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11 軍養成所所属
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体を元に戻し、歩けるだけの体力を付けるのに半年かかった。
その間、ティアの頭の中にあったのは、アシュに迷惑を掛けないことと、感情を揺らすなということだ。
一人で歩けるようになったティアは、アシュの持つ領内ではなく、獣人国の王都にある平民の軍養成所に身を寄せることになった。ここには獣人だけではなく、獣人と人のハーフでも人の色の濃い者や、人もいる。だからティアがここに入っても、獣人だけの軍よりは目立たなくなった。ただ扱いは平民以下だ。人の国とは立場が逆転する。獣人よりも人の地位の方が低い。
「ティア、朝から走って来たのか?」
同期で入所した、ゲランは狼と人のハーフだ。ゲランの父親はアシュの部下で王都のアシュの屋敷を守る警備軍のひとりだ。アシュがティアの平民が集う軍養成所へ入所するのを許したのも、ゲランの存在が大きい。
「うん、王都の門の内側を走って来た。全部は無理だったけどね」
「外には出るなよ!」
「わかってるよ」
獣人国の王都は上空から見るとほぼ円形をしている。その円には結界が張られていて、許可の無い者の侵入を拒んでいる。一定の機関の入都の場合は許可証が発行されるが、獣人国民はみな左肩の内側に紋が入っており、その紋が許可証の代わりをする。獣人と婚姻して獣人国に住む場合も、左肩内側に紋が入れられる。それは獣人国の許可を失うと、自然に消えるらしく、紋は魔術と同じ扱いらしい。
ティアにも期間限定の紋が入れられている。それは更新制のもので、今は軍養成所の期間である3年が期限だ。
「水浴びに行くか?」
「そうだな、ついでに朝ごはんも食べないと」
王都には人工的な川が流れている。箇所個所にため池があって、そこで洗濯をしたり水浴びをしたりする。飲み水は井戸からくみ上げるポンプ式で、街の角々にライオンの口から流れる水飲み場もある。
王都にはライオンのモチーフが多い。王がライオン族であるからだ。
「ここはずっと暑いって本当?」
昼間の気温は35度くらい。でも湿度が低いから不快感はあまりない。もう少し経つと日中45度を超える時も出て来るらしく、そういう時は夜が涼しくなるらしい。あとは雨季。ひと月ほど雨が降り続く期間もある。
「まだ暑いとは言えないよ。気持ちのいいくらいだ」
ゲランは水場に着くと服を全部脱いで水に入って行く。場所は限られるが、全裸になって良い場所がある。大抵は軍人の訓練後に使用される水場で、早朝はあまり人はいない。
「俺、暑いの耐えられる気がしない」
ティアも服を脱いで水浴びをする。ゲランの前で全裸になるのはもう慣れたけど、体格の違いが恥ずかしい。ゲランは身長185センチくらい、体格が良く、筋肉質だ。というか、狼族はみんな体格が良い。均等の取れた戦士だとわかる筋肉は、見れば見るほど惚れ惚れする。いくら頑張ってもティアにはなれない体格だ。それでもゲランは並みの体型で、2mを超す身長の者もいるし、もっと迫力のある筋肉の持ち主もいる。ゴリラ、サイ、キリン、ゾウ、ネコ科の動物は種類ごとにいるし、獣人国は種族ごとの領と混合の領があり、王都は混合だ。
「そういえばさ、来週に神国参拝があるんだけど、ティアは行かないよな?」
まるでお風呂のように水に浸かっているゲランだ。冷たくないのかと思う。
「行かないよ」
ゲランはティアの事情を少しだけ知っている。でもそれは前神子の弟ではなく、神官見習いをクビになったお尋ね者という扱いでだ。だから神国への参拝が禁じられていて、お尋ね者だから王都の結界から出られない。そんな感じの説明をアシュから受けたらしかった。
「新しい神子様の姿絵買って来てやるな」
「……いらないよ」
「不謹慎だな。そういえばまたアシュ様が神子様の身受け候補になったって。今度こそ実物の神子様を見てみたいな」
ティアはゲランの話を聞いて手を止める。水が冷たくて良かったと、頭から水をかぶった。
「そうなんだ。さすがアシュ様だね」
「ティア、顔色が悪いよ。朝から頑張りすぎたんじゃない?」
「そうかな、そう、だね。部屋に戻って休んで来るよ」
ティアは水場から離れ、服を着て、逃げるようにその場を去った。
その間、ティアの頭の中にあったのは、アシュに迷惑を掛けないことと、感情を揺らすなということだ。
一人で歩けるようになったティアは、アシュの持つ領内ではなく、獣人国の王都にある平民の軍養成所に身を寄せることになった。ここには獣人だけではなく、獣人と人のハーフでも人の色の濃い者や、人もいる。だからティアがここに入っても、獣人だけの軍よりは目立たなくなった。ただ扱いは平民以下だ。人の国とは立場が逆転する。獣人よりも人の地位の方が低い。
「ティア、朝から走って来たのか?」
同期で入所した、ゲランは狼と人のハーフだ。ゲランの父親はアシュの部下で王都のアシュの屋敷を守る警備軍のひとりだ。アシュがティアの平民が集う軍養成所へ入所するのを許したのも、ゲランの存在が大きい。
「うん、王都の門の内側を走って来た。全部は無理だったけどね」
「外には出るなよ!」
「わかってるよ」
獣人国の王都は上空から見るとほぼ円形をしている。その円には結界が張られていて、許可の無い者の侵入を拒んでいる。一定の機関の入都の場合は許可証が発行されるが、獣人国民はみな左肩の内側に紋が入っており、その紋が許可証の代わりをする。獣人と婚姻して獣人国に住む場合も、左肩内側に紋が入れられる。それは獣人国の許可を失うと、自然に消えるらしく、紋は魔術と同じ扱いらしい。
ティアにも期間限定の紋が入れられている。それは更新制のもので、今は軍養成所の期間である3年が期限だ。
「水浴びに行くか?」
「そうだな、ついでに朝ごはんも食べないと」
王都には人工的な川が流れている。箇所個所にため池があって、そこで洗濯をしたり水浴びをしたりする。飲み水は井戸からくみ上げるポンプ式で、街の角々にライオンの口から流れる水飲み場もある。
王都にはライオンのモチーフが多い。王がライオン族であるからだ。
「ここはずっと暑いって本当?」
昼間の気温は35度くらい。でも湿度が低いから不快感はあまりない。もう少し経つと日中45度を超える時も出て来るらしく、そういう時は夜が涼しくなるらしい。あとは雨季。ひと月ほど雨が降り続く期間もある。
「まだ暑いとは言えないよ。気持ちのいいくらいだ」
ゲランは水場に着くと服を全部脱いで水に入って行く。場所は限られるが、全裸になって良い場所がある。大抵は軍人の訓練後に使用される水場で、早朝はあまり人はいない。
「俺、暑いの耐えられる気がしない」
ティアも服を脱いで水浴びをする。ゲランの前で全裸になるのはもう慣れたけど、体格の違いが恥ずかしい。ゲランは身長185センチくらい、体格が良く、筋肉質だ。というか、狼族はみんな体格が良い。均等の取れた戦士だとわかる筋肉は、見れば見るほど惚れ惚れする。いくら頑張ってもティアにはなれない体格だ。それでもゲランは並みの体型で、2mを超す身長の者もいるし、もっと迫力のある筋肉の持ち主もいる。ゴリラ、サイ、キリン、ゾウ、ネコ科の動物は種類ごとにいるし、獣人国は種族ごとの領と混合の領があり、王都は混合だ。
「そういえばさ、来週に神国参拝があるんだけど、ティアは行かないよな?」
まるでお風呂のように水に浸かっているゲランだ。冷たくないのかと思う。
「行かないよ」
ゲランはティアの事情を少しだけ知っている。でもそれは前神子の弟ではなく、神官見習いをクビになったお尋ね者という扱いでだ。だから神国への参拝が禁じられていて、お尋ね者だから王都の結界から出られない。そんな感じの説明をアシュから受けたらしかった。
「新しい神子様の姿絵買って来てやるな」
「……いらないよ」
「不謹慎だな。そういえばまたアシュ様が神子様の身受け候補になったって。今度こそ実物の神子様を見てみたいな」
ティアはゲランの話を聞いて手を止める。水が冷たくて良かったと、頭から水をかぶった。
「そうなんだ。さすがアシュ様だね」
「ティア、顔色が悪いよ。朝から頑張りすぎたんじゃない?」
「そうかな、そう、だね。部屋に戻って休んで来るよ」
ティアは水場から離れ、服を着て、逃げるようにその場を去った。
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