足を外し、手で支えてと伝え、覚悟を決める。
壁を蹴って勢いを付けて、木へ飛び移った。枝が折れる。次の枝を掴む。さらに次、幹に足をぶつけて速度を削る。生垣に落ち、衝撃を和らげ、着地する。勢いを殺して衝撃を受け流し、地面に腹這いに転がる。ニアの腕を外し、うつ伏せになっているニアを見た。
「もう良いよニア、痛む所はない?」
目を開けたニアは、志津木をじーっと見て、鼻を啜って志津木に抱き付いて来た。怖かったのか、不安だったのか、分からないが、泣くのを堪えているのは分かる。
「逃げるよ、立てる?」
先に立って体の調子を確かめ、壁の上部へ視線を向ける。あそこから飛んだのかと自分の中で武勇伝の如くに昇格させ、満足すると、ニアの手を引いて走り出した。まだ難関がある。堀を越える事だ。橋は王城正面にしかなく、あとは深い緑色の水に浸かって泳ぐ方法しか無さそうだ。
「城壁の外なら正面に回っても良さそう? レイモンドの車があるかもしれないし」
「ダメだ。正面には行きたくない。でもお堀の水には毒素がある。入るのもダメだ」
「兵は? 横道も必要だろ?」
志津木がそう言うと、ニアが指で示す。その場所には赤い印が付いていて、1メール位の幅を開けてもう一つある。
「壁の上部に装置があって、装置を動かすと道が出来る仕組みになっている」
「上部に登れるの?」
ニアが頷く。
「後方の壁に見張り台はない。横壁には等間隔で見張り口がある。内側に階段があって、壁の真ん中に攻撃場所、上部に見張り台がある。普段は交代制で詰めているけど、今は出払っているんだと思う」
見上げても外側には足掛かりもない。開けた場所だ。見つかれば逃げ場がない。そろそろクーデターも決着が付いていそうだ。ニアの不在がバレてもおかしくない。
「こんな所で囲まれるより戦って逃げた方がマシだと思うが——」
馬の蹄の音が近づいて来る。隠れる場所もなく、後方へ逃げても馬脚に敵うはずもない。
「なぁニア、なんで車を引くのがトカゲで乗るのは馬なんだ?」
少々の疑問を口にする。
「トカゲは力が強くて、馬は脚が速い」
ニアの説明に納得した。確かにトカゲの脚は馬より遅そうだ。呑気な会話をしている間に、騎馬が前方の角を曲がって来た。クーデターが終わり、元の配置に戻る衛兵のようだ。事前の観察の通り、前方一騎、後方二騎の編成で向かって来る。ニアの不在がバレた訳では無さそうだ。咄嗟にニアの腕を拘束する。
「兵は全員、ニアの顔を知っているか?」
ニアが首を振る。
だと思った。ニアはこちらに戻って日が浅い。しかも監禁状態だった。門番や衛兵では顔も分からないだろう。
ニアは志津木の意図を汲んで拘束されたままでいる。
騎馬三頭が向かって来ていた。
蔦にぶら下がりながら壁を降りる。蔦だって強度は弱い。志津木も平均よりは軽い体重だが、二人であれば重い。無事に蔦の下部まで伝ったが、あと二階分がある。前に回っているニアの足を外し、手で支えてと伝え、覚悟を決める。
壁を蹴って勢いを付けて、木へ飛び移った。枝が折れる。次の枝を掴む。さらに次、幹に足をぶつけて速度を削る。生垣に落ち、衝撃を和らげ、着地する。勢いを殺して衝撃を受け流し、地面に腹這いに転がる。ニアの腕を外し、うつ伏せになっているニアを見た。
「もう良いよニア、痛む所はない?」
目を開けたニアは、志津木をじーっと見て、鼻を啜って志津木に抱き付いて来た。怖かったのか、不安だったのか、分からないが、泣くのを堪えているのは分かる。
「逃げるよ、立てる?」
先に立って体の調子を確かめ、壁の上部へ視線を向ける。あそこから飛んだのかと自分の中で武勇伝の如くに昇格させ、満足すると、ニアの手を引いて走り出した。まだ難関がある。堀を越える事だ。橋は王城正面にしかなく、あとは深い緑色の水に浸かって泳ぐ方法しか無さそうだ。
「城壁の外なら正面に回っても良さそう? レイモンドの車があるかもしれないし」
「ダメだ。正面には行きたくない。でもお堀の水には毒素がある。入るのもダメだ」
「兵は? 横道も必要だろ?」
志津木がそう言うと、ニアが指で示す。その場所には赤い印が付いていて、1メール位の幅を開けてもう一つある。
「壁の上部に装置があって、装置を動かすと道が出来る仕組みになっている」
「上部に登れるの?」
ニアが頷く。
「後方の壁に見張り台はない。横壁には等間隔で見張り口がある。内側に階段があって、壁の真ん中に攻撃場所、上部に見張り台がある。普段は交代制で詰めているけど、今は出払っているんだと思う」
見上げても外側には足掛かりもない。開けた場所だ。見つかれば逃げ場がない。そろそろクーデターも決着が付いていそうだ。ニアの不在がバレてもおかしくない。
「こんな所で囲まれるより戦って逃げた方がマシだと思うが——」
馬の蹄の音が近づいて来る。隠れる場所もなく、後方へ逃げても馬脚に敵うはずもない。
「なぁニア、なんで車を引くのがトカゲで乗るのは馬なんだ?」
少々の疑問を口にする。
「トカゲは力が強くて、馬は脚が速い」
ニアの説明に納得した。確かにトカゲの脚は馬より遅そうだ。呑気な会話をしている間に、騎馬が前方の角を曲がって来た。クーデターが終わり、元の配置に戻る衛兵のようだ。事前の観察の通り、前方一騎、後方二騎の編成で向かって来る。ニアの不在がバレた訳では無さそうだ。咄嗟にニアの腕を拘束する。
「兵は全員、ニアの顔を知っているか?」
ニアが首を振る。
だと思った。ニアはこちらに戻って日が浅い。しかも監禁状態だった。門番や衛兵では顔も分からないだろう。
ニアは志津木の意図を汲んで拘束されたままでいる。
騎馬三頭が向かって来ていた。
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