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2章

13 人の転移

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 アダマス国の南国境門を通る時、レイモンドは志津木を従者と説明した。レイモンドは王国騎士隊に属していて、家柄も筆頭4種と呼ばれる名門だ。ただ4男という微妙な生まれながら、聖気を得ている為に、長男に匹敵する身分であるらしいと、道すがらレイモンドは志津木に聞かせた。それはとても得意気に。
 そのおかげで門はすんなり通れたし、内門前にはレイモンドが呼んだ引車が待っていた。志津木としては馬車と呼びたいのだが、引いている動物がトカゲっぽいヤツなので、ああ異世界と思うと馬車とは呼べない。

「おかえりなさいませ」

 執事だろう男がレイモンドを迎え、御者が入口のドアを開け、待っている。

「遅くなってすまない」

 とレイモンド。とても偉そうな態度をしている。通り過ぎる者が立ち止まって見やっているせいかもしれない。噂話が聞こえて来る。あれがクライシス家の4男で聖気を纏うレイモンド様よ、夜遊びばかりしている放蕩息子、娼館のお得意様、金払いが良い、娘に手を出された——うんぬん。夜のお遊び関係の噂が多い。まあ気楽な4男であれば仕方がないのか。とりあえず住民が噂好きっていうのはこちらも変わらないようだ。
 英国風のドアの中へレイモンドが入って行く。流石は貴族、乗り込む姿が様になっている。レイモンドに視線で乗れと言われ、従者の渋面を横目に乗り込む。とても高級な香りと柔らかな座席に思わず身構えてしまう志津木は間違いなく庶民だ。

「ひとまず俺の屋敷に匿うよ」

 レイモンドの「匿う」を聞いて、注目されていたのは自分かと志津木は気づいた。でも噂話に人だというものはなかった。みんなレイモンドの悪口ばかりで——そう考えながら困惑しているとレイモンドが笑う。喉を鳴らして笑い、口元を押さえて控えめに見せながら。

「聖気を纏う意味がわかっただろ? 獣人は山神を畏れている。山神の気を纏った「人」には特別な意味が加わる。害せば滅びを呼び起こす。そういう言伝えが根強く残されている」

 笑いを治めたレイモンドの目は鋭く志津木を見ている。

「そういう人は今まで何人いた?」

 志津木にとってレイモンドが語った内容は迷信だ。たかが一度行為をしただけで滅びを呼び起こすとか。ファンタジー世界だからありえるのか? と思ってみるが、それが自分を指すと思うと一瞬にして冷める。そんな面倒な事に巻き込まれたくない。

「さあ? 正確な人数までは知らないよ。——ただ、最後の一人はニアと共に異世界へ渡ったと聞いている」

 志津木は心臓が変に打ったのを感じ、胸を押さえた。

「こっちにいた人がニアと一緒に俺のいた場所に来ていたって?」

「会わなかったのか?」

「……いや、分からない」

 ニアはひとりだった。だがそれは国に保護されたからだ。「人」であれば志津木のいた場所に紛れ込んで暮らす事も可能だろう。戸籍のない人などいくらでもいる。そういう者が組織に入り暗躍しているのも志津木は知っている。誰だ? と考えてみるが分からない。会っていない確率の方が高い。考えても分からない事は保留する。とにかくニアに会わなければならない。ニアがここでも不幸になるというのなら、志津木の気持ち上有効な、獣人保護法に則り、一緒に生きて行く方がマシなんじゃないかと思えていた。
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