上 下
17 / 43

17 旅立ち

しおりを挟む
 ティアはすぐにアシュのマントに包まれることになり、そのまま竜の背に乗せられた。

「お前の姿は誰にも見られてはならないものだ。絶対にマントを深くかぶっていろ、いいな」

 アシュの膝の前に乗せられ、腰がアシュと結びつけられた。そのまま飛翔をし、ティアは動揺を隠せない。

「アシュ様、アシュ様、これは、いったい」

 混乱のまま言葉にすれば、アシュはティアの腰を強く抱き、耳元に顔を寄せる。

「おまえは神子だ。わかるか?」

「……兄さまと、一緒の?」

「そうだ、おまえが次の神子だ。俺が傍にいることがわかったうえで、神はあの瞬間に天啓を示したのだろう。俺におまえを神殿まで連れて行けということだ。クソッ」

「アシュ様?」

 悔しそうな声が後ろから聞こえる。ティアはまだ混乱している。
 状況はわかった。兄と同じ神子になる。これから行く先は神殿で、きっと兄と会っていた部屋に連れて行かれるのだろう。

「おまえが黒髪黒目から神がかりに色を変えた時、気づくべきだった。獣人国にだけ災害が起こらないことを怪しむべきだった。神はおまえが成人を迎える日を待っていたんだ。クソッ、どれだけ俺を翻弄すれば良いんだ」

「アシュ様? 僕は何の教育も受けていません。神官見習いの時だって、ほとんど講義を受けていませんでした。なのに神子になれるのでしょうか」

 ティアは不安だ。兄のように長く神官として勤めていたわけではない。どちらかといえば軍人になれたら良いなと思うくらいで、やっと2年が過ぎたから、ひとりで生きて行こうと決めたばかりで……。

「神の意を聞くのが神子の仕事だ。神が選んだ。勤まるもなにも、おまえにしかできない仕事だ」

「……そうなんですか。これって名誉なことですか? なのになぜアシュ様は怒っているのでしょう」

 ティアがそう言うと、アシュは一層強くティアの腰を抱いた。

「おまえはすでに天啓を受けた。だからもう神のものなんだよ。俺はおまえに何も告げることはできない。告げれば俺が罰せられる。ティア、俺はおまえの幸せを望んでいた。ごく普通に、ただの人として、好きな人と結ばれ、幸せに生きて行くのを見守ろうと思っていたんだ。なのに……」

 アシュの後悔が背中に伝わる。

「アシュ様には本当に良くして頂きました。たくさんご迷惑を掛けてしまったのに、何も返せずにすみません。でもアシュ様は僕の身受け候補になってくれるのでしょう? この先も、会うことができますね」

 ティアがそう言うと、アシュは苦しそうな声を出した。嗚咽だろうか、泣いているのだろうか。ティアは竜の飛翔により受ける風で、後ろを見ることができなかった。

「本当は会わない方が良いのかもしれない。だが、俺はひどい男だ。ティア、俺を嫌ってくれても構わない。もしそうであるなら、告げてくれ。すぐに候補を降りよう」

 ティアの頬にアシュの唇が触れる。
 上空の風に冷えた唇が、冷えた頬に触れた。
 触れたのだろう。ティアには良くわからなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

売れ残りの神子と悪魔の子

のらねことすていぬ
BL
神子として異世界トリップしてきた元サラリーマン呉木(くれき)。この世界では神子は毎年召喚され、必ず騎士に「貰われて」その庇護下に入る、まるで結婚のような契約制度のある世界だった。だけど呉木は何年経っても彼を欲しいという騎士が現れなかった。そんな中、偶然美しい少年と出会い彼に惹かれてしまうが、彼はとても自分には釣り合わない相手で……。 ※年下王子×おじさん神子

兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します

月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。

秋元智也
BL
大人気小説『星降る夜の聖なる乙女』のゲーム制作に 携わる事になった。 そこで配信前のゲームを不具合がないか確認する為に 自らプレイしてみる事になった。 制作段階からあまり寝る時間が取れず、やっと出来た が、自分達で不具合確認をする為にプレイしていた。 全部のエンディングを見る為に徹夜でプレイしていた。 そして、最後の完全コンプリートエンディングを前に コンビニ帰りに事故に遭ってしまう。 そして目覚めたら、当て馬キャラだった第二王子にな っていたのだった。 攻略対象の一番近くで、聖女の邪魔をしていた邪魔な キャラ。 もし、僕が聖女の邪魔をしなかったら? そしたらもっと早くゲームは進むのでは? しかし、物語は意外な展開に………。 あれ?こんなのってあり? 聖女がなんでこうなったんだ? 理解の追いつかない展開に、慌てる裕太だったが……。

黒騎士はオメガの執事を溺愛する

金剛@キット
BL
レガロ伯爵邸でオメガのアスカルは先代当主の非嫡出子として生まれたが、養父の仕事を引き継ぎ執事となった。 そこへ黒騎士団の騎士団長アルファのグランデが、新しい当主レガロ伯爵となり、アスカルが勤める田舎の伯爵邸に訪れた。 アスカルは自分はベータだと嘘をつき、グランデに仕えるが… 領地にあらわれた魔獣退治中に運悪く魔道具が壊れ、発情の抑制魔法が使えなくなり、グランデの前で発情してしまう。 発情を抑えられないアスカルは、伯爵の寝室でグランデに抱かれ――― ※お話に都合の良いユルユル設定のオメガバースです。 😘溺愛イチャエロ濃いめのR18です! 苦手な方はご注意を! ツッコミどころ満載で、誤字脱字が猛烈に多いですが、どうか暖かい心でご容赦を_(._.)_☆彡

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...