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2章

16 逃亡

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 王城の周りは生垣や植木が連なっているので、隠れる場所には事欠かず、軍が正門前に集結している事もあるのか、通る者も少なく感じた。実際は知らないが、一般的に昼間は働く者が多いと思う志津木の考えだけなのだが。
 思ったよりも楽に奥へ進めて拍子抜けしているし、王城内部へ侵入しても、服装が兵の制服だからか、道を譲られる。こういう場合は礼をするべきなのか? 日本では会釈をしがちだが、ここでの作法は知らない。なので横柄な態度を貫いた。変な挨拶をするよりは、あの人態度悪いと思われた方がマシだ。ただ気になるのは聖気のこと。ヘルメット的な物を被り、兵の制服を着ているから人とは分からないからか。奇異の目では見られないが、道を譲られるのは聖気のせいか? となればここでは敬う対象で羨望の眼差しで見られると言うのは理解したが、それが男とのセックスであると思えば気恥ずかしい。
 呑気にそんな事を考えながら堂々と歩いていると、前方から兵が走って来る。脇道にそれ、適当な陰に隠れると、バタバタと走り抜けて行く様が見えた。しかも抜刀している。何かがあったようだが、奥にあれだけの兵が居たのかと思えば、志津木にとっては幸運だ。
 さっさと済ませようと走り出す。奥へ向かっても侍女さえ見なくなり、最奥のエリアへ着いても誰もいない所か、兵が立っていただろう場所にも誰もいない。分かりやすく一つのドアに重い鍵が掛けられている。しかも内部から音がする。ドアを蹴破ろうとしているのだろう。

「ニア?」

 鍵は志津木にも馴染みのある錠前で、ナイフの柄で叩き落とす事が可能だ。鍵の弱い部分を熟知している。

「ヨウ?」

 ニアは志津木の呼び掛けに応えた。しかもたった二文字の名を呼んだだけで。と思い、名を呼び捨てる者が志津木以外にいないのかと悟る。ぬか喜びに恥ずかしさを覚えながら、錠前を叩き落とし、ドアを開けた。
 ニアが胸に飛び込んで来る。久しぶりのニアの姿に、気持ちがホッとした。

「逃げよう」

 ニアが志津木を見上げ、視線を合わせる。久しぶりのニアの瞳を見て可愛いと思った志津木は危機感が薄い。とりあえず守りたい者が手の届く範囲にいる安堵を噛み締める様にニアを抱きしめ、ニアに手を引かれて走る。
 なんだこれ? 恋愛物のサスペンス映画か? とか、無駄な思考を首を振って追いやり、未だ戻らない兵を不自然に思う。

「正門へは行けない。裏から城壁を越える」

 ニアが走りながら伝えて来る。

「ひとりで逃げようとしていたのか?」

「うん、そう」

 振り返ったニアの表情に悲しみが浮かんでいる。

「どうした?」

 志津木の問いに視線を逸らしたニアは、服の袖で顔を拭った。
 泣くほどの何かがあったのか? 志津木は王城の前方を振り返った。何かが起こっているだろうとは思う。王城前に100騎あまりの兵が集結しているのにも違和感があった。何となくこの計画の主にレイモンドも加担しているのではないかと思った。
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