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112 未来 (終)
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目覚めたらとなりにエルがいた。
ほんのりと甘い香りを含んだ風が頬を撫でて行く。
「起きた?」
エルが静かに微笑んでいる。
「エル?」
とても美しいエルが隣にいて、微笑みを湛えている姿を見て、どこの世界に迷い込んでしまったのかと思う。それくらいエルの美貌は進化をしながら輝き続けている。
「ありがとう紘伊」
エルの指先が優しく紘伊の髪を撫でている。
「なにが?」
エルを見ながら、だいたいの状況を思い出している。
ハーツに抱かれ、意識を飛ばして迎えた朝だ。といっても部屋の雰囲気から、朝とは呼べない時間になっていると悟る。
「紘伊がハーツを受け入れてくれた事だよ」
「エルは俺がハーツを受け入れるの拒んでなかった?」
紘伊はイタズラに笑んで見せる。そうするといつもは拗ねるエルだけど、今は違う。ゆるく首を振って微笑み続けている。
「これで紘伊もハーツと同じくらい生きられるようになったんだよ。でもね、エルはもっと長く生きるんだよ。だからね、エルは紘伊の子を、この子の未来を見守って行く役割をもらったんだよ。紘伊がエルに生きて行く意味を教えてくれたんだよ」
紘伊は意識せずままに手を腹に置いた。その手の上にエルの手が重なる。
「まだほんの小さな希望でしかないけどエルにはわかるよ」
「そう」
紘伊はエルの言葉が自然に受け入れられている。そういう自分の感覚に安堵を覚えた。
「ハーツに告げる?」
エルに首を振って見せた。
「まだ良いよ。様子をみて、エルじゃなくても分かるようになったら、自然にね、伝わったら良いと思うから」
「うん、わかった言わないよ。でもね、紘伊、エルはこの子とツガイになるよ、許してくれる? そうしたら紘伊とエルは本当の親子になれる。そうでしょう?」
「そうだね、エル。でも、この子がエルをツガイと認めたら、だからね」
エルの望むもの。紘伊との繋がりを確かなものにしたいという望み。
「楽しみだね、紘伊」
「そうだね」
微睡がやって来る。
眠いのは子が宿ったせいか、それとも昨夜のハーツのせいなのか。
「紘伊、眠るの?」
「うん、ごめん、眠い」
髪を撫でるエルの優しい動きに目を閉じる。
「いいよ、紘伊、ゆっくり眠って。次に目が覚めた時は、ハーツがいるから」
「うん、ありがとう」
微睡んで、微睡んで、夢を見た気がする。でも覚えていられないような緩い夢だ。ぼんやりとした視界の中、ゆるゆるとした緩慢な動きの中で、ただ意識だけがある。
「ヒロイ、目覚めたのか?」
名前を呼ばれて意識が浮上する。
「うん、ハーツ、もう少し……」
ハーツに抱きついて胸に顔を埋めた。
紘伊の額を撫でている手の薬指に硬い物がある。紘伊の薬指にある物と同じ。
ハーツが人の儀式を用いてしてくれたプロポーズ。紘伊は元々そういったものに夢はない。でもハーツの優しさが好きだ。
「ハーツ大好き」
胸の獣毛が好き。大きくて厚い体が好き。本当は鋭い爪があるのに優しい手が好き。
「今日はあまえんぼうなんだな」
あと少しだけハーツの腕に包まれた安全な場所で、温かな幸せにひたっていたい。
あの頃、大きな体に包まれてもふもふを堪能しながら抱かれたいと思っていた。対等でいられて信頼を築ける関係が好ましいと思っていた。
ハーツは紘伊の理想と願望そのものだ。あの日、出会えて本当に良かった。
「ゆっくりおやすみ」
額にキスされて頬を撫でられる。
「ありがとう、ハーツ」
おわり
◇◇◇
ここで終わりにしたいと思います。
途中でダラダラしてしまい反省いっぱいです。でも好き勝手に書けて楽しかったです。ありがとうございました。
ほんのりと甘い香りを含んだ風が頬を撫でて行く。
「起きた?」
エルが静かに微笑んでいる。
「エル?」
とても美しいエルが隣にいて、微笑みを湛えている姿を見て、どこの世界に迷い込んでしまったのかと思う。それくらいエルの美貌は進化をしながら輝き続けている。
「ありがとう紘伊」
エルの指先が優しく紘伊の髪を撫でている。
「なにが?」
エルを見ながら、だいたいの状況を思い出している。
ハーツに抱かれ、意識を飛ばして迎えた朝だ。といっても部屋の雰囲気から、朝とは呼べない時間になっていると悟る。
「紘伊がハーツを受け入れてくれた事だよ」
「エルは俺がハーツを受け入れるの拒んでなかった?」
紘伊はイタズラに笑んで見せる。そうするといつもは拗ねるエルだけど、今は違う。ゆるく首を振って微笑み続けている。
「これで紘伊もハーツと同じくらい生きられるようになったんだよ。でもね、エルはもっと長く生きるんだよ。だからね、エルは紘伊の子を、この子の未来を見守って行く役割をもらったんだよ。紘伊がエルに生きて行く意味を教えてくれたんだよ」
紘伊は意識せずままに手を腹に置いた。その手の上にエルの手が重なる。
「まだほんの小さな希望でしかないけどエルにはわかるよ」
「そう」
紘伊はエルの言葉が自然に受け入れられている。そういう自分の感覚に安堵を覚えた。
「ハーツに告げる?」
エルに首を振って見せた。
「まだ良いよ。様子をみて、エルじゃなくても分かるようになったら、自然にね、伝わったら良いと思うから」
「うん、わかった言わないよ。でもね、紘伊、エルはこの子とツガイになるよ、許してくれる? そうしたら紘伊とエルは本当の親子になれる。そうでしょう?」
「そうだね、エル。でも、この子がエルをツガイと認めたら、だからね」
エルの望むもの。紘伊との繋がりを確かなものにしたいという望み。
「楽しみだね、紘伊」
「そうだね」
微睡がやって来る。
眠いのは子が宿ったせいか、それとも昨夜のハーツのせいなのか。
「紘伊、眠るの?」
「うん、ごめん、眠い」
髪を撫でるエルの優しい動きに目を閉じる。
「いいよ、紘伊、ゆっくり眠って。次に目が覚めた時は、ハーツがいるから」
「うん、ありがとう」
微睡んで、微睡んで、夢を見た気がする。でも覚えていられないような緩い夢だ。ぼんやりとした視界の中、ゆるゆるとした緩慢な動きの中で、ただ意識だけがある。
「ヒロイ、目覚めたのか?」
名前を呼ばれて意識が浮上する。
「うん、ハーツ、もう少し……」
ハーツに抱きついて胸に顔を埋めた。
紘伊の額を撫でている手の薬指に硬い物がある。紘伊の薬指にある物と同じ。
ハーツが人の儀式を用いてしてくれたプロポーズ。紘伊は元々そういったものに夢はない。でもハーツの優しさが好きだ。
「ハーツ大好き」
胸の獣毛が好き。大きくて厚い体が好き。本当は鋭い爪があるのに優しい手が好き。
「今日はあまえんぼうなんだな」
あと少しだけハーツの腕に包まれた安全な場所で、温かな幸せにひたっていたい。
あの頃、大きな体に包まれてもふもふを堪能しながら抱かれたいと思っていた。対等でいられて信頼を築ける関係が好ましいと思っていた。
ハーツは紘伊の理想と願望そのものだ。あの日、出会えて本当に良かった。
「ゆっくりおやすみ」
額にキスされて頬を撫でられる。
「ありがとう、ハーツ」
おわり
◇◇◇
ここで終わりにしたいと思います。
途中でダラダラしてしまい反省いっぱいです。でも好き勝手に書けて楽しかったです。ありがとうございました。
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いつもありがとうございます。