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2章

10 幸せの風景

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 獣舎の掃除を終えて外に出ると、子どもたちが駆けて来る所だった。

「良い朝だね、ヨウ」

 ハクは志津木に抱きついたが、メイはレイモンドに抱きつきに行き、抱え上げられて、肩に乗せられている。力持ちか。獣人の力加減はまあ分かるけど。

「あーヨウ、マティアスとした? におうよ」

 ハクは志津木の服をくんくん嗅いで、問い詰める様に見上げている。

「あーいやーぁーねえ?」

 獣人の嗅覚恐るべし。

「ヨウは偉い人になりたかったの?」

 ハクの小首を傾げる仕草を見ていたが、言葉の意味が分からない。分からないという表情を志津木がしたのだろう、ハクは反対側へ首を傾げた。

「マティアスを抱く事が出来るのは、それなりの地位のある者だけだ」

 レイモンドの説明が入ったが、まだ良く分からない。
 皆んなで飼獣の様子を見ながら牧場を歩いている。レイモンドの肩にいるメイは楽しそうだ。

「マティアスはあれでも相手を選んでいる。——っていうか、常識のあるヤツなら気軽にマティアスに近づかねえ。例え誘われても勿体無いと怖じ気づく。ガツガツ抱けるオマエは非常識すぎる」

 レイモンドの直接的な言葉に大丈夫かとハクを見下ろせば、大きな目が丸く開かれて、驚きに尊敬の様なホクホク感が混じっている。

「ヨウってすごい! 僕も早くマティアスを抱けるくらい良い男になりたい!」

「メイも!」

 ん? メイも? メイって女の子だよね? あれ? 違うのか? 獣人のアレコレが良く分からない。困惑しているとレイモンドに笑われた。感じ悪くフッと笑われて、初異世界なんだから仕方ないだろうと心の中で吐き捨てた。

「コイツら、あと数ヶ月したら成人だぜ? 身体もオマエくらいには成長する」

「へえ、そんなに早く……」

 なるほど、人の成長より動物の成長に似ているのか。

「ボクは剣術を学んで、レイみたいに騎士学校で首席を獲るんだ」

「ボクも剣術を学びたいけど、冒険者になりたい」

「メイは騎士学校の首席で、ハクは冒険者なんだ」

 志津木が繰り返すと、二人は嬉しそうにウンと言う。

「レイモンドは首席騎士なんだ」

 すごいねとレイモンドを見れば、テレているようにも見える。

「だから言っているだろ? マティアスを抱けるのはそれなりの地位か功績のある者だと」

「なるほどね、そうすると俺は——」

「恥知らずのバカだな」

 レイモンドに言われて言葉が続けられなくなる。ハクとメイがひどいって声を合わせた。

「そんな事はないですよ」

 家の近くまで下りれば、マティアスが待っていた。昨夜の熱など少しも感じさせない爽やかな笑顔を見せている。

「マティアス、良い日だね」

 レイモンドは陽気に笑みながらマティアスとすれ違う時に頬にキスをした。肩にメイを乗せたまま。メイがとても嬉しそうで、後ろから見ていた志津木には、とても幸せなひと時に映る。

「レイはお休みの日になるとお手伝いに来てくれるんだよ? マティアスの恋人みたいだよね」

 志津木の側にいたハクがそう言って走ってマティアスの隣に並ぶ。本当に幸せの風景に見える。楽しげな笑い声が空に上って行く。
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