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72 ウェルズ領への帰還

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 獅子軍が紘伊とトオルを守りながら街道を騎馬で進んで行く。

 長い時間を馬上で過ごしすぎて体が痛くてたまらないけど、早くウェルズ領に行きたいという気持ちから耐えている。

 獅子軍はどこかの遠征を終えて帰還する所なのだろう。よく見れば負傷者もいるし、疲れた様子もある。

 休憩は挟まないとキースから最初に告げられていて、街道途中にある宿場町では馬を交換して、所用を済ませ、進み続けている。強行は最初から決められていた行動なのだろう。箇所箇所に獅子軍の兵が用意をして待っている。

 多くの獅子軍の兵を見て来たけど、その中にハーツの姿はない。紘伊は宿場町に着くたびにハーツがいる事を期待してしまうのだけれど、期待通りには行かなくて、でもハーツの事を聞くのも怖く、結果、言葉もなく馬上にある。

 空気が変わって行く。日差しが強くなり、空気が渇いて行く。専用の水入れを持たせてくれているし、携帯の食事も持たせてもらっている。軍は数日なら休まず馬上にいられるらしく、それを紘伊もトオルも強要されているけど、休みたいとは言えずにいる。もちろん座る方向を替えさせてもらったり、座布団のような物を敷かせてもらえたりしている。

「もうすぐウェルズ領に入る」

 ほとんど会話をしないキースが告げて来る。馬上でウトウトするのにも慣れて、足が馬の背の形で固定されそうな頃、2度夜を経験した頃でもある。風景はハーツと共に来た過去を思い出させて来る。

「俺ってウェルズ領に入っても大丈夫ですか?」

 ハーツがいない。もしハーツに見限られているのだとしたら、紘伊には優しくされる謂れがない。キースは紘伊の問いかけに答える事はなかった。

 ウェルズ領の境界にある見張り台から笛の音が響く。それが軍の帰還の合図なのだろう。門へ続く道に獅子の獣人が立ち、軍の帰還を声援で迎える。その盛大さに驚いてしまった。

「ヒロイせんせー」

 街の中を進み、領主城へ近づけば、ユウたちが領主城前の沿道で手を振ってくれた。ハーツがいない。馬の足が止まり、駆け寄って来た兵の手を借りて道に降りた。

「部屋を用意してある。ユウに着いて行くといい」

 馬上からキースに告げられた。

「ありがとうございました」

 隣にトオルがいる。沿道の獣人はキースが連れて来た人を警戒しているようだったけど、あからさまに非難する者はいなかった。ユウが懐いてくれているからかもしれない。ユウと手を繋いでゆっくり足取りを確かめながら歩いて行く。

「ハーツはまだ帰っていないよ」

 ユウが満面の笑みで教えてくれた。

「早く会いたいよね? 楽しみだね」

 鼻歌でも歌い出しそうに笑顔で歩くユウに合わせて笑んで見せているけど、内心は怖くて仕方がない。隣にいるトオルはずっと怯えっぱなしだ。それでも倒れたりはしていない。

 獅子軍は沿道の民衆に手を振られて声援を受けながら、領主城の中へ入って行った。
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