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どう考えてもハーツと離れる未来は考えられなくて、それよりもエルやユウや向こうから連れて来た子たちと楽しく暮らして行ける未来が良くて、その中にハーツと紘伊の子がいたらと思うと、それはとても幸せな事なのだと思えた。
怖いのは紘伊自身の持つ元の世界の尊厳だけで——ハーツとだったら越えて行けると信じようと思った。
紘伊は思い立ったら即行動派だ。それゆえに厄介な事に巻き込まれがちだが、そもそも獣人を望んだのは紘伊だ。むしろ紘伊が子を成せるから、ハーツと出会えたとも思える。ハーツは子を望むとは言っていない。でもハーツの子を成す事がツガイとしての役割であるのなら、その役割を果たしたいと望む。
ウェルズ領中央区の外れに位置する竜飛行場へ行くと顔パスで優先に竜機が回されて来る。少人数用の竜機はタクシーのような扱いだ。しかも紘伊の行動はすぐに王代理に伝えられるから、紘伊が王城上部の飛行場へつくと、ハーツが従者と護衛を引き連れて待っていた。
竜機からおりて竜の羽ばたきによる風に飛ばされないようにしていると、ハーツが駆け寄って来て、腕の中に閉じ込められた。本当に久しぶりなハーツの匂いと感触に眩暈がするほど昂る。ハーツに肩を抱かれて王城内へ向かって行く。左右前後に護衛が付き、すぐ後ろに秘書官が着いて来る。秘書官は前王の頃にも王城で働いていた獅子族の者で、ハーツに心酔している部分があるから、紘伊への当たりが強い。紘伊が前触れもなく王城へ現れたから、ぶつぶつと愚痴を言っている。ハーツ様の邪魔になるとか仕事がとどこおるとか身分をわきまえろとか。でも紘伊の耳に届いているのだ、獣人であるハーツに聞こえない訳もなく——王城内へ入った瞬間、ハーツの鋭い視線が秘書官に向き、一瞬、秘書官が甘言を期待して頬を高揚させたのを見逃さなかったのだけど、そんなのは一瞬で黙らされる。ハーツの冷酷な睨みは相手を震え怯えさせる。秘書官は震え上がって顔色を悪くし、壁に寄りかかる程のダメージを受けていた。ハーツに肩を抱かれている紘伊にはどうする事もできない。侮辱されて助けるなんて気持ちも持てないのもある。
ハーツの側で長く護衛をしている者でさえ、ハーツの行動に否を言う事はないのに。側にいすぎるとハーツの誠実さに勘違いをするようになる傾向がある。ハーツの優しさは一定の距離を保ち、職務に従順であればこそだ。例外は紘伊だけ。紘伊だけがハーツの歩みを止められる。
ハーツに用があっただろうアルチェ——ハーツの弟で今はハーツの補佐を務めている——が、紘伊がいるのを見て、用を諦めて踵を返した。
怖いのは紘伊自身の持つ元の世界の尊厳だけで——ハーツとだったら越えて行けると信じようと思った。
紘伊は思い立ったら即行動派だ。それゆえに厄介な事に巻き込まれがちだが、そもそも獣人を望んだのは紘伊だ。むしろ紘伊が子を成せるから、ハーツと出会えたとも思える。ハーツは子を望むとは言っていない。でもハーツの子を成す事がツガイとしての役割であるのなら、その役割を果たしたいと望む。
ウェルズ領中央区の外れに位置する竜飛行場へ行くと顔パスで優先に竜機が回されて来る。少人数用の竜機はタクシーのような扱いだ。しかも紘伊の行動はすぐに王代理に伝えられるから、紘伊が王城上部の飛行場へつくと、ハーツが従者と護衛を引き連れて待っていた。
竜機からおりて竜の羽ばたきによる風に飛ばされないようにしていると、ハーツが駆け寄って来て、腕の中に閉じ込められた。本当に久しぶりなハーツの匂いと感触に眩暈がするほど昂る。ハーツに肩を抱かれて王城内へ向かって行く。左右前後に護衛が付き、すぐ後ろに秘書官が着いて来る。秘書官は前王の頃にも王城で働いていた獅子族の者で、ハーツに心酔している部分があるから、紘伊への当たりが強い。紘伊が前触れもなく王城へ現れたから、ぶつぶつと愚痴を言っている。ハーツ様の邪魔になるとか仕事がとどこおるとか身分をわきまえろとか。でも紘伊の耳に届いているのだ、獣人であるハーツに聞こえない訳もなく——王城内へ入った瞬間、ハーツの鋭い視線が秘書官に向き、一瞬、秘書官が甘言を期待して頬を高揚させたのを見逃さなかったのだけど、そんなのは一瞬で黙らされる。ハーツの冷酷な睨みは相手を震え怯えさせる。秘書官は震え上がって顔色を悪くし、壁に寄りかかる程のダメージを受けていた。ハーツに肩を抱かれている紘伊にはどうする事もできない。侮辱されて助けるなんて気持ちも持てないのもある。
ハーツの側で長く護衛をしている者でさえ、ハーツの行動に否を言う事はないのに。側にいすぎるとハーツの誠実さに勘違いをするようになる傾向がある。ハーツの優しさは一定の距離を保ち、職務に従順であればこそだ。例外は紘伊だけ。紘伊だけがハーツの歩みを止められる。
ハーツに用があっただろうアルチェ——ハーツの弟で今はハーツの補佐を務めている——が、紘伊がいるのを見て、用を諦めて踵を返した。
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